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私は今、星野さんとインシデントレポートを書いている。
何故なら、医師の指示が変更になっているのに気付くのが遅れてしまったからだ。
「すみません。」
「ううん、私も気付くのが遅くて、ごめんね。患者さんに大きな影響がなくてよかったよ。」
そうして2人で次の対策などを話していると大石さんが通りかかる。大石さんがリーダーの日にインシデントとは我ながらついていないと思う。
「本当に、最近浮わついてるからこんな事になるのよ。仕事なんだから、色気付かないで。」
「すみません。」
「私に謝られても困るんだけど。私にはなんともないんだから。」
「今回は口頭指示のみで、直前のパソコンでの確認を怠ってしまい」
「言い訳なんてしないで。」
「すみません、次は気をつけ」
「すみませんしか言えないの?謝ればいいってものじゃないでしょう。」
今日はどうも虫の居所が悪いらしい。なにを言っても揚げ足をとられてしまう。
(耐えろ、私。耐えろ。)
そう自分に言い聞かせる。星野さんはインシデントを起こしただけでも泣きそうなのに、ここで私が大石さんに楯突いてもこの時間が終わる訳ではないのだ。
「待って待って、指示変更確認はリーダーの仕事でしょう?」
「私達もリーダーの貴方もフォロー出来なかったんだから。」
近くにいた主任と佐々木さんが割って入ってくれた。
「でも、受け持ちが最終的な責任を」
「それに生理食塩水の容量が変わってたっていうミスだったんだから、次の確認と予防に繋げたらいいのよ。先生も!人見知りしないで言ってよ!なによ、250mlから500mlに変更って、それくらい言えるでしょう!」
「は、はい•••。」
さすが主任だ。医師とも付き合いが長いだけある。
「言われたことは気にしなくていいからね。確認しなかったのは悪かった所だから、次気をつけよう。」
「はい、すみませんでした。」
そうしてインシデントレポートの続きを作成した。
退勤後、電車に揺られ睡魔に襲われる。
(ようやく解放されたー。)
毎日患者さんだけではなく、スタッフ同士でもドラマがある。
(刺激はあるんだろうけどなぁ。星野さんは大丈夫かな。)
初のインシデントレポートなんだから落ち込まない訳がない。帰る時もいつもと違い、無言だったのが気になる。
(大石さんのキャラは今に始まったことじゃないし、慣れるしかないんだよなぁ。頼りになる時は心強いのに。)
今日みたいにその日の気分に左右される所もあるが、ハッキリと物を言う姿に憧れはある。
「白石さん?」
「はっ!」
ウトウトしていた。声の主を確認する。
「渡辺君?」
「駅、着きましたよ。」
「え。」
最寄駅のアナウンスで急いで降りる準備をする。
ホームに着き、渡辺君と改札に向かう。
「さっきはありがとう。寝過ごすとこだった。」
「大したことじゃないですよ。それに先日は妹が失礼しました。」
「妹?」
「リナって覚えてないですか?」
「あ•••あー!え?妹?」
何故か2回聞き返してしまった。
「黒田から粗方聞いています。本当に失礼しました。」
「大丈夫大丈夫、気にしないで!」
「あいつ黒田のことになると意地になる所があるから。」
「へぇ、リナさんは黒田君が好きなんだね。」
「え•••。」
渡辺君が止まった。まるでリナさんが黒田君を好きな可能性なんて考えてもいなかったみたいに。
「いや、待って待って。え、待って。だって、リナにとって黒田は俺と同じお兄ちゃんみたいな感じって、それに後輩って•••。」
「あー•••それはただ素直に言えなかっただけじゃないかな?」
トドメをさしてしまったようで渡辺君が膝から崩れ落ちた。
「嘘、だろ•••。え、なんか•••友達が異性として好きって•••嫌だわ。」
「ま、まぁ、仕方ないよ。黒田君かっこいいし、優しいから。」
「•••そうですね、あいつは本当に優しくて、強いやつです。とりあえず、妹の事は気にしないでください。じゃあ。」
そう言って渡辺君は帰って行った。
ホビフェスの帰りの事を思い出す。
「髪切った?」
「は、はい。どうです、か•••。」
オズオズと聞いてくる黒田君に笑ってしまう。
「わ、笑わないで。似合うって、言われたから。」
「凄く素敵だよ。似合ってる。」
まさか私の言葉を覚えているなんて思っておらず、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「それより、2人はよかったの?」
「あ、はい。なんか先に帰るって言ってました。」
「そっか。黒田君。」
「はい。」
「えと、2人で出かけるのは、いつがいいかな? 」
「!」
2人して顔が赤いのはきっと夕日のせいだ。
「次は白石さんの好きな場所に行きましょう。お休みの日わかったら教えてください。」
「うん。」
(あー、また大石さんに浮わついてるって言われちゃうな。)
ニヤつきながら今日渡された勤務表を見る。
自分の休みを確認して、2人で休みが合いそうなヶ所を探す。
(なんだか楽しいな。)
そう思いながら黒田君にメッセージを送る。
【再来週の日曜日が休みだよ。水族館に行こ。】