TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

雨の降る、午後7時頃―。

辺りがすっかり薄暗くなってきたこの時間帯に、河内組では一枚の画像が出回っていた。

組員A「なぁ、お前…これって…」

組員B「うん…間違いねぇ…まさかこんな人だったなんてな」

―伊武の兄貴、あんたが…なぁ―。


カチコミを終え、俺が組に戻ってくると、心なしか自分を見る組員の視線が冷たいような気がした。

伊武「…?」

気のせいではない。あれは確実に幻滅したような、人を軽蔑しているときの目だ。

阿蒜「あの…、伊武の兄貴!」

底知れない異様な雰囲気に戸惑っていると、阿蒜が話しかけてきた。

伊武「何だ」

阿蒜「えっと、多分…これ見れば分かると思います」

そう言ってスマホを取り出し、俺に見せる阿蒜。そこに表示された一枚の画像に、俺は血の気が引いていくのが分かった。

伊武「っ…?!何…だ、これ…?!」

そこには、俺が写っていた。画像の中の自分が、見知らぬ男を連れてホテルに入ろうとしていたのだ。

伊武「どういうことだ…?俺は、こんなことしてない…」

阿蒜「分かってます。俺は信じてないんすけど、皆兄貴に疑問を抱いてるんです。だってあんたは…」

伊武「もういい、阿蒜」

そう―、阿蒜が言いたい通りだ。

俺は今現在、組内屈指の武闘派、龍本の兄貴と恋仲にある。こんな画像が出回れば、組員が俺を訝しげな目で見るのも無理はない。けれど、それよりも俺には一つ気がかりなことがあった。

伊武「…龍本の兄貴は…?」

阿蒜「え?」

このままでは兄貴に誤解されてしまう。俺にはあの人しかいないのに、こんなことで兄貴に嫌われてしまうのだけは避けたかった。

伊武「…少し用事ができた。行ってくる」

阿蒜「え?あ、ちょっと、兄貴!」

俺は半ば奪い取るように阿蒜のスマホを手に取ると、一目散に駆け出した。

阿蒜「あぁぁ!!俺のスマホぉぉぉぉぉ!!!!」

後ろで阿蒜の泣き叫ぶ声が聞こえる。悪い、もう少し待ってくれ。必ず返すから!


外は雨が降り続いていた。町を照らすネオンも雫がついて、ぼやけている。俺はその中をただ走り続けた。

伊武「兄貴…!…兄貴っ…!!」

お願いだ。行かないでくれ。ずっと、俺のそばにいてくれ。

俺の髪はいつしか濡れて崩れ、顎から雫が滴る。それが雨なのか、はたまた別のものなのかは分からない。それでも、俺は走り続けた。


走りに走り続けて、俺は一つのマンションの部屋に行き着いた。今日は、怪我の影響で組には顔を出していなかったはずだから。

インターホンを押すと、しばらく経ってから一人の人物が顔を出した。

龍本「?!…伊武、お前…びしょ濡れじゃねぇか!」

龍本の兄貴は開口一番、驚きの声を上げた。舎弟がこんな姿で家に来たんだから、当然だ。

息を荒らげながら、俺は口を開いた。

伊武「少し…話があります」


伊武「すみません、シャワーまで浴びさせてもらって…」

龍本「全くだ、マジで吃驚したよ」

困ったように笑いながら、龍本の兄貴は俺を出迎えた。

龍本「それで、話って何だ」

伊武「…これを」

直前に阿蒜から奪っ…いや、借りてきたスマホから画像を開き、兄貴に見せる。

龍本「は…?何だこれ」

伊武「その画像が、何故か今組内で出回ってて…」

兄貴がいつになく不安げな目で俺を見る。

龍本「伊武…お前」

やっぱり、疑われるだろうか。仕方がないとはいえ、愛する人にまで疑われるのは悲しい。その思いと共に目から熱いものが溢れて、頬を伝った。

伊武「この画像がもっと広く出回っていけば、俺は眉済派にもいられなくなる。…でも…何よりも、俺は…あなたに、嫌われたくなかったから…ッ」

視界が潤んでぼやけ、見えなくなる。…そんな中、俺の身体を何かが包むような感覚が襲った。それは何よりも温かくて、優しく俺を抱き込む。

龍本「…そうか」

伊武「ッ…うぅ…」

俺は思わずその胸に額を寄せる。愛おしげに顔をうずめた。

兄貴は俺の頭を優しく撫でると、俺の肩を掴んで、正面から向き合った。

龍本「もうそんな顔すんな、伊武。…分かってっから」

そう言って俺の涙を拭いてくれた。

伊武「俺を…疑わないんですか?」

龍本「当然だろ」

伊武「信じて…くれるんですか」

龍本「…証明してやろうか」

その刹那、兄貴は俺にキスをしてきた。それも、口にしてくれて。

今までは恥ずかしいとか言って、ハグで止まってたのに…

龍本「いいか、よく聞けよ。俺は…お前のことが、誰よりも好きだ。だから、何があってもお前のことを信じてるし、お前だけを見てる。…こんな画像なんかで、心動かされたりしねぇよ」

見た目に反して兄貴の声は緊張で少し震えている。それなのに、何故か何よりも力強かった。それがおかしくて、思わず笑みが零れる。

伊武「…ふふ」

龍本「あ、笑った」

それを見て、兄貴も微笑する。

龍本「やっぱ笑ってるときが一番美人だよ、お前は」

伊武「まっ…!」

兄貴の一言で一瞬にして俺の顔に熱が集まる。

伊武「…ん」

龍本「お」

それでも、嬉しくてたまらなくなって、俺は兄貴に抱きついた。

伊武「…大好き…兄貴」

龍本「…俺も」

その後、画像は捏造であると証明され、河内組と関わりの深い天才ハッカーによって削除された。また、画像をばらまいたのは黒澤派の組員であることが判明し、現在消息不明となっているらしい。


阿蒜「兄貴ー!スマホ返してください!!どこ行ったんすかーー!!」

その頃、町で若い青年が自分のスマホを探してさまよっているのを、何人かの人が目撃していたという。

この作品はいかがでしたか?

1,646

コメント

18

ユーザー

えっ、最高すぎるやろ?このヌッシー様は天才か?

ユーザー

ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙最高すぎるぅぅぅぅ!私さ…この人小説家になれるぐらい天才やと思う☆

ユーザー

毎度ありです!あんたも好きねぇ♪(*^ー^)ノ♪

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