料理の得意な北斗が立つキッチンからは、パチパチと油が跳ねる音がする。
ジェシーはカウンターの向こうから身を乗り出し、
「いい音だね」
揚げ物だからね、と北斗は笑いかける。
今晩のメインはみんなが好きな唐揚げだ。
ついさっき帰宅したばかりの長男の優吾も、「お腹空いた」とソファーに沈みこんだ。
隣でパソコンで作業している慎太郎に声を掛ける。
「樹からなんか連絡来てない? 今日当直じゃないはずなんだけど」
「いや、来てないよ」
「えー、遅いけど大丈夫かな」
次男の樹は、大学病院で研修医として働いている。大体、5人の中では帰りが一番遅い。
「っていうかレポート間に合うの?」
「今やってんだよ」
面倒くさそうに末っ子の慎太郎は答える。大学の課題に取り組んでいる最中だ。
「兄ちゃんこそ記事の締め切りが近いとか言ってたじゃん」
ジェシーが優吾に言う。正確には優吾は兄ではなくいとこなのだが、彼は慎太郎以外の4人をそう呼ぶ。
「ああー、あれはまだいい」
優吾は記者として新聞社に勤めている。
「そんなこと言ってるとしくじるぞー」
キッチンから北斗の声が飛んだ。「出来た、食べよう」
樹のお皿にラップをかけてから、食卓に運ぶ。
フレンチレストランで働く北斗だが、料理は全般的に腕が立つ。今夜も美味しそうな夕食が並んだ。
と、「あー! オーマイガー!」
突然響いたジェシーの叫び声。いつものことでみんなは取り合わないが、唯一慎太郎だけが話しかけた。
「どうした」
「教科書を教室に置いてきちゃった」
そんくらい大丈夫だろ、と慎太郎は慰める。
ジェシーは英会話教室に勤めていて、人気の講師だ。
「まあいいや。家で使わないし」
「じゃあすかさずオーマイガーとか言うなよ」
そう突っ込むと、「AHAHA」という笑い声が返ってきた。
気を取り直して4人でテーブルを囲み、食べ始める。
話に花も咲き、いつものように明るく楽しい夜になった。
すると、玄関の鍵が開く音がし、「ただいま」
樹の声がした。
「おかえりー」
みんなが応える。
やがてリビングに顔を見せたが、そこで止まっている。入るのをためらっているようだ。
何してんの、と北斗が声を投げると、
「……ちょっとこの子、うちに置いといていいかな」
その後ろから現れたのは、「この子」と言うには背の高い、樹と同じくらいの身長の男性。
いや、男性かどうかは一見わからない。
明るい金髪で、透き通るような白い肌の人だった。
みんなは驚きで声も出せなかった。
続く
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