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「ヘウンデウン教が……?」
私は、その言葉を聞いて思わず眉をひそめた。
どうして、このタイミングでヘウンデウン教が絡んでくるのかと……
(いや、災厄が関係しているならあり得ない話でもない……けど……)
ヘウンデウン教は、災厄を促進……災厄を起こさせて世界を滅ぼそうとしている教団だし、あり得ない話ではなかった。それに、災厄の前兆で魔物が凶暴化しているなら尚更、彼らは動くだろう。まあ、実際集団で動いている所を見たことは無いのだけど。
そんな風に考えているとルーメンさんは大丈夫ですか? と私の顔色を伺うようにして聞いてきた。
いや、大丈夫ではないよ……全然。
「その調査って、いつ行くんですか?」
「それが、二日後の予定で……ほんと、すみません。こんなドタバタになってしまって! 星流祭もあって疲れているでしょうし、我々もそちらの準備や警備で追われていて、まさか、調査を二日後……何て言われるなんて思っていなかったんですよ!」
と、ルーメンさんはまくし立てるようにいい、目尻に涙をためていた。
よほど焦っていたのだろう。
まあ、確かに、私も急すぎるとは思ったけれど。でも、それはルーメンさんのせいではなくて、いきなり行ってきた皇帝に問題があるような気がするけど。まあ、本人を目の前にしては言えないし、そもそもあったこともなければ、ゲームないでも存在は薄かったし。リースのお父様って言う設定以外目だった描写はなかったし。後は、リースと仲があまり良くなかったと言うことだけか。
「そ、そんな、気にしないでください。ルーメンさんが悪いわけじゃないんですし」
私達は今すぐ行けと言われたわけではないのだからそこまで慌てる必要は無いと思うのだけど。
ルーメンさんは私の言葉を聞くとグッと拳を握った。そして、少し俯き気味になりながら口を開く。
その声音はどこか申し訳なさそうに聞こえた。
しかし、次の瞬間にはルーメンさんは顔を上げて真剣な眼差しを私に向ける。そこには先程までの情けない表情はなく、ただ真摯に私を見つめていた。
その様子に私は思わず息を飲む。一体何を言うつもりなのかと身構えてしまう。
ルーメンさんはゆっくりと深呼吸すると頭を下げた。
「幾ら、聖女様と言え災厄で凶暴になった魔物と戦うのは危険が伴います。過去、魔物との戦いで命を落した聖女もいるので、本当に……」
「ひえ……」
私は何とも間抜けな声が出てしまった。
ルーメンさんの話を聞いて、以前アルベドの話してくれた初代の聖女のことが頭に浮かんだ。彼女は災厄と対峙する前に命を落してしまったらしいから、もしかしてその事を言っているのだろうかと。
私は、少し怖くなってしまった。
ルーメンさんの言うとおり、幾ら聖女とは言え身体は人間の女の子なのだ。それに中身は私だから俊敏に動けないし、魔力量は合っても瞬発力がない。魔物が何匹いるか知らないけれど、ルーメンさんでさえ危ないというのだからきっと危ないのだろう。
それに、魔物との遭遇で命を落した聖女がいるという前例がある以上は私が死ぬ可能性だって十分にある。
ゲームで、今は私が主軸の物語だったとしても、まず攻略しなければ死が確定しているエトワールストーリー。攻略に失敗以外にも死ぬ要素はあるはずだと私は考えた。
そう考えて、ルーメンさんとリュシオルを見ると、二人とも心配そうに見ているものだから私は思わず笑顔を作って首を横に振った。
「そ、そんな心配しないでくださいよ。私聖女ですよ!」
「ですが……」
「エトワール様は、災厄で強くなった魔物のこと知らないのね」
と、口を開いたのはリュシオルだった。
リュシオルは深刻そうにそう告げると、災厄で強くなった魔物の恐ろしさについて語り出した。
「普通の魔物は魔法でも、武器でも倒せるのだけど、災厄の魔物はそう簡単にはいかない。中には魔法を通さないものだったり、鉄製の武器を通さないものだったりいるの。それに、一人で倒せるほど小さくない」
リュシオルが語るには、災厄の魔物はその大きさや強さによって脅威度が変わるそうだ。
魔法の効かない個体なんて、私は倒しようがないと思った。私は、グランツに剣術を教えて貰ったがその程度だし、魔法だって完璧に扱えるわけじゃない。聞けば聞くほど不安になって、災厄の恐ろしさを肌で感じることになる。
そんな、魔物が強くなっているというのに付け加えて、リュシオルはそんな魔物達をさらに凶暴化させる魔法をヘウンデウン教はかけているのだとか。本気で、世界を滅ぼそうとしているのだとわかり私はさらに身体が固まった。
「私は、エトワール様にいって欲しくないわ。でも皇帝陛下の命令となると……」
「聖女様とはいえ断ることは出来ないでしょう」
そう、リュシオルとルーメンさんは口をそろえていう。確かに二人は私のことを心配してくれているんだろうけど二人の言うとおり私に断る権利は無かった。
そのために召喚された聖女でもあるんだし、行くほかないと。
(でも、怖いのも痛いのも嫌だ! 出来るなら行きたくない! これって、なんかのクエストなのかな!?)
