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ろのみ🩵🫧
43
#愛され
おうか
252
──彼とは何度か来るうちに随分と打ち解けて、そのうち、食事でもと誘った。
「いいんですか? うちの方がお願いする立場なのに」
奢ると言った俺に、そう言った。こんな若いのに出させるわけにもいかないだろ。俺から誘っといて。
「いいんだよ、今日は。プライベートだ」
「じゃあ、遠慮なく。お返し出来るくらい、頑張らせて頂きます。あ、プライベートでしたね」
そう言ってニッと笑う。生意気な笑顔で。この歳でこれくらいだと、挫折なんて知らないんだろうな。全くもって、欠点などないような男だ。プライドも高そうだしな。
そう思った俺のその考えを覆すように彼はいとも簡単に自分の|弱点《ウィークポイント》を俺に晒した。
「君、相当モテるだろ? 彼女いるんだっけ」
プライベートということで、そんな話を振った。
「あー……モテてモテて……」
そう言って、また笑う。
「……彼女は? 」
そこで、彼の顔が少し曇った気がしたが、すぐにまた、生意気そうに笑った。
「いません! 」
“特定の”ってやつか。まぁ、モテるだろうし、若いし、遊びたいか。それも……悪くないな。そう思っていると、彼が左手のリングを触った。ファッションリングではない。いや、ファッションリングならそもそも仕事にはつけてこないだろう。
「……あれ? 結婚……してるのか? 」
「……ええ」
低いトーンで返事をする。何だ……?
「早いんだな」
「嘘です。でも、そういうことにしといて下さい」
「……どういう……」
「ここだけの、話。していいですか? 」
そう言って、じっくり俺を見た。綺麗な目で。
つまり、他言無用ということだろう。俺を、信用している。そう言うことだ。
「……これ、女避けなんです。僕、女性がダメなんですよね」
衝撃的な告白に息をのんだ。
それは……。
こんなに綺麗なんだから……そっちでも需要は十分に――……
「ゲイではありません」
俺の考えを見透かしたのか、可笑しそうに笑う。
「……えーっと? 」
「数ヶ月前に彼女と別れまして、その……そこで……トラウマが出来たみたいなんですよね」
「トラウマ? 」
「女性が駄目になったんです。触れない。触られるのも駄目。動悸、鳥肌、吐き気、いや、実際に吐く。とりあえず……駄目なんです。近寄られるのも。……特に迫られるようなのが」
「彼女が原因で? 」
「そうです」
「……君みたいな男が……」
「いつか、治るかなって思うんで……今は」
「若いのに……」
「そうですね。でも、触りたいと思う人もいないので……」
女避けしなきゃならないほど、寄っては来るのか。
「分かった。まぁ、治ったら教えて」
「ありがとうございます。でね、清水部長」
「何だよ」
「お願い、聞いて貰えます? 」
この男は、分かってて言うんだろうか。
立場は俺の方が上だ。拒否も出来る。担当を変えてくれと、言うことも。だけど、“プライベート”俺がそう言った。その時に、言ってくる賢さ。
それに……俺が断らないだろうと、俺が特別だと言わんばかりに、前もって言った。
『ここだけの話』
上手いな、こいつ。
歳上の男に可愛がられる所以だろう。そして、まんまとそれに乗せる。可愛い奴だと思わせてから。
「なるべく、女性と会わせないようにしてもらえませんか? 勿論……仕事に差し障らない程度で結構です。御社は、女性社員が多いので」
あー……確かにな。ついでに、馬鹿な女性社員がね。もうとっくにチェックされてますけどね、君。
「大変だね、モテる男も」
ちょっと軽薄そうなんだよな。彼。しかも、女性社員と目が合ったらにっこりと笑う。
それが……ちょっと……ナンパっぽいというか、OKのサインぽいというか……無自覚だろうしな。そんな感じなもんで、言われないと気づかないだろう。彼の心理面にトラブルがあることは。
「清水部長も、モテるでしょ。ブイブイいってんですか? あ、結婚されてましたっけ? 」
「してない」
俺も結構、若いんだよ。ま、彼から見たらオッサンかな。
「ブイブイ? 結婚? 」
「どっちもだよ! 」
ブイブイて、俺に合わせて死語を?
