赤子が母に揺さぶられるような、そんな感覚だった。
シアは、記憶こそないものの、体が覚えていたその感覚に心地良さを感じていた。
眠気がシアを襲い、一時は目を閉じそうになったものの、足先から伝った気味の悪い冷たさに身を震わせ、鳥肌立たせた。
本能的な恐怖だろうか。
目は開かなかった。
だが、思い切って自分の痛覚を頼りに手を擦ると、少し痛みがした。
これは夢ではないようだ。
…なら、何なのだろうか。
シアは寝相が悪く、自身の愛用する布団を自ら剥ぐことも、ベッドから転がり落ちることもよくある事だ。
だが、この空間は自分の知っているところではない。
それが何故かわからないが、断言できた。
ちなみに言えば、今はどんな格好をしているのかすら理解できていなかった。
先程の肌寒い感覚からして、いつも来ているようなモコモコのジェラピケではないのは確かだった。
まずそもそも、自分はここにいる前、何をしていた?
ゆっくり思い出せてきた。
脳内に浮かぶ【彼ら】の姿が。
記憶を探って一番最初に出てきたのは、彼らと次の企画の計画を立てていたところだった。
放課後に部活の全員で集まって、空き部屋で…
『あぐっ!!』
刹那、首筋に鋭い痛みが走った。
人の手の温かさは無かったし、このチクリとした痛みは、針。だろうか。
何か鋭利な刃物か何かで刺された。
血管が多く巡る首筋を刺してくるとは。
殺されるのではないか。とシアは身を震わせた。
この痛みで、今まで脳内で行われていた説明ったらしい現状把握は終わり、強制的に意識を現実へと向けられた。
『…此処、は……』
右手を支えに、倒れていただろう体から上半身を起こした。
がっちりと閉じられいた筈の目は、段々と、周りを警戒するように開いていった。
やがて、シアの視界には、御伽噺のような世界が広がった。
そして、
『…ショッピ!』
目の前には、腐れ縁の親友が。
その隣に並ぶように、少しひび割れたぐるぐる眼鏡のチーノがいた。
とりあえず、ショッピを起こそうと決めた(なまえ)は重たい体を揺さぶりながら、耳元で声をかける。
『起きて!ショッピ!』
恐怖で掠れて出せないと思っていた声は、今でも少し小さいが、耳元で叫べば鼓膜破壊レベルだ。
「…あ、とごふん」
『あと5分じゃない!いいから起きて!』
なんやねん、と言いながら彼も起き上がる。
数秒経って、「何でシアが此処にいるのか」「そもそも此処はどこなのか」と聞いてきたが、「わからない」と答えた。
そうすれば、ショッピも状況が理解できたのか。
ショッピにしては珍しい。
少し青褪めた表情をしていた。
「お前ら煩いねん…」
そう話していれば、隣にいたチーノが目を擦りながらそう言った。
「誰か、この状況把握できているものはいるか?」
それに続くようにして聞こえた、地を這うようなバリトンボイス。
グルッペンの声に、「俺らもわかってないねん、」と続ける七三分けのトントンの声がした。
グルッペンの左隣にいるオスマンは、ジッと睨むようにこの場所を見渡していた。
案の定、グルッペンの問いかけに応えるものはいなかった。
ただ静かに、首を振るだけで。
コメント
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人狼ジャッジメントもやってますよね?