「はァッ……! んんッ!」
「何? もう、ギブかよ。つか、声出したら誰かくるんじゃね?」
そう言いながらケタケタ笑い、また腰を強く打ち付ける。その度に、俺は甘い声が口から漏れ羞恥心と絶望感で一杯になり目の端から涙が流れ落ちた。
まだ、日がかろうじて沈んでいない放課後。校舎裏にある体育倉庫で俺は同級生の問題児にして最近まで停学を食らっていた、琥珀朔蒔《こはくさくま》に犯されていた。
勿論、自分から彼に会いに行ったのではなく、用事を済ませ帰ろうとしていたときに彼に見つかり捕まったのだ。そうして、いつも通り人気のない場所に連れ込まれた……ただそれだけの理由。
黒い髪に、黒い瞳。その瞳には、光りなんて宿っていない。奥底に見え隠れするのは、恐ろしい獣の欲望だけだ。
「つっても、声ききてェしッ! 我慢すんなよッ……!」
「あぁッ……!」
乱暴に奥まで突かれ思わず悲鳴のような喘ぎ声をあげてしまう。彼はそれを聞いて満足したのか、口元を歪めて笑う。そして、更に動きが激しくなった。
彼の言うとおり、まだグラウンドには部活動中の生徒がいて、いつ人が来ても可笑しくない状況である。
そんないつ誰が来ても可笑しくない状況であるのに、俺は口を閉じることも出来ず朔蒔から与えられる刺激にすっかり身を委ねてしまっていた。声を我慢したいと思っていても、自然と口からは聞きたくないような甘い声が漏れて、身体は悦ぶように朔蒔のモノを締め付けうねる。
それがたまらなく悔しくて、辛くて、恥ずかしくて。すっかり身体は朔蒔のものになってしまったのかと、また泣きたい気持ちで一杯になった。
こんな所見られたら、人生が終わる。
「やめろっ……」
「ふーん」
必死に懇願すると朔蒔はニヤリと笑って耳を甘噛みしてきた。それにビクリと反応してしまう。
「何?感じてんの? へェ、意外だわ。もっと嫌々すると思ったんだけどなァ」
「あっ……!」
「あぁ、そっかァ。俺がお前の身体作り替えたんだわ」
と、嬉しそうに笑いながら、朔蒔は激しくピストンを繰り返す。
どうしようもない快楽と絶望感の中で、俺は唇を噛んで声を殺すことしか出来ない。しかし、それも長く続かず、ついに俺は大きな声で喘いでしまった。次の瞬間、頭からサァと青くなり、誰かがきたんじゃないかと辺りを見回した。いくら、人気のない倉庫とはいえ人が来るときはくる。
「……おまえ、のせい……だ」
「何が?」
突然、ピタリと動きを止められて、物足りなさを感じながらも俺はキッと彼を睨みつける。すると、彼は愉快そうに笑った。
物足りないって感じてしまうのも、本当はもっと酷くして欲しいって強請るように彼の身体に縋ってしまうのも、全部全部此奴のせい。
俺は、被害者だ。
そんな意を込めて朔蒔を睨み付けるが、彼は全く何のことやらと笑っているだけで、俺の睨みなどに怯んでいる様子もなかった。
「お前のせいで俺はッ!」
「あ~はいはい、いいよ。全部俺のせいにすれば。奥突かれてアンアン喘いじゃうのも、中に出されてきゅって締めて悦んじゃうのも全部俺のせいにすればいい。だから、今はッ……!」
「……ひぐゥッ……!」
そう言って、再び強く腰を打ち付けられる。その衝撃に、一瞬息が出来なくなった。
「俺にしゅーちゅーして♥」
そんなことを言われても無理だと首を振れば、また腰を強く打ち付けられて、そのまま激しく揺さぶられる。
そして、彼が果てるまで何度も何度も犯された。
そうして、俺は結局彼の言葉通り朔蒔のせいにしてしまい、逃げる道を選んだ。楽な方へ楽な方へと。
本当は、間違っていると訴えることが正しくて、それこそが彼の悪を俺の正義で成敗する方法なのだけど。それでも俺は、毎回流されて流されて、そうして朔蒔の所まで堕ちていく。
「ハッ♥ 最高ッ……♥」
朔蒔はそう言いながら、満足したのか自分のものをズルりと引き抜く。その感覚にも、身体が敏感に反応してしまい俺はまた甘い声をあげた。
朔蒔が達しても、俺は未だに身体が疼いたままで、そんな自分が嫌で仕方がない。でも、喪失感とは別に腹の中も、頭の中も朔蒔の事で一杯になって、他のことが入らないぐらいに埋め尽くされ満たされていた。
だが行為が終わったのならと。早くこの場から立ち去りたいと思っていると、朔蒔がこちらに手を伸ばしてきた。
「あー手放したくねェ」
「………は」
朔蒔の言葉に、俺は思わず声が漏れる。
一体何を言っているのか分からなかった。ただ、ぎゅっと俺を抱きしめて愛おしそうに頭をすり寄せてくる朔蒔を見ていると、もう本当にどうでも良くなって溜息をついて、俺は朔蒔の背中に腕を回した。すると、朔蒔は嬉しそうに俺を一段と強く抱きしめて、頬擦りをしてくる。
どうして、こんなことになったんだろうと思い返すが、きっと、これは運命だったのだ。きっと最初から。
初めて会った時からずっと、強烈な朔蒔という存在に惹かれていたんだ。そう、運命。
(運命……とか片割れ……とか、そういうのかもしれない)
俺はそんなことを考えながら、朔蒔を撫でた。
俺、陽翡星埜《しらいしせの》と彼、琥珀朔蒔の関係は恋人でも何でもないのに。
全く如何してこうなったんだろうか。
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