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「おはようございます。お姉様。お姉様のおかげで昨日はぐっすり眠れました」
「そ、そう、それはよかった……」
早朝、私より早く起きた彼女は私が起きるまで私の顔をずっと見ていたらしく、起きた直後彼女の可愛らしい顔が目の前にあったため、私は驚いてベッドから落ちてしまった。私はその理由を、貴方が可愛くて驚いただけとごまかしつつ、何とか心配しすぎて医者を呼ぼうとしていたトワイライトの行動を止める事が出来た。彼女は清々しいぐらいに眩しい笑顔を私に向けており、昨日あれだけ疲れていた人とは思えなかった。
逆に私は、悪夢を見てあまり良い感じに寝付けなかったのだ。寝付けなかったというか、途中で目が冷めたわけではないが魘されていた気がする。現実世界では如何だったか分からないが、酷い夢だったのだけ覚えている。内容はあやふやだが。
(嫌な夢だった……思い出したくもないような……実際思い出せないんだけど)
思い出そうとしても、記憶にストップがかかるように、その間の記憶を抜かれているように思い出せなかった。嫌な夢、怖い夢、ただその時の恐怖だけが残っていた。
私は一体どんな夢を見たのだろうか。忘れてはいけないことのような気もするが、その考えすら頭の中から消えていっているので、きっと大したことないのだろう。
とりあえずは朝食を食べようとトワイライトと一緒に下に降りることにした。下に行くと既に朝食の準備がしてあり、メイド達は私達を見ると頭を下げ挨拶をしてきた。皆昨日の今日で疲れているだろうに、顔には一切疲れを出していなかった。昨日の今日なのは、トワイライトも同じなのだが。
メイド達は私達に気づくとすぐに席を引いて座らせてくれた。そして、料理もすぐに運ばれてきて私達は食事をすることにした。
食事中は、いつも通り他愛のない会話をしていた。
それでも気になっていることがあって私はつい言葉をこぼしてしまった。
「そ、それでそのさ、トワイライト」
「はい、何でしょうか、お姉様」
「……リースに、殿下と婚約をって、誰に言われたの?」
そう私が聞けば、それまで明るい顔をしていたトワイライトの顔は一気に曇って、何だか言いにくそうに口ごもっていた。これは聞かなかった方が良かったかなと思いつつも、私は何故だか引き下がることは出来なかった。矢っ張り気になって仕方がないのだ。
周りの人に言われたって言っていたし、それ自体が嘘ではないと思っている。トワイライトを信じてのことだ。
でも、もしそれが本当になってしまったら? 別に私はリースが好きだとかそう言うのではないと思う、でも彼が届かない存在になってしまうこと、私の立場、トワイライトはどう思っているのだろうかとか色々考えてしまうのだ。余計だと思われるかも知れないし、思えば自分中心に考えているからこそ出てくる考えかも知れない。トワイライトは少し黙ってから、口をゆっくりと開いた。
「き、昨日も話したとおり、周りの人に、貴族の方もお似合いだとか何とか言われて、何だかそんな雰囲気になっていって。式典も、それこそ、結婚式みたいな……」
結婚式はどんなものかは実際知らないんですけど、皆から祝福される式のことですよね。とトワイライトは付け足しながら言った。
確かに、聖女わっしょいなこの国の人達のことだ、平民も貴族も関係無く、盛大に祝うに違いない。現に、私という怒りや不満をぶつける相手がいるなら尚更。私を使い捨てて、災厄を払った後、皇太子であるリースと聖女であるトワイライトを結婚させられたら……とか、そういう自分たちの理想の幸せを彼女に押しつけていたと言うことだろう。
そんな事を感じ取っていたのか、トワイライトの昨日の言葉を思い出す限りリースは嫌な顔をしていたのだろう。そうやって、冷やかされたり、理想を押しつけられるのを彼は酷く嫌う性格だったか。
