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10月19日 PM20:00
アジトのリビングのソファーに座る一郎の膝を枕にして、リンが眠っていた。
芦間のジャケットを羽織り、リンは小さく寝息を立てている。
「あれ、リンちゃん寝ちゃった?」
「あぁ」
「ねぇ、お兄ちゃん。リンちゃんの事だけど、四郎みたいに…、騎士だっけ?になるの?」
そう言って、六郎は一郎の隣に腰を下ろす。
「今の所は考えてはいない」
「だよねぇ…。椿恭弥はリンちゃんを探してんのかな」
「椿恭弥は価値のある子供だったら、血眼になって探してるだろうな」
「どう言う事?」
六郎とリンの顔を交互に見ながら、一郎は言葉を続けた。
「Jewelry Pupilにも力の格差があるらしい。モモちゃんや佐助、お前を襲った双葉とか言う子供。3人のJewelry Words力は、破壊そのものだ。直接、手を下さなくても人を殺せる」
「リンちゃんのJewelry Wordsは、物の記憶が見れるんだっけ…?椿恭弥的には必要ないって事?」
「椿恭弥が欲する力ではないだろうな、リンのJewelry Wordsは。それが良い事と言って良いのか分からんがな」
そう言って、一郎はリンの頭を優しく撫でる。
「あのさ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはもう、リンちゃんの事を大事に思い始めてるよ。だってリンちゃん、芦間の事を忘れ掛けてるんだよ」
「どう言う意味だ?リンが、意図的に話さないようにしているんじゃないのか」
一郎の言葉を聞いた六郎は、下を向きながら小さく呟いた。
「私、無意識にポロッと芦間の名前を出しちゃったの。そしたら、「誰?その人、僕の知ってる人?」って言われたのよ。本当に知らないって顔してね」
「…」
「ストレスによる一時的な記憶障害なのかな」
「目の前で芦間が死んだ事は、リンにとって相当なストレスだった筈だ。それ以外に原因があると思うのか?」
六郎は暫く考えたから、ソファーから腰を上げた。
「どこに行く気だ」
「ちょっと調べてみる。お兄ちゃんはリンちゃんの側にいて」
「おい、ユマ」
一郎の言葉に耳を貸さずに、六郎はリビングを出て行ってしまった。
パタンとリビングの扉が閉まると、リンは瞼が重そうに開けた。
「ん…?一郎お兄ちゃん?」
「悪い、起こしたか」
「うん…、大丈夫…、起きる」
瞼を擦りながらリンは体を起こし、一郎の顔を覗き込む。
「芦間って人、一郎お兄ちゃんは知ってる?この前、六郎お姉ちゃんが言ってたんだけど」
「お前の事を面倒みてた男だ。そのジャケットも芦間の物だろ?」
「これは一郎お兄ちゃんのでしょ?だって、眠ってる僕に貸してくれたじゃん」
ドクンッと心臓が嫌な感じで高鳴る。
ざわざわと胸の中で、何かが動いている。
今のリンの発言は、六郎が疑問に思った事と繋がるような気がした。
一時的な記憶障害…か。
それとも本当に芦間と言う男の存在を、最初から覚えていないのか?
「ねぇ、一郎お兄ちゃん。お兄ちゃんはいつ、僕の騎士様になるの?」
「いきなり…、どうした。そんな事を言い出して」
「だって、僕達ずっと一緒にいるのに…。騎士様になってほしいって、ずっと思ってたんだよ?一郎お兄ちゃんは、僕の為にしないつもりなんでしょ?」
ずっと一緒?
