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いつものように…いや、いつもより寝起きが悪かったヲノ。
前日、人を助けるためにそこそこの激闘を繰り広げたため
ものすごく疲れていて武器屋のおっちゃんのちょっとやそっとの掛け声では起きず
ダインを起こすためのフライパン目覚ましで起きたヲノ。そのため耳の奥がジンジンする機嫌が悪い寝起き。
それでも起きないダインをどうにかこうにか起こし、2人並んで歯を磨き、顔を洗う。
「耳まだ変…。若干キーンってしてるわ」
不機嫌な顔で耳を引っ張るヲノ。
「すまんすまん。全然起きないんでな」
「ふつーに起こしてくれ」
「いや、こいつ(ダイン)もいるから、もういっそのことまとめて。と思ってな」
「ダインのせいか」
と斜向かいで朝からとんでもない量の、ヘビィな朝ご飯を食べるダインを見るヲノ。
といつもとは少し違う雰囲気で朝ご飯を食べ終えていつもとは違うことをする。
いつもならどこか浄め場へ向かってマナトリアを浄めるのだが
その日はヲノ、ダイン、武器のおっちゃん、3人でNeutral Keeperが働いている場所
Neutral Keeplayの医療部門の場所へと赴いた。
というのも前日に助けた人のあれやこれやのために医療部門のNeutral Keeperの方に呼ばれていたのだ。
受付のニッポンジンのお姉さんがヲノたちのことを覚えていて
主治医のエルフのお姉さんの元に案内してくれて話すことになった。
「特徴から見るに彼女はニッポンジンの女性です」
「へぇ〜。お前たちの話、ほんとだったんだな」
武器屋のおっちゃんが感心し、ヲノとダインはジト目で武器屋のおっちゃんを見る。
「本人からもニッポンジンであるということを聞きまして」
「あ、目、覚めたんですか?」
とヲノが言うと
「え?えぇ」
と少し不思議そうな、キョトン顔でエルフのお姉さんが言う。その後クスッっと笑い
「余程ご心配だったんですね」
と言って続ける。
「腹部にダメージを受け気絶していたようで
そのダメージを取ったら穏やかな顔になって、そのままお眠りになられて
今朝目をお覚めになられまして、いろいろお聞きしました。
本人曰く水人機械之都(みずときかいのみやこ)に住まわれているらしく
ムアニエルには探し物で訪れたようです」
という話をエルフのお姉さんから聞いた後、ヲノとダインが助けた女性の元へ案内してもらった。
そこには白いベッドの上に座った黒い綺麗な髪の女性がいた。部屋に入った音で振り返る。
「柊さん、こちらが柊さんを助けてくださったお2人です」
とエルフのお姉さんが言うとベッドから降りようとしたので
「あ、そのままで大丈夫ですよ」
と武器屋のおっちゃんが止める。なので女性はベッドの上で
「では、ベッドの上で失礼します。この度は助けて…いた…」
お礼を言おうとしたが
助けてくださった“お2人”です
というエルフのお姉さんの言葉が引っかかる。目の前には3人いる。キョトンと「?」顔で顔を傾けるが
「この度は助けていただき、本当にありがとうございました」
と頭を下げてお礼を述べた。
「あ、いえ」
とダインが笑顔で言う。
「あ…全然…」
ダインの体に体を半分隠しながら照れながら言うヲノ。
その時点で助けてくれたのは反応した2人だと確信した女性。
ということはもう1人のおじさまはなんなのだろうと武器屋のおっちゃんに視線を向ける。
「あなたはー…」
と言うとその先を察した武器屋のおっちゃんが
「あ、オレはただの付き添い人なので。こいつらの保護者みたいなもんです」
と照れながら言った。
「そうだったんですね」
Neutral Keeperの方がイスを用意してくれてイスに座る3人。
「あらためまして、私(わたくし)柊(ひいらぎ)愛(あい)と申します」
「あ、オレはダイン・ボルニ・アマキクっていいます。よくダインって呼ばれてます」
「ダインさん。ありがとうございます」
「あ、いえいえ。当然のことをしたまでです!」
と照れつつも胸を張って鼻息を荒くしながら言うダインに
オレが気づいたんだけどな
という視線を向けるヲノ。
「オレはこの2人の保護者みたいなもんでキャブ・ヤッチ・ノンオっていう名前です。
城下町で武器を売ってるしがない武器屋です」
「キャブさん。ありがとうございます」
「いやいや、オレはなんもしてないですから」