勿論、トワイライトもだ。彼女だっていきなり聖女だって呼び出されて、皇太子とお似合いですね、世界を救って下さいね、私達を幸せにして下さいね。なんて押しつけられたら、引いてしまうに違いない。いや、実際引いているのだ。トワイライトの意思ではないのは確かなようで、彼女自身戸惑いながらも嫌がっているのは分かった。彼女は結婚やら恋とか愛とかは視野にないようだった。彼女はこの乙女ゲームのヒロインであったが、ヒロインらしくても恋やら愛に疎い。まあ、それが純粋無垢なヒロインである証拠なのかも知れないけれど、今のところ周りの攻略キャラが彼女に好意を寄せている雰囲気はない。好奇心や、良い感情はあってもだ。勿論、私にそれらを向けているわけでもないが。
だからと言って、そんな風に私達が考えていたとしても、庶民の口は黙らせられない。こちらに、その意思がなくても、大勢の声の前では一人の声は無力なのだ。私にはどうすることも出来ないから。
「リースは…………殿下はいい人だよ」
「お姉様?」
「ほら、格好いいし、剣の腕だって凄いって聞くし、魔法も使えて、ハンサムで、背が高くて、それから、それから……」
私の口からはそんな言葉が溢れた。
何故それを言おうと思ったのか、トワイライトに言おうと思ったのか自分でも分からなかった。
でも、周りがそういう雰囲気で、トワイライトとリースをくっつけようとしているのなら、そうなってしまう未来があるとするなら、トワイライトにリースのことを好きになってもらった方がいいのでは? と一瞬、ほんの一瞬思ってしまった。
リースの中身は元彼の遥輝だけど、思えば、王道中の王道であるリースのルート、統計データを見ても分かるぐらい一番プレイ回数だって多いリースのルートを。トワイライトとリースのカップリングはいいってすっごく言われていたから。彼女の綺麗な金髪と、リースの金粉が舞ったような金髪が並んで、本当に星が瞬いているみたいで、とても幻想的で、絵になるって! ゲームをしていて、何度その光景を見たかったと嘆いただろうか。
トワイライトは、突然私がそんなことを言い出したことに驚いた様子だったが、その後また眉をハの字に曲げた。
「えっと……お姉様は、その、殿下との婚約とか、私が殿下と幸せになることを望んでいるのですか?」
と、そう聞かれて私はハッとした。
何を言っているんだ私は。私は別にリースとトワイライトがくっついて欲しいわけではない。ただ、そうなる未来がって、何処か諦めがあったのだ。私は、リースの隣にいられないか持って。
私がリースとトワイライトのことを考えるのはあくまでも、彼女が言ったように周りの声に流されての考えで、私自身くっついて欲しいとかそう言うのではない。まあ、それがトワイライトにとっての幸せなら私は喜んで祝福するだろうけど。
でも――――
(胸がちくっとしたのは何でだろう。リースを取られるんじゃないかとか、一瞬でも思ってしまった……)
私はトワイライトが好きだ。それは勿論、恋愛的な意味ではなく、妹として好きだ。でも、それでも、私はやっぱり嫉妬してしまうのだろうか。嫉妬? 私には似合わない感情だけれど。
私は、このまま悩んでいてもきっと答えは出ないだろうとぶんぶんと頭を横に振って、お皿に残っていたパンを平らげてニッコリとトワイライトに微笑みかけた。
もう、こんな変なこと考えるのは止めよう。
そんな風に、笑い合ってまた会話をと続けようとすると、リュシオルがスッと私達の後ろまでやってきて、手紙が……と囁いた。
聖女殿に贈られてくる手紙は、大体私の領地に来ませんかとかお茶会をとかの招待状で、私は攻略キャラ以外のは無視していいと言っていたため、今回リュシオルが持ってきたのを見て、攻略キャラの誰かであることを察した。
だが、こんな時期に誰だろうと私は首を傾げる。
「えっと、リュシオル、こうりゃ……ううん、誰からの手紙?」
「実はそれがね」
とリュシオルは困り眉で言う。
私は、まさか彼奴から? と紅蓮の髪の男を思い浮かべたが、彼女が持っていた手紙の封蝋に見たことのある花が刻まれていたため、それを私に渡してきた相手の顔を浮べた。
フリージア――――
「もしかして、その手紙ってブライトから?」