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莉久⚁⚄[低浮上]
33
#ご本人様には関係❌
第1話 温度だよ!!
天界・精霊領域の共同休憩所で、角を残した陸獣由来の男が机へ突っ伏していた。
「恋人が欲しい」
「また始まった」
水域由来の男――游舞は、冷やした水香杯を傾けたまま相手にしない。
「最近の休み、毎回お前らと飯食って終わってんだぞ」
「俺たちで我慢しろ」
「嫌だ。俺は恋人と飯が食いてえ」
向かいで記録板を睨んでいた猛禽由来の男が口を挟む。
「俺も恋人は欲しい」
「お前もかよ」
「お前は欲しくねえの?」
「……欲しくねえとは言ってねえ」
「じゃあ三人とも同じだろ」
猛禽由来の手元で記録板が光った。
「取れた!!」
「何が」
「南の湯郷! 最近できた宿の三人部屋!」
「お前、さっきから何してるのかと思ったら」
「空きが出るまで三日張り付いたんだぞ! 今出た取り消し枠、俺が押さえた!」
「暇なのか?」
「恋人作るための努力だよ!!」
「露天もあって飯もうまいらしいぞ。出会いも多いってさ」
「行く」
陸獣由来が即答した。
「お前は早えよ」
「日没までに三人分の名を入れなきゃ流れる。お前も行くだろ?」
「俺は行かねえ」
「なんで」
「俺、風呂大っ嫌い」
二人が黙った。
「……お前、水域由来だよな?」
「水は好きだよ。風呂が嫌いなんだよ」
「何が違うんだよ」
「温度だよ!! お前らには『あったけえ』で済むんだろうけど、俺には全身の鱗の下へ、一気に熱が入ってくる感じがすんだよ。逃げ場がねえの!」
「今、鱗ないだろ」
「人型でも感覚の根っこは魚なんだよ!!」
猛禽由来が、背に畳んだ翼を軽く揺らした。
「俺も翼が濡れるの嫌いだけど、風呂は入ってりゃ割と慣れるぞ」
「お前は翼だけだろ! 俺は全身なんだよ!」
「俺も生前、飼い主に身体洗われるの、めちゃくちゃ抵抗したぜ。逃げ回って桶も倒した。でも何度か洗われたら慣れた」
「お前らの『慣れた』を俺にも当てはめんな!」
「一回入れば平気になるってことだろ」
「ならねえよ! 俺、煮えたらどうすんだよ!?」
陸獣由来が吹き出した。
「煮えねえよ、アホか」
「煮魚になれってか!」
「人型なんだから煮魚にはならねえだろ」
「魂の由来の話してんだよ!!」
游舞が頑として首を縦に振らないので、猛禽由来は記録板へ目を戻した。
「まあ、そこまで嫌なら留守番でもいいけどな。天灯共通記録板で、記録上げるたび反響がすげえ、男前で有名な仙人――朗峻も最近そこへ来てるらしいけど」
「…………あの、任務帰りの記録を上げてる男?」
「詳しいじゃねえか」
「流れてくるんだよ!」
「で、どうする? もうすぐ日が暮れるぞ」
游舞は猛禽由来から記録板をひったくった。
「名前、どこに入れるんだ」
「行くのかよ!」
「早くしろ!」
「入らねえ! 宿には行く! 朗峻は見る!!」
三人分の名が入り、宿の予約が確定した。
「先に言っとくけど、俺は風呂には入らねえからな」
「はいはい」
「その返事やめろ!」
コメント
1件
うわあ、この三人の会話劇、めっちゃ好きです。游舞の「煮魚になれってか!」には思わず笑いました。水域由来なのに風呂嫌い、しかも理由が「温度」っていう生々しい感覚の違いが凄く良い。猛禽由来の「翼が濡れるの嫌いだけど慣れる」とか、陸獣由来の「煮えねえよ」とか、それぞれの種族由来のキャラ立ちがしっかりしてて、一気に世界観に引き込まれました。そして朗峻という人物の名前が出てきたところで游舞が態度を変える、この流れも伏線っぽくて気になります。次が楽しみです!