一郎はリンの言葉を聞いて、更に混乱する。
2人が出会い、共に過ごして来た時間は少ない。
一郎がリンを保護し、面倒を見始めで数日だ。
リンは、何年も一緒に過ごして来たような言い方をした。
「椿お兄ちゃんから、一郎お兄ちゃんに預けられたよね。本当に一郎お兄ちゃんに預けられて良かった」
そう言って、リンは一郎に抱き付く。
「早く、一郎お兄ちゃんの役に立ちたいなぁ。六郎お姉ちゃんの役にも立ちたい」
「リン、お前はまだ病み上がりなんだ。無理をする必要はない。今夜はもう遅い、眠った方がいい」
「一郎お兄ちゃん、僕は本気だよ?本気で、そう思ってるんだ。モモちゃんみたいには、なれないけど…」
「お前はお前だ、他人になる必要はない。リンはリンとして、生きればいい」
一郎の言葉を黙って聞いていたリンは深く頷く。
そのまま一郎の太ももに頭を乗せ、眠りに付いた。
アジトの駐車場に止めてあるSV650のエンジンを掛けながら、六郎は電話を掛ける。
プルルッ、プルルッ。
「はい、もしもし槙島です」
2コール目で通話に出た槙島ネネだった。
六郎が電話を掛けた相手は槙島ネネであり、Jewelry
Pupilの正体について詳しく聞こうとしていた。
「お疲れ様、六郎だけど。今、平気?」
「あぁ、六郎さん。少しなら大丈夫ですけど、何か急
ぎの用事ですか?」
「あー、単刀直入で聞くんだけど…。Jewelry Pupilってさ?パートナーが死ぬと、パートナーに関しての記憶ってなくなるの?」
「はい?」
六郎の言葉を聞いた槙島ネネから、困惑の声色をした返答が返ってくる。
「どう言う意味ですか?」
「意味って、言葉の通りよ。リンちゃんに関しての事」
「今、どこにいますか」
「アジトの駐車場だけど…」
ブブッと六郎のスマホが振動し、メッセージが来た事を告げる。
「マップを送信しました。私も今から向かいますから、そこで落ち合いましょう」
「は?ちょっと…」
そう言って槙島ネネは、六郎の返事を聞かずに通話をきった。
「リンちゃんの名前を出した途端、態度が変わったわね…」
槙島ネネの様子が気になりつつも、六郎はSV650に跨った。
スマホを操作し、槙島ネネから送られてた住所を確認する。
指定された場所はとある喫茶店で、アジトから数分の距離にあった。
ヘルメットを嵌めてからSV650にエンジンを掛け、駐車場を後にした。
CASE 四郎
適当な軽食がテーブルに並び、他愛のない会話が暫く続く。
ただ飯を食うだけの会なのか?
そんな事を思いながらレモンジュースを口に運ぶ。
程よい蜂蜜の甘さとレモンの酸味が、バランスよく混ざり合っている。
「お前、本当に飯を食わない気か?少しぐらい腹に入れたらどうだ」
「分かりました、少し頂きます」
ボスに促されるまま、枝豆のオリーブオイル和えを口に運ぶ。
胡椒がピリッと下の上で弾け、枝豆の豆の味を引き出している。
ただ味は美味しいのだが、咀嚼をする度に肺が再び痛み出す。
食事が進まない経験がなく、自分自身が戸惑っていた。
本当にどうしたんだ、俺の体は。
健康だけが取り柄だった筈が、今は不健康そのものだ。
例えば熱が出ていたとしても食事はしないにしろ、煙草は吸っていた。
1日2箱は吸っていたのに、今は1、2本。
急激に本数が減り、少量の吐血を繰り返す日々だ。
いよいよ、俺の体にも異常が出て来たらしい。
「お客様。よろしければ、こちらはいかがですか?」
そう言って、店主が出して来たのはコンスープだった。
甘いコーンの匂いと暖かな湯気が立ち込める。
俺は軽く頭を下げてから、スプーンを手に取りコンスープを口に運ぶ。
「四郎、それなーに?」
モモがコンスープをキラキラした目で凝視している。
どうやら、コンスープが飲みたいらしい。
「これか?これはコンスープだよ。とうもろこしのスープだ」
「お嬢様の分もご用意しましょうか?」
俺とモモの会話を聞いていた店主が、にこやかに声を掛けてきた。
モモはチラッと店主を見た後、自分が座っていた椅子を動かし始める。
俺とピッタリくっつけるように、椅子を移動させたのだ。
そして、俺の腕に抱き付き笑顔を向けながらこう言った。
「四郎と一緒に食べたいの。あーん」
雛鳥のように大きく口を開け、スープを飲ませろとせがんで来た。
「はぁ、仕方ねぇな…。ほらよ」
