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※後日譚
※zmem
ワンクッション
あれから二十年近く経ったのか。
何とはなしに思い出した昔の出来事に、エーミールはいたたまれない気持ちになり、ベッドから身を起こした。
「どないした、エミさん」
「ゾム……さん」
隣で寝ていたゾムが、エーミールの腕を掴む。
今や一人立ちし、大学教授として、武器商人としてそこそこの経歴を持つエーミールは、護衛として雇い入れた凄腕の傭兵ゾムと、世界を又に駆けて暴れている。
ゾムと関係を持つつもりはなかったが、ひょんな事件からゾムを刺激してしまったようで、エーミールは彼と関係を持つことになってしまった。
だが、今までエーミールと関係を持ってきた男達と違い、ゾムはエーミールにとって、居心地が良かった。理由はエーミールだけが知っている。ゾムには言えない、遠い昔の、一時だけの、ほのかな思い出。
そんな淡い思い出を、過去のどす黒い出来事が、じわじわと侵食し掻き消そうとしてくる。
「どこ行くねん、教授」
「喉が乾いたので…水を…」
「水ならベッドサイドにあるやろ」
ゾムはそう言うとエーミールの腕を引き、ベッドの中に引き戻して、エーミール上にのし掛かる。
「教授は、ウソつくん下手すぎやねん」
「ウソついとるワケと…ちゃいます…」
「それもウソやろ」
ゾムはエーミールの肌のありとあらゆる場所に、啄むようなキスを落として行く。
「ンッ、ゾム…さん…ッ」
「何がそないに不安なんや?」
「不安とか……」
口では否定しつつも、手は無意識に腰に伸びる。
指先に引っ掛かったのは、遠い昔に付けられ続けた傷の感触。
『お前は俺のモノだ』
あの声が。
あの感触が。
ゾムの温もりをも消すように、エーミールの身体を一瞬にしてあの男の感覚が覆う。
「…? エーミール?」
突然真っ青な顔になって動きを止めたエーミールの身体を、ゾムは揺り動かした。
「どないした、エーミール!」
「……だ…、やだ……ちがう……、俺は……」
「エーミール!」
ゾムはエーミールが押さえている箇所に目を遣った。
腰にある古い小さい傷に、エーミールの爪が刺さっている。まるでその傷跡を抉り取ろうとするように、エーミールは爪を立てていた。
「何しとんねんッ!!」
ゾムはエーミールの腕を掴み、腰に食い込んだ爪を無理矢理剥がした。
エーミールが叫ぶ。
「消してッ!!その傷を抉って!焼いて!跡形も残さんように……ッ!!」
「その傷は……、私を縛るッ!!」
エーミールは両手で顔を覆い、悲痛な叫びを上げた。エーミールの脳裏を、あの低い声が、笑い声が、何度も何度もこだまする。
「お前のモンやないッ!!俺は……俺やッ!!」
エーミールが暴れ、叫ぶ理由が、ゾムにはわからない。けれど、エーミールの言う『お前』がゾムのことではないこと、腰にある小さく古い傷跡をエーミールが恐れていること。それだけは理解できる。
「ほな、これでどや?」
ゾムはエーミールの腰に顔を寄せ、小さな古傷に歯を立て、力一杯噛み付いた。
「ああッ!!」
痛みに声をあげるエーミールに構わず、ゾムはもっともっと深く、エーミールに噛み付く。
エーミールの血の味が、ゾムの口腔の中に充満し、ゾムは一滴も残さず飲むように、エーミールの血を啜った。
「あっ、あぁ……」
噛まれた痛みとゾムの啜る音とが、エーミールを覆っていたいにしえの呪縛から解き放つ。
「ゾム…さん、ゾムさん……」
「俺の歯形、つけたったで。これでええんか?」
エーミールは涙で目を潤ませつつも、嬉しそうな表情を浮かべ、何度も頷いた。
「もうあの傷は見えへんで。俺の歯形が、くっきりや」
「あはっ。ゾムさんの…なんですね……」
涙を溢しつつも、清々しい笑顔を浮かべるエーミールに、ゾムはもう一度新たに付けた傷口にキスをした。
「せや。紛うことなき、俺の印や」
ゾムはエーミールの顎を掴むと、食らいつくようなキスをした。鉄臭いキスの味が、何故かとても心地よくて、ずっとこうしていたい気持ちになる。
「愛してるで、エーミール」
愛してる。
未だにその言葉に警戒心を抱いてしまう。
エーミールには、言葉の真意がわからない。
けれど、ゾムからの言葉に、安心感を感じるのは、何故だろう。
「水が……欲しいですね」
鉄の味に満たされた口に不快感はないけれど、エーミールは独り言のようにポツリと呟いた。
エーミールの声が、ゾムに聞こえているのか。ゾムはただただ、一心不乱に自らが付けた印から流れるエーミールの血を、ひたすら舐め取っている。
エーミールもまた、水が欲しいことを忘れるほど、うっとりとゾムも与える感覚に酔いしれる。
やっと何かから解き放たれた。
ぼんやりと、けれど言いようのない充実感が、ゾムの温もりとともにエーミールを包み込んでいった。
【終】
御清覧いただき、ありがとうございました。
コメント
7件
とても良い作品でした…!神様有難う御座いました!神様(主様)のおかげで推しカプが増えました!
v(。・ω・。)ィェィ♪推しカプ祭り〜!!!!!てぇてぇな(*´ω`*)