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#かんとりーひゅーまんず
Nonn❄2
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イチゴ
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金沢支店に戻って半月。
初出勤の頃の刺すような視線は少しずつ薄れたものの、周囲との距離は埋まらなかった。
営業成績はわずかに上向いたが、かつての勢いは完全に失われていた。
やる気など、どこにも湧いてこない。外回りならまだ紛れる。
だがデスクに座ると、瑠璃の存在が胸に重くのしかかった。
今さらながら、佐川さなに心を揺らした自分を、心底から後悔した。
(また、朝か……)
目覚ましより早く目が覚める。
ベッド脇のパイプハンガーに掛かった紺のスーツを見ただけで、胃が重くなった。
ジャケットに腕を通すことすら、億劫で仕方ない。
(仕事……行きたくねぇ)
マットレスに体が沈み込んだまま動けないでいると、階下から母親の甲高い声が響いた。
「建! 遅刻するよ!」
鬱陶しい。
やっとの思いで起き上がった瞬間、激しい眩暈が襲ってきた。
畳にへたり込み、額に冷たい汗が浮かぶ。
(なんで、こんなことに……)
妻帯者が不倫したならまだわかる。
たかだか一度の浮気で、ここまで自分を追い詰められるなんて。
土下座でも何でもするから、もう勘弁してくれ――
そう叫びたくなるのを、必死で飲み込んだ。
バスに揺られ、金沢駅西口へ。
ここ数日、その手前の交差点を過ぎるだけで胸焼けがするようになった。
(もう、俺は……)
昼過ぎ。
食欲などなく、休憩室でコーヒーを口に含んだ。
不味い。
こんなに不味かったか?
紙コップを半分以上残したままゴミ箱に捨て、営業部フロアへと足を向けた。
その瞬間――血の気が一気に引いた。
視界がぐらりと歪み、壁のポスターがストンと落ちる。
正確には、俺の膝が折れ、その場に崩れ落ちた。
「大丈夫!? 建!?」
細い腕が、倒れ込む俺の肩をぐいっと受け止めた。
今、この会社で俺に手を差し伸べてくれる人間など、一人もいないはずだった。
なのに、その声は――「建、しっかりして! ねぇ、建!」温かい体温。
懐かしい、グルーミングシトラスの香り。
俺は、その安心感に抗えず、意識を失った。
――一方。瑠璃と寿は、社員食堂から営業部へ向かう途中だった。
「口紅、直してくるわ」と化粧室に入ろうとしたそのとき、前方に寄りかかっていた建の姿が目に入った。
次の瞬間、建の体が崩れ落ちる。
「建!」
あぁ、罰金100円だ――
そう思った瞬間、瑠璃は自分の唇が、咄嗟にその名前を呼んでしまったことに気づいた。
《奈良さん》ではなく、《建》と。
「建、大丈夫!? しっかりして!」
瑠璃は通りすがりの男性社員に声をかけ、二人で建を4階の医務室へ運び込んだ。
白いパイプベッドに横たわる建の手を、思わず握りしめていた。
「建……起きて、建……」
冷たい指先。
このまま死んでしまうのではないかと、本気で怖くなった。
頰を伝う涙を、自分でも不思議に思いながら拭うこともできずにいた。やがて産業医が現れ、簡易的な検査の後、静かに告げた。
「ただの貧血です。大丈夫ですよ」
その言葉に、瑠璃の体から力が抜けた。医務室の白い扉を閉め、ほっと息をついたそのとき――
「瑠璃、あんた、何やってんの」
背後から、ぞっとするほど低い声がした。
振り向くと、そこに立っていたのは、これまで一度も見たことのない形相の寿だった。
寿は瑠璃の腕を乱暴に掴むと、無言で更衣室へ引きずっていった。
誰もいないことを確認し、鍵を掛け、青いプラスチックの椅子に瑠璃を座らせる。
そして腕組みをし、仁王立ちになった。
「あんた、何してんの!」
「な、何って……」
「奈良とは関わるなって、言ったでしょ!」
「だって、目の前で倒れて……」
「名前! 名前で呼んでたでしょ!」
「咄嗟に出ちゃったんだもの! 仕方ないでしょ!」
寿はぐいっと身を乗り出し、瑠璃の制服の肩を強く掴んだ。
「あんた、黒木さんが見てたの、気づかなかったんでしょ!」
「……え?」
「『建、建』って半泣きで呼んでるあんたを見て、ショック受けてたわよ!」
瑠璃の顔から血の気が引いた。寿の目が、ギラギラと燃えていた。
その瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。そして、寿は震える声で、思いもよらない言葉を吐き出した。
「私も……黒木が好きなの!」
瑠璃の息が止まった。
「ずっと、好きだったんだよ!あんたがフラフラしてるから、余計に……いい加減にしなよ!」
寿の頰を、一筋の涙が伝った。
それは顎から滴り、瑠璃のスカートに灰色の染みを作った。
「分かった!?」
最後にそう吐き捨てると、寿は乱暴に涙を拭い、更衣室の鍵を開けて出て行った。
残された瑠璃は、呆然とその場に座り込んだまま、頭の中が真っ白になっていた。
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