私は心の中で叫んだ。
これがもし、何かのクエストだったりしたら強制参加させられそうだなあとぼんやり思ったからだ。拒否権はない。私は頷くしかないのだ。
「大丈夫です。行きます。怖いですし、痛いのとか嫌ですけど、私はそのために召喚された聖女なので。少しぐらい、大丈夫だって背中おして欲しいです」
そう私が言えば、二人の顔は少しだけ明るくなった気がした。
少なくとも此の世界にきて、大切だって思える二人だし、そんな二人に暗い顔して欲しくないもの。
私が胸をはって言えば、分かりました。とルーメンさんはいい、笑顔で私を見た。
「皇帝陛下と、殿下にはそうお伝えしておきます。勿論、聖女様の護衛はいつも以上に力を入れさせていただきますし、魔道騎士団からも数人護衛をつけさせてもらいます」
「ありがとうございます。私頑張ります……あ、それと、何か準備しておいた方が良いものとかありますか? こういう調査って、一日じゃ済まないでしょうし」
私が聞けば、ルーメンさんは目を丸くして、その後顎に手を当て考える素振りを見せた後、魔力の温存だと口にした。
「今回は調査ですが、勿論魔物との遭遇も考えられます。その時、魔法が使えるようにしておいて欲しいんです。といっても、聖女様の魔力量はそこら辺の魔道士とは比べものにならないほどあると思うので、大丈夫だと思うのですが……もしできるなら、攻撃魔法の練習とかしておいたら良いんじゃないでしょうか」
ルーメンさんはそう付け加えた後、時計を見て慌てた様子で出て行ってしまった。補佐官の仕事があったのだろうと私は察し、大変だなあと見送りつつ、リュシオルの方を見た。リュシオルは先ほどの笑顔とは違ってまた不安そうな表情を浮べている。
「そんな心配しなくてもいいじゃん。だって、私聖女だよ?」
「それでも、心配よ。それに、貴方ここに来て変わったから……」
「変わった? 私が?」
リュシオルはコクリと頷いて、私の頬に手を添える。そして優しく微笑んでくれた。
「悪い意味じゃないわ。強くなったのよ。オタクで引きこもり気味だった貴方があんなに堂々と喋って、凄く素敵だと思う」
「何か、余計な言葉混じっていた気がするけど、ありがとう。リュシオル。でも、きっと根本的なところは変わってないと思う」
そう言えば、リュシオルはそれもそうね。と笑った。
まあ、それは置いておいて、ルーメンさんに言われた魔法の特訓をしなければと思った。攻撃魔法となると火の魔法か風の魔法あたりになるのだろうか。
「ブライトにでもたの……」
私は、あの魔道士の顔が浮かび口に出かけたが、彼とは色々あって疎遠になっている。そんな彼に教えて貰えるのかどうかと。神官に聞けば、神殿にも来ていないらしくて……
(どどどっどど、どうしよう!? 魔法の練習!)