「あーん。うぅっ、美味しい!!あまーいスプーンだ!!おかわりちょうだーい?」
「はいはい」
よっぽど、コンスープが気に入ったらしい。
俺はモモの口の中に、コンスープを運ぶ作業がしばらく続く。
少し前の俺なら、子供世話なんかしなかった。
ましてや、スープを食べさる事などしなかった。
ボスが見たことない優しい眼差しで、俺とモモを見つめる。
「お前に少しだけ話したらだろ?俺の息子、拓也の事」
「モモの父親であり、兵頭会の若頭だったと…」
「そうだ。それとお前と拓也は、腹違いの兄弟だと言う事も話そうと思ってな」
「え?どう言う事…?」
ボスの言葉を聞いたモモは驚いていた。
やはり、今日はこの事を話そうとしていたのか。
「私のお父さんと四郎が兄弟って?どう言う事なの?」
「モモ、少し黙ってろ。この間、爺さんの事務所にいた時に見ました。俺とボスのDNA鑑定の結果を偶然に」
モモを静止させた後に、事務所で見た鑑定結果の事を伝えた。
「ったく、あの爺さんは…。プライバシーもクソもない。すまなかった、知らないとはいえど…」
「仕方ありませんよ、ボス。ただ、母はずっとボスに会いたがってました。それだけはボスに伝えておきます」
「だが、お前を殺そうとしたのは事実だ。俺が…、美里を撃った事は覚えているか」
「断片的ですが、母は後ろから撃たれたとしか…。すいません、あんまり覚えてなくて」
ボスが部屋に来た時、俺の意識が飛ぶ寸前だった。
強く記憶に残っているのは、母さんの憎悪を浮かべた
表情だけ。
本当に俺の事が憎くて仕方ないと言う顔。
「いや、覚えていても良い記憶じゃないだろう。それに美里をあんな風にしたのは、俺の責任でもある。四郎、お前は俺の息子と言う事実に変わりはない。俺は…、お前には殺しの世界を離れて欲しいと思って…」
「それは話が違うでしょ、雪哉さん」
そう言った嘉助の目は、怒りの感情が含まれていた。
「雪哉さん、拓也さんが殺された日の事を忘れてませんよね?僕と貴方で椿恭弥を殺す目的には、四郎君達が必要だって事も話しましたよね?まさか、僕の長年の計画を壊す気ですか」
「お前の計画を無駄にするつもりはないよ。ただ、四郎を抜いて出来ないのか」
「椿恭弥と佐助を殺すには、モモちゃんの力が必要なんですよ。木下穂乃果の事も一郎に殺させたと言いましたが、生きてますよ彼女。ドラック、グレープを使用して傷を回復させてね」
嘉助の言葉を聞いたボスは目を丸くさせる。
「まさか…、あの傷で生き還ったのか?」
「はぁ、しっかりして下さいよ雪哉さん。貴方、何の為にHero Of Justiceを作ったのですか?モモちゃん
を椿恭弥から守る為に、作ったんですよね?その為に、四郎君達を拾ったんでしょ」
「あぁ、お前の言う通りだ。だが、自分の息子を危険に遭わすわけにはいかんだろう」
俺はボスの発言を聞いて、驚きのあまり言葉が出なかった。
冷血で淡々と言葉を話すボスのイメージが強かった。
目の前にいるボスは、俺の知ってるボスじゃない。
弱々しく言葉を放ち、俺の様子を伺うボスを知らない。
何かが一気に引いて行くような感じがした。
だけど一体、何が引いているのか分からない。
俺はボスに拾われてから、伊織の厳しい殺しの訓練に耐えて来た。
理由は1つだけだ。
ボスの背中を追い掛け、役に立ちたくて仕事をしていた。
俺はボスが父親と知っても、この関係が変わる事はないと思っていた。
いや寧ろ、今までの関係でいたかった。
俺はボスに”父親”になって欲しかった訳じゃない。
今更、父親面されても困るのが本音だ。
「雪哉さん。拓也さんが何故、殺されたのか本当の理由を知ってますか?」
「白雪を奪いたかったからだろ、拓也から。お前もそう言っていただろうが」
「逆ですよ、雪哉さん。貴方も薄々は感じていたんじゃありませんか?」
嘉助の言葉を言葉を聞いたボスは、顔を下に向けたまま唇を噛む。
この先の言葉を言いたくないのが分かる。
言ってしまえば、その事実を受け入れなければならなくなる。
ボスは長年の間、その事実に触れないようにしていたのだろう。
「奴はね、拓也さんの事が好きだったんですよ。勿論、恋愛感情の方で。椿恭弥にとって、拓也さんは初恋だったんですよ。拓也さんに近付く女達を、椿恭弥が虐めていたのも知ってますよね」
嘉助の言葉を聞いたボスは眉間に深い皺が入る。
恋愛感情?