全く……まぁ、いい人材だ。うちに欲しいくらいの。そう思った。
それから……3年近くの年月が過ぎたが、彼から“治った”の報告はなかった。
全く浮いた話もない。……随分重症だったんだな。それに、女性に対しては軽薄な外見に反して……繊細で真面目な男だった。
歳を重ねる毎に、色気も増し、男としてはどんどん魅力的になる。
まわりが放っておくわけもなく……
彼がうちの社に来る時には飽きもせず、社内は色めき立つ。……指輪、正解だな。俺も何か聞かれても、否定せずにいた。
──そんな彼に、ようやく動きがあった。
俺も恋人と呼べる女性がいなかった訳ではない。
会社関係なく、知り合った女性と何人か付き合った。だけど、忙しさにかまけていたらあっという間に終わって行った。
そして、いつか面倒くさくなった。
最近になって、仕事に尽力し、寄ってくる女性社員をかわし、社内であちこちくっつけて気づけば、30代に入ろうとしていた。
男なら、まだまだの年で……だけど、ふと、そろそろ自分の為に……恋人というか……癒しが欲しいと思った頃だった。
単純に、俺だけを見てくれる存在が。
吉良君と中条さんが帰った後……信じられない事を耳にした。
一人の女子社員が吉良君に迫ったと。|会社《ここ》で。業務中に。取引先相手に……。正気か。
例えば、一度連絡を取って、プライベートならまだ譲れた。もっとも吉良くんがうまくかわすだろうが。
|会社《ここ》がどういう場所なのか、分かっていないのだろうか。ここの社員である限り、会社の看板を背負っているのだ。会社の問題になるということを。
SNSの時代。誰がどこで情報を流すか分からない。自覚すべきだ。もっと。セクハラで訴えられるかもしれない。……彼はしないだろうが。
男女逆なら、大問題だったかもしれない。
吉良くんの 奥さん(いないが)にバレたらそこから晒される事だって……。
馬鹿だ。その本人に真偽を確認するのに呼び出した。
そして、自覚させる為に説明した。
「そんな、大袈裟なぁ。だって、格好いいんだもん。1回くらいって……断る男の方が珍しくないですかぁ? 」
どっからくるんだ、その、実力と反比例した自信。張り倒したい。どうなってんだ、頭ん中。虫でも巣くってのか。
「訴えられるかもしれない」
そう言うと
「えぇ、助けて下さい。そうなったら、部長~」
もう、埋めてやりてぇ。どうなってんだ、人事。
「クビになるよ」
「いいですよ、別に。そんなに楽しくないし、どっちみちいい人掴まえたら、そうするつもりです。部長でもいいんですけど、どうですかぁ? 」
ああ、いいね。ここまで来たら、辞めて貰おう。上に報告だな。話す時間が無駄だ。
──吉良君に悪いことをした。
そう言えば、あの日……商談ルームに戻って来なかった。俺に挨拶もせずに帰った事なんて、今までの彼から考えても一度もない。
……キツかったんだろう。あー……腹が立つ。でも、俺の責任だ。認識が甘かった。
徹底すべきだな。社員教育……公私混同。
まぁ、言ってもオフィスラブが横行しているわけだ。恋愛は自由だし、プライベートも自由だ。ただ、やり方を考えなければならない。社会人として。
今となっては、吉良君だけじゃない。中条さんも……危険といえば危険だ。なんせ、あの容姿だ。
さて、どうするべきか。
コメント
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吉良くんの「女性がダメになった」告白、すごく印象的でした。あそこまで自分の弱みをさらすのって、清水部長を信頼してるからこそですよね…。しかも「治ったら教えて」って返す部長の優しさにじんときました。後半のあの社員の発言にはイライラしましたけど、それだけ吉良くんが魅力的に描かれてる証拠だなと。男同士の距離感と信頼関係の積み重ね、丁寧で好きです🤍