と言いつつも鼻の下、上唇の上、人中と呼ばれる部分に太い人差し指を乗せ
ドヤ顔でさすさすする武器屋のおっちゃんにジト目を向けるダインとヲノ。
「そちらの方はー…」
ヲノに視線を移す愛。相変わらずダインの体に半分体が隠れる状態だったが
「ほら、ヲノが見つけたんだから」
とダインに背中を押されてイスから体が浮き、よろけながら前に出されるヲノ。
「あっ…いや、オレは…ヲノ…」
と言いながら
フルネームはマズい。メモトゲの者と知られたらマズい。
いや、でもムアニエルで暮らしているヒトでなければメモトゲ家のことも
ましてやそこの末っ子の存在なんて知らないかもいれない。でもここはNeutral Keeplay。
メモトゲ家に出入りしているNeutral Keeperと仲が良いNeutral Keeperもいるだろうし
仮に柊さんが知らなかったとしても、やはりメモトゲの名を出すのはマズい
と考え
「…ヲノ…です」
とフルネームは名乗ることはしなかった。
ニッポンジンという種族は生まれたときから軽い読心術が備わっているが
そもそも読心術という能力は心を読みたい相手の普段の言動を知って
そこから普段と違う微細な変化などから心を読むという能力である。
なので心を読む相手と話せば話すほど、接せれば接するほど心は読みやすくなる。なので愛も
フルネームを名乗らない?なにか事情があるのかな
と思い、心を読もうと試みたがヲノとはまだ2言くらいしか交わしていないため
ヲノの周囲には曇り空のように厚い雲がかかっているように感じた。
「体はもう大丈夫なんすか?」
「あぁ」
と言ってお腹をさする愛。
「皆さんのお陰様で全然大丈夫です。夕方にもう一度検査をして、異常がなければ退院という感じらしいので」
「おぉ!じゃあ夜飲みますか!」
とダインが言う。
「飲む?」
「あぁ、オレたちがよく行く店があるんだけど、よかったらそこで一緒に。
あ、でも退院して早々に酒は良くないか」
と武器屋のおっちゃんが言う。
「どうなんでしょう。夕方に聞いてみます」
と笑う愛。
「それでお許しが出たらぜひご一緒させてください。というかお礼としてご馳走させてください!」
と奢る気満々の愛に
「じゃ、楽しみにしてます!」
と笑うダイン。
「良かったな!たらふく食えるぞ!」
とダインの背中を叩く武器屋のおっちゃん。
「んじゃ、柊さん、また夕方迎えに来ますわ」
と笑顔で愛に手を振るダイン。そんなこんなで病室を後にした。
普段行かない場所、しない経験をしたためなのか、時間が過ぎるのはあっという間で
まだ昼ではないものの、すぐにお昼という時間帯になっていた。
「さてどうするか」
「オレは店開けないと。ま、浄め始めの時期じゃないから武器屋が混み合うことはないだろうけどな」
と言って武器屋のおっちゃんは店に帰って行った。
「オレたちはどうするか」
「もう昼だしなぁ〜。今からマナトリア浄めに行く…」
「となると夕方に帰れるかビミョーなとこだよな」
「だよなぁ〜」
と2人で悩みながらお昼が過ぎ、悩みながら城下町でお昼を食べた。
「ハッ!悩んでたらいつの間にかお昼過ぎてるし」
「いつの間にかお昼ご飯も食べ終わってた!」
「まあ、美味しかったという記憶だけは鮮明にある」
さすがはダインである。
「にしてもどうするか」
「いつの間にか昼過ぎたしな」
悩んでいるようでなにも考えていなかった2人。
「さすがにここからマナトリア浄めるのはな」
「まあスポーレだけで済めばすぐ帰れるけど」
「そうだな。大型のマナトリア浄めるってなると体力的には…
ま、お昼食べたばっかだから体力は満タンだけど」
「時間と、あとは浄め終わった後だな。体力は…当たり前だけど削られるし
怪我したらNeutral Keeplay行って治療してって時間食うし」
「だなぁ〜…」
とまたも2人の間に思考時間という名の沈黙が訪れる。ダインは城下町を見回す。
そこで「ハタ!」と大きく分厚い左掌に大きな右の握り拳を乗せた。
まるで電球が光った様子に「ピンポーン!」と閃いた効果音が聞こえるようだった。
「そうだ。そういえばヲノ、城下町もそんなに詳しくは知らないよな」
「まあ、そうだな。だいたい城から出なかったし」
「よし!引きこもりお坊ちゃんのために今日は夕方まで、この城下町を案内アーンド紹介して差し上げよう」
「引きこもりは余計だ」
「事実だろ?」
「事実”だった“な?今は違う」
「はいはい」
と聞き流して夕方まで城下町を見て回ることにした。