椿恭弥は兵頭拓也が好きだったから殺したのか?
「椿が拓也に対して、異常に執着していたのは知っていた。だが、それが恋愛感情だったとは知らなかった」
「白雪さんが現れた事で、椿恭弥は壊れました。なんせ、拓也さんと白雪さんは結婚してしまった。その事は椿恭弥にとって、残酷な事だったんです。2人の間に子供が出来てしまった事が、椿恭弥の精神を壊したんでしょうね」
「椿恭弥の目的は最初から、白雪と言う女を痛め付ける事だった。そう言う事か」
そう言って、ボスと嘉助の会話に割って入る。
「四郎君の言う通りだよ。椿恭弥は拓也さんを奪った白雪さんとモモちゃんを殺すのが目的だ。今は何故か、椿恭弥は白雪さんの事を好きだと思い込んでる。ストレスによる記憶障害だと思う」
「お父さんの事が好きだったって事?殺しちゃう程、好きだったって事?」
「モモちゃん、好きには色々あるんだ。好きの気持ちが強過ぎる事もある。ごめんね、難しい話をしちゃって」
「ううん、大丈夫。私が四郎に安心する理由?が分かったから」
モモの言葉を聞いた嘉助は一瞬、不思議そうな顔をするがすぐに理解したようだ。
「私と四郎は血が繋がってる?って事だよね?だって私は四郎に初めて会った時から、特別な人って感じたんだもん。四郎と血が繋がってるってだけでも、嬉しい私」
「お前が喜んでんなら良いわ。それで、今回の食事会の目的は?何なんだよ嘉助」
隣にいるモモの頭を撫でながら、嘉助に問い掛ける。
「動き出す頃合いが来たと思ってね。12月25日に椿恭弥が、東京シティーホールで闇市場を開くんだ。つまり、ブラックマーケットだね。その日は椿恭弥の顧客達が、全て集まる日でもあるんだ。椿恭弥の目を欺き易いのもあるし、大勢の中に紛れ込むのに絶好の機会だ」
「成る程、客に紛れて椿を殺すって事か。この計画には誰が参加すんだ」
「雪哉さんとも話して、Hero Of Justiceのメンバーに協力を仰ごうって話になってる。椿恭弥の注意を引けるのは、この日しかない。何せ、シティーホールの警備に殆どの組員が駆り出される。注意するべきなのは、佐助と木下穂乃果だけになる。何とか、この2人を椿恭弥から引き離せれば良いんだけど」
嘉助は念入りに計画を立て、12月25日に実行に移そうとしているのか。
ボスは何故か乗り気じゃないのが不思議だ。
自分の息子を殺した椿恭弥を恨んでいる筈なのに。
何故、ボスは計画に乗り気じゃないのか。
「嘉助、やはり四郎以外の奴を導入させる。晶がいるだろ」
「雪哉さんは椿恭弥を許せるんですか。アイツが、拓也さんを殺さなければっ、今もあの人は生きていたんですよ?」
ボスの言葉を聞いた嘉助は言葉を強めた。
「許せる訳がないだろ。だから、今もこうして…」
「晶を使うのは得策ではないと言いましたよね?Jewelry Words を使われれば、普通の人間じゃ歯が立ちませんよ。だから、Jewelry Pupilの騎士になってる四郎君が必要なんですよ」
「お前の言いたい事は分かっている。だが…」
「椿恭弥が生きていれば、モモちゃんを殺しに来ます。それは貴方が1番、避けなければならない事じゃないんですか。拓也さんに言われたじゃないですか、守ってくれと」
ボスと嘉助の会話は続き、収集がつかなくなって来た。
何故なら、ボスが俺を参加させないの一点張りだからだ。
俺達がモモを守る為に集められたメンバー。
そう言ったのはボス自身だった。
言っている言葉に矛盾が生まれ出している事に、ボスは気付いている筈だ。
「おじさんは四郎を傷付けたくないんでしょ?」
そう言ったのはモモだった。
「あ、あぁ…、モモちゃんの言う通りだ。おじさんはもう、息子を失いたくないんだ」
「四郎は椿恭弥を殺すよ。だって、四郎もおじさんが大事だから。私と一緒に殺すって言うもん」
