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廊下での騒動以来、冬馬先生の私に対する態度は「厳しさ」に拍車がかかっていた。
けれど、それは嫌がらせではない。
私を、誰にも文句を言わせない「完璧な専属」に仕立て上げるための、彼なりの過激な教育なのだと理解していた。
「海老名、今日の緊急症例検討会の資料、30分で仕上げろ。データの抽出条件は───」
「すべて準備済みです。先生の思考パターンなら、昨夜のうちに予測して揃えておきました」
私が涼しい顔でファイルを差し出すと、冬馬先生は一瞬だけ、驚いたように目を見開いた。
そして、ふっと満足そうに口角を上げる。
「……及第点以上だ。俺の領域に、ここまで踏み込んできた人間はお前が初めてだよ」
その日の午後
病院内でも注目されていた難手術の症例検討会が行われた。
先日の高木医師を含め
多くの医師が冬馬先生のやり方に異を唱えようと手ぐすねを引いて待っていたが
私が用意した完璧なデータと、冬馬先生の圧倒的な理論の前に、誰も反論できずに沈黙した。
検討会が終わった後、医局の隅で片付けをしていると、冬馬先生が近づいてきた。
「見事だったな。お前のサポートがなければ、奴らを黙らせるのにあと十分はかかっていた」
「ふふっ…先生に褒められるなんて、明日は雪でも降るんじゃないでしょうか」
冗談めかして笑うと、先生は真剣な眼差しで私を見つめ、不意に私の左手を取った。
そして、多くの医師や看護師がまだ残っている中で、その手の甲に、指先を絡めるようにして触れた。
「……海老名。お前の居場所は、もうここ以外にない。分かっているな」
それは、同僚へのスカウトを拒絶した時以上の、明確な「所有宣言」だった。
周りの視線が痛いほど刺さる。
けれど、私は不思議と怖くなかった。
この冷徹で、不器用で、誰よりも命に真摯な先生の隣が、今の私にとって一番誇らしい場所だと思えたから。
「はい。……先生の専属として、これからも私、学びたいです」
「ふん……覚悟しておけ。俺の要求は、これからも際限なく高くなるぞ」
繋がれた手から伝わる、確かな熱。
私たちは「仕事仲間」としての境界線を守りながらも
その内側では、もう逃げられないほどの独占欲に絡め取られていた。
──こうして、私の「完璧な事務員」としての地位は確立された。
けれど、本当の波乱はこれからだった。
「仕事上の信頼」が、一晩にして「制御不能な情熱」へと変わる───
嵐の夜が、すぐそこまで迫っていた。