テラーノベル
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「こいつ……硬いですね」
辰夫が前に出て、鋭い爪に竜の魔力を纏わせる。
ツバキの極太レーザーが全く効いていなかったことを冷静に分析した上での言葉だ。
「我も試してみます。」
そして、一瞬硬直すると──
チラッ。
私を見てからアフロを見る。
スッ……。
死んだ目で下を見た。
千年の時を生きる竜王の尊厳が、
今、音を立てて崩れ去った瞬間である。
それから──
「えーっと……辰夫ぱーんち! ぼこーん!」
知性の欠片もない技名だった。
声が微かに震え、涙ぐんでいるように見えたのは気のせいだろうか。
「そうそう!それよ!」
私は辰夫の背中をバンバン叩いて喜んだ。
空気を読んで忖度できる有能な部下を持って、
私は最高に気持ちがいい。
「『竜王、知性を捨てて物理に生きる』……っと!」
ローザのペンが非情にも歴史を刻む。
「ローザ殿!?」
辰夫がローザを二度見。
「ぐ……ぐぐ……」
だが、その威力は本物だった。
辰夫の拳が、ヴァエルの胸部を深々と貫いた。
ヴァエルの青白い血管のような部分から、
魔力とも血液ともつかない光の粒子が漏れ出す。
そして──。
「私の番だよ! ……闇の矢、いっけぇ……っ!」
エスト様が右手を高く掲げると、
足元に闇の魔法陣がキィィンと広がった。
「ダークアロー・トリプルショット!!」
きゅいんきゅいんきゅいん!
可愛らしい効果音と共に、漆黒の矢が三本、鋭く放たれる。
矢は一直線にヴァエルを貫き──
がちいいいん!
という重い金属音と共に、
そのままヴァエルの巨体を壁に串刺しにして縫い留めた。
黒き影がバチバチと痙攣し、瘴気が散っていく。
「えへっ……当たったっー!」
エスト様が無邪気にピースサインを作った。
「ツバキ、お腹さすってあげようか? ウィルソン(良い形の石)で」
「余計痛くなるからやめて」
後方では仮病でサボっている聖女と、それを物理(石)で介抱しようとする勇者のコントが繰り広げられている。帰れよ。
──その瞬間、私の頭に、偉大なるムダ様の言葉がよぎった。
『作戦は大事。だが投げる方が速い』
(ホントそれ!考えるより殴る方が早いのよ)
……あら? こんなところに手頃な辰夫が。
「……サクラ殿? なぜ我の襟元をそのような目で……」
私の視線に気づいた辰夫が、顔を引きつらせて一歩後ずさる。
むんず。
「ひぃ!?」
「辰夫ロケット!! ……いっとけぇーッ!!!」
私はスキル怪力を使い、辰夫をぶん投げた。
ビュン!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
辰夫ロケット、発射。
「乗るッ!!」
私はすぐさまダッシュしてジャンプ──
ぴょーん
そして空気を切り裂いて飛んでいく辰夫の背中に、
ピタリと飛び乗った。
ストッ……。
私は辰夫の背中で腕を組み、
アフロを風になびかせてドヤ顔を作った。
「これが魔王軍式・桃白白(ももはくはく)ロケットよッ!!」
「どどんぱぁああああああああああああ!!」
辰夫が泣きそうな声で、ギリギリな効果音を叫んだ。
「辰美、炎っ!!」
私は辰夫の背中で辰美にドヤ顔で指示。
「炎? いやだよー! ブレス行っちゃうよー!!
見てろ見てろー!! うおーっ!!」
辰美は空中で一瞬ドラゴンの姿に戻り、
その場でくるんっと一回転。
そして巨大な翼を広げ──大きく息を吸い込む。
「全開モード、いっくよーっ!!」
次の瞬間──。
「あ……辰美ふぁいやー?ぶふぅー!!」
ゴォォォォォォォッ!!!
轟音とともに、灼熱のドラゴンブレスが一直線にヴァエルを薙ぎ払った。
黒き影を包み込むように、すさまじい炎が巻き上がる。
「ぐ……ぐぅ……っ!!」
ヴァエルの影がのたうつ。
黒い瘴気が逃げ場を求めるように四散した。
「ナイス、辰美!!(主に技名が)」
──その隙を突き、一直線にヴァエルの核心へと迫る。
「辰夫、パンチの構え!」
「は! はいっ!!」
「タイミング合わせるわよ──いっせーのっ!!」
私は辰夫の背中でドヤ顔のままカウントを取った。
「……辰夫ぱーんち!」
「ドロップキィィィックッ!!」
どっがああああん!
辰夫の拳と、私の踵が──同時にヴァエルの核心へ重く叩き込まれた。
「ッが……が……が……!!」
ヴァエルの影がぐしゃりと歪み、
黒き瘴気が一気に噴き上がる。
衝撃でヴァエルの身体は壁へ吹き飛び──バキィィンッ!!
壁に深々とめり込み、激しく痙攣をはじめた。
崩れゆくヴァエルの中から、影の気配が一瞬漏れ出す。
『”封印”は──まだ、保たれている。だが、次は──』
その声は、かすれた呻きに変わる。
『……本来は……守るための、存在……だった……
この層を、壊すためでは……なかった……』
「じゃあさっきの攻撃は業務外?」
私は崩れゆくヴァエルに言った。
ヴァエルの視線がゆっくりと私に向けられる。
そしてその目が見開く。
『アフロ……?』
ヴァエルの声が途切れ、悪魔は完全に崩壊し、霧散した。
「……最期の言葉それでいいの!?」
──沈黙。
……え、ほんとにそれ?
*
──ともあれ、戦闘終了。
すっきりした。
振り返ると、壁からずり落ちたボロボロの辰夫が、
四つん這いでプルプル震えていた。
「……突然掴んで投げるのは……やめてください……」
「いやよ。便利なんだもの」
「我は……ロケットでは……ないのですが……。
あと、咄嗟に『どどんぱ』って言ってしまいました……
大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。リスペクトしてるから。
ほら、さっさと立ちなさい。よっこらしょ」
私は辰夫の呟きを完全に無視して立ち上がり、
アフロをパンパンと払った。
後方から、お腹を押さえたツバキが歩いてきて、
深くため息をつく。
「……無茶苦茶な戦い方するわね、あんたたち」
「……層の異常は収まっていません。
悪魔が倒れたことで、むしろ”奥”への道が開きつつあります」
体勢を立て直した辰夫が、
壁の奥の暗闇を見据えて静かに言った。
「……なんか、奥が……変な音してる……」
辰美が耳を澄ませて呟く。
私は歯を食いしばった。くそ、まだ終わりじゃない。
──まだ、これは序の口。
──この層の”核心”は、もっと先にある。
「……行くわよ。奥に──二層へ」
奈落の縫い目、第一層。
歪みは、止まらない。
奈落の奥で、見えない何かが軋む音がする。
……私のアフロが、静かに逆立った。
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『作戦は大事。だが投げる方が速い』
解説:
結果が出れば正義は後からついてくる──
ムダ様、力技文化論より。
#魔法
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