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アルコールで火照った身体に、滑らかな手の平の感触が這い下りる。
その手は相変わらず冷えていて、まだ付き合う以前の頃をどこか思い出させるようだった。
好きだけど……
宙に浮いたままの言葉が、息が詰まるような焦燥感をもたらす。
服が脱がされて、肌が触れ合っても、その感覚を拭い去ることはできなくて、
「……いやっ…」
声を上げると、
「……もっと、泣けばいい」
まるで責め句のような言葉が吐かれて、涙が滲んだ。
「……どうし、てっ……」
脚が開かされて、内奥に侵入した彼自身に追い立てられて、
悲しみと切なさとで、意識を手放しそうになった時──
「……泣いて、辛さなど忘れてしまえばいい……」
彼の囁きかけが聞こえた気がしたけれど、感じる絶頂と様々な思いがない混ぜになった私の耳には、
その声は、届かなかった……。
──ズキズキと頭が痛んで目が覚めた。
昨日は飲みすぎたようで、酔って何か変なことを口走らなかっただろうかと思った。
「ん…もう起きて…?」
傍らで彼が瞼をひらいて、私の顔を見つめた。
「えっ、ああ…」
「……どうかしましたか?」
怪訝そうに尋ねられて、
「……夕べ、お酒を飲んで……私、変なことを言いませんでしたか?」
やや心もとないような気持ちで訊き返した。
私の問いかけに、彼はしばらく黙った後で、
「言いませんでしたよ、何も」
応えて薄く微笑って見せた……。
「本当に?」と、問い返す。その言い方には、どこか含みがあるようにも思われた。
「ええ、本当にです。だから、気にすることなど何も……」
「はい…」
それ以上の追求を彼は望んでいないようにも感じられて、頷くしかなかった。
「これから私は、食材の買い足しに行ってきますので」
「ええ…ああ……」
きのう話していたことを自分で思い出してみようとしたけれど、頭の芯が疼いて痛みを増しただけで何も思い浮かびはしなかった。
「昨夜の酔いが、残っているのでしょう?」
首筋にスッと手がまわされて、
「ハーブティーを煮出しておきますので、あなたは飲んで休んでいなさい。わかりましたね?」
そう淡々と言い聞かされ、背中を抱き寄せられた。
やがて彼が出かけて一人になると、本当に何か言ったりしなかったのかな……と、再び思いあぐねた。
ハーブティーを飲みながら鬱々と考え込む。
(……それにしても、ここは広くて……)
一人きりになるとよけいに広さが目について、気圧されるのを感じた。
「ここは、先生の持ち物だって……」
こんな別荘を所有できるなんて政宗先生はどれだけ……と、ふと自分とのギャップが浮かび上がった。
「……私のどこが、先生は好きなんだろう……」
彼とは付き合うようになるまで、いろいろなことがあったけれど、付き合い自体が落ち着いてくると、そこには自分との越えられない落差だけがあるような気がした──。
……私で、よかったの?
そう思ったら、一気に昨日のことが思い起こされてきた。
「私……確か……」
先生とは違いすぎるからっていう話をしていたはず……。
だけど、彼はなぜ何にも言わなかっただなんて……。あんな風に言いくるめるような言い方をした、その意図がまるでわからなかった。
ぐずぐずと考え込んでいる内に、お酒の残る身体がまた気怠くなってきて、私は帰りを待たずにいつの間にかソファーにもたれて眠ってしまっていたらしかった。
「……永瀬さん?」
彼の声に呼びかけられ、寝ていたソファーから起き上がると、既に食事の用意がテーブルに整えられていた──。