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大事な新居に……気持ちを立て直そうとする拠点でもある自宅に、異質なものが入り込んだ気持ちにさせられる。
懸命に作り上げようとしている砂浜の城の土台に、時限爆弾をねじ込まれたような。
雪緒はじっと見下ろし……ふと違和感を覚える。
……なんで、ジップロック?
頭の中がこんがらがった雪緒が黙っていると、郁が雪緒を見上げ、
「これって、結婚指輪?」
「……そうだけど……それより、なんでジップロックに入ってるの?」
「え? 濡れたら困るかなと思ったから」
白々しくも見える、当たり前のように答える顔。
「そうじゃない、なんで用意してあったのかってこと」
「あー、俺常に持ち歩いてるの、何枚か」
そんな23歳男性、見たことない。
「……濡れるのわかってた? 濡れる、予定だった?」
わかっていたなら、ジップロックより先に傘を用意すべきだ。
郁はカップに残ったお茶を飲みながら、黙って顔を見返してくる。悪びれた様子もなく、嘲る様子もなく。
「……どういうこと」
「別に? こういうこと。びしょ濡れで健気に待ってた弟のことは、邪険にできない人かなぁって予想してただけ」
手のひらを上に向けて、ほらね、という仕草をする。――それがやたらと様になっていて腹が立った。
「……まんまと踊らされたってことか」
「まあね。俺も天気予報くらい見るし。わざわざ今日にしたのは、確実に大雨降りそうだったから」
憎たらしい。
部屋に入れてもらえないことを見越して、あえて傘を持たずにずぶぬれになってみせたということか。こちらがほだされると予想して。
――やっぱり真には似ても似つかない。真はこんな、人の良心につけ込むようなことはしない。
何がしたいの?
『自分の兄を捨てた女』をからかいたいだけ?
美味しそうにこぶ茶を飲むところがちょっと幼く見えて可愛いと思った私が馬鹿だった。それすらもこの子の芝居かもしれない。