「え?」
「四郎はおじさんの為に殺すのよ。おじさんが止めても四郎はするよ。私、四郎がやるなら一瞬にやる。ずっと一緒にいる為にやる」
モモは俺の腕に抱きつきながら、何度も同じ言葉を繰り返した。
「雪哉さん、1週間以内に答えを下さい。僕はお先に失礼します」
嘉助はそう言ってテーブルに万札を3枚置き、店を出て行った。
ボスが答えを出さない以上、嘉助の計画を進める事は出来ない。
返事を改めたのは賢明な判断だと思う。
「ボス、俺達も帰りましょう。今日はゆっくり休んで下さい」
「あ、あぁ…」
「伊織に連絡します、少し待ってて下さい。お前も座って待ってろ」
俺の言葉を聞いたモモは黙って頷く。
松葉杖を使って店を出て、すぐに伊織に連絡を入れた。
数秒前に出て行った嘉助の姿はもうなかった。
「伊織、店の中まで入ってボスを車まで案内してくれ」
「酒でも飲み過ぎたのか?それとも体調を崩したのか」
「いや、どちらでもねーよ。なんて言うか、覇気を失ってる感じって言えば良いのか?これは」
「まぁ、分かった。すぐに向かうから待ってろ」
通話を切った5秒後に伊織は現れ、店の中に入って行った。
少しふらついた足取りのボスを支えながら、伊織は車まで移動する。
その後ろから出て来たモモは俺の手を握ってきた。
モモの手を黙って握り返し、車までゆっくり歩き出した。
ボスの大きかった背中が小さく見える。
車に乗った後もボスは一言も話さず、前だけを見つめていた。
隣にいるモモは俺の膝の上に頭を置き、静かな寝息を立てて眠っている。
ただ、黙ったまま俺達は帰路に着いた。
四郎が店を出る前、先に店を出た嘉助を車に乗せたのは三郎だった。
「あのさ、仕事帰りに呼び出すのやめてくんない」
返り血の付着したままの状態で、嘉助に呼び出されたのだ。
「今日の事、聞きたいんじゃないかと思って。それに、。三郎君が1番、側にいて落ち着くんだよねー」
「え、キモイ」
「真顔で言わないの、そう言う事は。今日の事、話してあげないよ」
「そう言う所がキモイ。良いから話してよ」
「仕方ないなぁ」
嘉助は先程の食事会の事を三郎に報告していた。
「へぇ、ボスが父親面してきたんだ」
「三郎君、君は本当に口が悪いねぇ」
「どうせ、ボスの意見を無視して進める気だろ」
「いや、雪哉さんの意見を無視できないよ。それに四郎君が雪哉さんとの間に、一線を引いている気がしたんだ。雪哉さんはその事を感じて、話に集中出来なかった」
三郎は兵頭雪哉の顔を浮かべながら、タオルで顔を拭く。
「受け入れて貰えると思ったんでしょ。無理な話だって、そんなの。四郎はボスを父親として見てなかったもん。自分達に厳しいボスしか知らなかったんだし」
「三郎君の意見は最もだ。今の雪哉さんを椿恭弥が見たら、確実に殺しにくるな。いや、殺せる。雪哉さんが弱ったままじゃ、困るんだけどなぁ」
「椿恭弥を殺さないと四郎にも手を出すんだよね」
そう言って、三郎は隣にいる嘉助の顔をチラッと見る。
「三郎君、僕はこの世にJewelry Pupilがいなくなれ
ば良いと思ってる。そしたら、こんな殺しいもなくなる」
「何?妄想話でもする気?なくならないでしょ、Jewelry Pupilが」
「本当にそう思う?」
嘉助の真剣な眼差しを受けた三郎は、車を脇に止め停車する。
「ゴールデンドリームって、カクテルがあるの知ってる?」
「カクテル?聞いた事あるけど、それが何」
「闇医者のおじさんと作ってる薬があるんだ。その名もゴールデンドリーム」
「だから何なの?さっきから、何の話をしてんだよ」
言葉を強めながら三郎は嘉助に問う。
「Jewelry Pupilを無くす魔法の薬だよ」
そう言って、嘉助は不適な笑みを三郎に向けた。
第5章 END