「まず!城下町とヲノと切っても切り離せない、メモトゲ城」
と大きな高い門の前でダインがメモトゲ城に向かって右手を伸ばす。
そんなダインの左手を掴み、動かせすらしないのにその場から離れようとメモトゲ城に背を向けて歩くヲノ。
しかしやはりダインはヲノの力では動かないのでヲノはその場で足踏みをしているような感じになる。
メモトゲ城の門番も「?」顔である。やっとその場を離れた2人。
「バカかよ!オレの実家紹介なんていらねーよ!省けよ!」
「なんで?切っても切り離せn」
「あそこはオレのほうが知ってんだろーが!」
「それもそうか」
ということでやっと城下町を見て回ることに。
「ま、まずは城下町とはあんま関係ないが
メモトゲ家から一番近く、メモトゲ家を凌ぐほどの広さを誇るNeutral Keeplay。朝も行ったし夕方にも行く」
「あぁ」
「ちなみにメモトゲ家から一番近いのは、メモトゲ家にもしなにか輩(やから)が侵入しようとした場合
もちろん門番、そしてメモトゲ家にもセキュリティーがいるとは思うが
挟み撃ちにして逃げられないようにするため。らしい。
一説にはメモトゲ家の住人が怪我や病気をしたときに真っ先に駆け込めるからという説もあるけど…」
とダインがヲノに視線を向ける。
「あぁ、それはただの噂だな。メモトゲ家には医療部門の専属のNeutral Keeperがいるし
Neutral Keeplayに入院だってしない。手術くらいか。Neutral Keeplayに行くのは」
「だよな。ちなみにNeutral Keeplayには医療部門、警備、護衛、警邏部門、消防部門が存在し」
「うん。聞いた」
「…。うん。まあ、その3部門があるから施設も広い。ま、メモトゲ城には敵わんかもだけどな」
「んな広くねえ」
移動する。
「お次はオレの大好きな飲食店街だな」
笑顔のダイン。その後方には数々の飲食店がひしめき合って、お昼時ということもあり賑わっていた。
「上質な肉、料理だけを提供する高級料理屋からエルフ族によるオシャレなお店
そして夜に賑わう居酒屋の数々。基本的に今から行く武具屋もそうだけど
この大通り沿いに店を出せるのはメモトゲ家と付き合いがあるとか開業資金があったりとか
昔から続いている由緒あるお店とか歴史あるお店とかそーゆーお店が多くて
路地裏に入るにつれて低価格帯だったり、新規店舗だったり、そーゆー店が多かったりする」
「ま、オレたちがよく行く居酒屋も裏路地だしな」
「そ。大通り沿いの店は安心安全、質も良いが、その分値段も張る。
裏路地の店は掘り出し物や安くて質のいいものもあったりするが、その分騙されたり
質が悪くて高くて買わずに出ようとすると怖いヒトが来て
なにか買うまで外に出してもらえない。なんてこともある」
「怖っ。そんなとこもあるのか」
「話は聞いたことあるな。ま、そのためのNeutral Keeperだな。
と言ってもイタチごっこというか、全然無くならないけどな」
と言うダインの話を聞いてから見る路地裏は薄暗く、少し怖く感じたヲノ。
「さてさて。お次は武具屋だな」
ダインの後方には数々の武具屋が立ち並んでおり
武具屋を作るためのカーンカーン、カーン!キーン!という金属音が響いていた。
「我らがおっちゃんの店は…大通り沿い!」
「おぉ〜」
謎に拍手をするダインとヲノ。
「おめぇらなにしてんだ」
武器屋のおっちゃんが身を乗り出してヲノとダインに聞く。
「いや、時間的に中途半端だったから、この際城下町を紹介しようと思って」
「なるほどな。うちは“ノンオの武器は一流”って言われるほど信頼されている店でな。
オレのひいじいさんの代からやってる歴史ある店なのよ」
「ほおぉ〜。オレの目はたしかだったってわけか」
自画自賛するヲノ。
「喜ぶべきなのかツッコむべきところなのか…」
困惑する武器屋のおっちゃん。
「じゃ、今までヲノはお世話になってないだろうから紹介するけど」
とダインが武器屋のおっちゃんの隣の店に移動する。
「ここが武器を強化するとこ」
「おぉダイン!」
顔に炭なのか、をつけ顔の一部が黒くなっているエルフのお姉さんが顔を出した。
「ここは武器だな。武器と素材を持っていくとこの“お姉さん”が武器を強化してくれるんだ」
ニカッっと笑うエルフの“お姉さん”。
「あ、どうも」
ペコリを頭を下げる。ダインはヲノの耳元に寄り、小声で
