奇︎︎病︎︎パ︎︎ロ︎︎
︎︎ 桜の花びらが風に攫われ、校門の前をゆらりと漂っていく。
︎︎ 淡い桃色が宙にほどけるたび、胸の奥で何かが静かに鳴った。
︎︎ 笑い声も、名残惜しげな別れの言葉も、春の光に溶けていく。
︎︎︎︎ 机に残した落書きも、夕暮れの教室の匂いも、もうすぐ遠い日常になるのだろう。
︎︎ 制服の袖をなぞる風が、かすかに温かい。
︎︎ 見上げた空は、透き通るように高く、まるで新しい季節への道を、そっと指し示しているみたいだった。
︎︎ 振り返れば、校舎の影が長く伸びている。
あの日々がもう戻らないと知りながら、それでも笑って手を振ったのはこの春が、確かに美しかったからだった。
「かなた〜!!!」
︎︎ まだ周りに人が居ると言うのに、気にせず大きな声で自分の名前を呼ぶ声が耳に入る。これはこれは、親友のトワではないか。相変わらず自由奔放で何か元気が貰える、そんな気がした。
「声でかいって!」
「ごめんごめん、てか卒業めでたすぎる〜!!」
「少し泣いちゃったよ僕」
︎︎ ごめん、と謝るトワはまるで反省していないように見える。卒業の話題に入れば、めでたいと述べそれに返す言葉を少し考えては泣いたと僕は言った。思い出の詰まったこの学校から旅立つのは、かなり名残惜しくてつい涙がこぼれたのだ。
「えーい、泣き虫!」
「違うし!そういうのじゃないし!」
「冗談だからそれで叩くの辞めれる?」
︎︎ トワが笑いながらそれを指差すと、相手は動きを止めた。賞状筒で頭をポンポンと叩いていた手が、ゆっくりと下りていく。頬にまだ残る熱を誤魔化すように、視線を少しだけ逸らした。春風が二人のあいだを抜け、くすぐったい沈黙だけがそこに残った。
「……あっ、大学行くんでしょ?僕もだよ」
「えまじ?どこどこ!!」
「◻◻◻って所で…」
「同じじゃん!!」
︎ そんな他愛のない会話を交わしながら、互いの顔を見つめては微笑み合う。
︎︎ 笑うたびに髪が揺れ、春の光がその横顔をやわらかく照らした。風が頬をかすめ、制服の袖をふわりと揺らしていく。
︎︎ 話題は取りとめもなく、思い出やこれからのこと、どうでもいい冗談ばかり。それでも、どの言葉にも名残惜しさが少し混じっていた。
︎︎
踏みしめるアスファルトの音が、並んで歩く二人のリズムを静かに刻む。時折すれ違う人の笑い声が遠くに消えていき、そのたびに彼女たちは目を合わせ、何かを確かめるようにまた笑った。
︎︎ 春の風に頬を撫でられながら、彼女たちはゆっくりと歩を進めていった。
︎︎ まるで、どこにも終わりがないかのように。
︎︎
コメント
8件
ぁ、…これもしかして前に言ってた…
まだ最初はいいんだけど、あとから性癖盛盛にしてくからね。恋愛モノではないです。。