テラーノベル
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第2話 だから嫌だって言っただろ
猛禽由来が三日張り付いて勝ち取った宿は、悔しいほどよかった。
飯もうまい。酒もうまい。周辺には遊べる店も多い。
問題は、肝心の出会いだった。
声をかければ連れの男が現れ、誘えば笑顔で断られ、ようやく話が弾んだと思えば、宿の料理の話だけで終わった。
「三連敗」
「最後のは連敗に入るのか? 結構盛り上がったぞ」
「次に会う約束してねえから負けだ」
「お前は一回も声かけてねえだろ」
「俺は朗峻を探してたんだよ」
「三連敗した直後に大物狙うのか?」
「朗峻が恋人候補じゃねえと誰が決めた」
結局、朗峻にも会えないまま三人は夕食を終えた。
部屋へ戻る途中、猛禽由来が廊下の向こうから駆けてきた。
「おい、いたぞ!」
「誰が?」
「お前が探してた朗峻。さっき大浴場へ向かったって」
「なにっ!? 行くぞ」
「お前、風呂嫌いじゃなかったのか?」
「湯殿には行く。湯には入らねえ」
「何だそれ」
「朗峻が見れりゃいいんだよ!」
「風呂場で堂々と言うな。危ねえ奴みたいだぞ」
三人は揃って大浴場へ向かった。
湯殿には白い湯気が満ちていた。游舞は出入口近くの水風呂を見つけると、迷わず肩まで沈んだ。
「俺はここで待つ。冷てえ、最高」
「温泉に来て水風呂でくつろぐ奴、初めて見た」
「お前らは温泉入ってろ」
陸獣由来と猛禽由来が奥の露天風呂へ入る。
しばらくして、猛禽由来が湯気の向こうを指さした。
「いた。奥の岩陰。お前が記録で見てる仙人だろ」
「どこだよ!」
「岩の脇。肩が出た。お、胸板。すっげぇ引き締まってる」
「俺からは岩しか見えねえんだよ!」
「今度は背中。筋通ってんな」
「背中まで見えてんのかよ!」
游舞は右へ左へ身をずらしたが、岩は頑なに仙人の姿だけを隠した。
「こっち来いよ。入れば全部見えるぞ」
「……温泉だろ」
「温泉施設なんだからな」
「ちょっとくらい平気だって。お前、今は人型なんだし」
「んなこと言ったって……」
游舞は湯船と朗峻を見比べた。
「……煮えそうになったら、すぐ引き上げろよ」
「煮えねえって」
「絶対だからな」
「はいはい」
「その返事やめろ!」
游舞は水風呂から出ると、恐る恐る温泉へ足を入れた。
「熱っ!!」
「まだ足先だぞ」
「足先でも熱い!」
それでも朗峻から目を離せず、文句を言いながら肩まで浸かる。
「ほら、ちゃんと入れたじゃねえか」
しかし、十秒も経たないうちに、游舞が腰を浮かせた。
「駄目だ、やっぱ無理……」
「待て。朗峻がこっちに気づいたぞ」
「は?」
奥にいた朗峻が、湯の中をこちらへ近づいてくる。やがて三人の前まで来ると、足を止めた。
「……へ? あの……」
「さっきから、俺を探してなかったか?」
「……は……はい」
「急に礼儀正しくなったな」
「今話しかけんな!」
朗峻は面白そうに笑った。
「もしかして、俺の記録を見てくれているのか?」
「いつも……見てます」
その瞬間、游舞の人型が大きく揺らいだ。
こめかみから首筋へ鱗が浮かび、前腕には鰭、背中にも細い鰭がせり上がる。
「おい、鱗出てるぞ!」
「鰭も出てる!」
「あ、やべ……」
次の瞬間、湯が浮き出た鱗へ触れた。
熱湯ではない。周囲の男たちにとっては、心地よい温度の湯である。
だが游舞には、鱗の隙間へ熱湯がじゅわっと流れ込み、全身を内側から煮られるようにしか感じられなかった。
「ひ……っ!!」
游舞は顔を強張らせ、全身を硬直させた。
「……君、大丈夫か?」
朗峻が目を見開く。
「だ、大じょ――」
「あ……あ゛っ゛ち゛ーーーーー!!!」
游舞は勢いよく立ち上がったが、脚に力が入らず、陸獣由来へ倒れ込んだ。
「おい!? しっかりしろ!」
「……だから……言った……」
口元から泡を吹き、游舞はそのまま意識を失った。
「館員呼べ! 早く!」
「俺が呼ぶ! お前は支えてろ!」
朗峻との念願の初対面は、鱗と鰭と泡――そして天灯院送りで終わった。
莉久⚁⚄[低浮上]
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#ご本人様には関係❌
コメント
1件
ああ、もう最高だった……! 游舞の「熱い!」って全身で拒否する感じ、鱗まで出ちゃうとこ、すごく鮮明に浮かんだよ。しかも念願の朗峻との初対面が泡吹いて気絶って、完全に狙い通りじゃないけど笑っちゃった。猛禽由来と陸獣由来のツッコミも絶妙で、三人の空気感が一気に好きになった。設定のギミックがちゃんとギャグに効いてるのが、読んでて気持ちよかったな。