「あぁ見えておっちゃん(武器屋のおっちゃん)よりも歳いってるけど
”お姉さん“って言わないと本で叩かれるから」
「マジで!?」
本で叩かれるというところよりも武器屋のおっちゃんよりも歳上ということに
声を大にして驚くヲノ。そのヲノの顔、様子を見て
「おいダイン。お前余計なこと言ってないよなぁ〜?あ?」
と笑顔だが威圧感がすごい迫力で迫るエルフのお姉さん。
「い、い、言ってないよ」
あの体の大きなダインが小さく見える不思議。
「んでさっきも言った通り、武具屋も大通り沿いは歴史ある
安心安全、信頼感抜群のお店ばっかりだけど、一応、裏路地にも武器屋、防具屋、強化処がある。
裏路地の武具屋、強化処は値段の割に質が悪いってこともあるんだが
ここがさっきの飲食店と違うところ。武具には装飾品、アクセサリーというものがある」
と言いながらダインは自分の首から下げられたネックレスを掴む。
「あぁ。オレも指輪とかネックレスはしてる」
ヲノもネックレスと指輪を見せる。
「ヲノは知らずにアクセサリーをつけてるかもしれないが、アクセサリーにはそれぞれ効果が存在する。
ヲノのアクセサリーの効果はわからんが、オレのこのネックレスの効果は筋力強化。
オレの本来の筋力では持てない重さのハンマーを持てるのはこのネックレスのお陰なんだな」
「本来持てない?」
「おぉ。ムスコル族は生まれながらに筋力がすごい種族だ。
だからエルフやベーサーは努力しないと持てない重量の武器をさほど努力せずに持てる。
武器の重量は攻撃力に比例する。だから重いハンマーのほうがダメージがデカいってわけだ。
だからオレは、もちろん筋力をつける努力も重ねつつ、このネックレスで筋力を底上げして
エルフの”お姉さん”に重量を上げてもらう加工をしてもらって少しでも重いハンマーを持とうとしているわけ」
「へぇ〜。ネックレス取ったら持てないってこと?」
「そーゆーこったな」
「逆にそのネックレスしたらオレでも重いハンマーとかが持てるってこと?」
「まあ、オレのハンマーは到底無理だが、そこそこ重いハンマーなら持てんじゃないか?」
「へぇ〜。すげぇ」
「そう。で、少し脱線したから元に戻すけど
アクセサリー、装飾品店の難しいところが“運”とかも関わってくるんだよ。
同じ石でもアクセサリー、装飾品を作るヒトによって出来るものが違う。
もちろん安定して良いものを作る店が大通り沿いに店を構えてるんだが
路地裏の店で、その大通り沿いのアクセサリーより
良い効果を発揮するアクセサリーが売ってたりもするんだよ。
だから裏路地で良いアクセサリー店、装飾店を発掘するってのもー…
まあ楽しいかもだけど、これまた巡り合わせってのも運だからなぁ〜」
「なるほどな」
また奥へと移動する。
「んでここがいつもお世話になってる肉屋と素材屋の並びだ」
先程までと違い、店側ひしめき合っていることはなかった。
「ま、今まではいろんな毛色の店があったけど、肉屋、素材屋はそんなに数がない。
その分1軒1軒の敷地が広くて、肉を捌く職人、素材を切り出す職人が多く在籍している。
その分良い肉だったり良い素材を安定して提供できるってわけだ」
「なるほど」
と城下町の端まで来た2人。
「ま、ここから先は知っての通り、オレたちの住む家があったりする住宅地。
もちろん城下町にも家はあるが、大抵は店の主人とかその家族が住む家だったり
オレたちには手が出せない高級住宅地があったりする。ま、そうだな。簡単に言うと
ヲノがいたメモトゲ城を中心として、城下町、高級住宅地
そしてオレたちの住むあまり金のないヒトが住むエリアがあって
堀が存在して、その塀から外に出ると森、林、山などが存在するってわけだ」
とベンチに座って一生懸命空(くう)に絵を描いて説明するダインに
「うん。それはなんとなく知ってる。父上、母上に教えてもらった」
と冷静に言うヲノ。
「…。もっと早く言ってくんない?したらこんな説明せずに済んだのに」
「すまん」
「とりあえずこんな感じかな」
「アクセサリーか…」
オレのこれにもなにか効果があんのかな
と思いながらネックレスと指輪を眺めるヲノ。
その指輪に反射する光がオレンジ色になっていたことに気づいて、空を見る。
「お。もうこんな時間か」
「じゃ、そろそろおっちゃんとこ行くか」
「だな」
ということで2人は武器屋のおっちゃんの元へ向かい
武器屋のおっちゃんが店を閉め、3人でNeutral Keeplayへと向かった。