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美晴は早速行動に移した。久次郎を見張りつつ、和子の送迎のために仕事の休みを取った日の午前中、あれこれ調べてネットバンキングをひとつ申し込んだ。口座開設はすぐにできて、キャッシュカードが届いた。今後はこちらに振り込んで欲しいと、ホテル側の事務へすぐ手続きを取ってもらえるようにお願いしたので、自分の給料は幹雄の手には渡らなくなった。
なぜ自分で稼いだ金銭まで搾取され、管理されなくてはならないのか。そしてそれを今までおかしいと思わなかった自分が恥ずかしい。言いなりになっていた操り人形はもう卒業だ。
ある日のこと。久次郎がホテルの受付の花形女性社員に執拗に言い寄っていたシーンの撮影に成功した。やはり彼は日常的にセクハラをしている。援助交際にセクハラまで……。彼はイケオジ部類に入り、容姿も悪くない。一見優しい男性の仮面を被っているから、誰もセクハラに気が付かないのだ。そしてこちらの勘違いだと思わされる手口。巧妙かつ悪質だ。
セクハラといえば和子も同様だった。
最近月曜日と木曜日は、彼女が通っているダンススクールの講師が変わったため、お目当ての若い男性講師に熱を上げている。こちらもなにかの証拠にならないだろうか。美晴は独自に証拠を集めるため、動き出した。
和子も幹雄ともどもまとめて地獄へ送ってやる!
「お義母さま、最近お綺麗になられましたね?」
上機嫌の和子を自身の運転する車に乗せ、美晴はダンススクールまでの送迎にいそしんだ。和子はまんざらでもないように喜んでいる。今日も化粧が濃いな、とルームミラーで確認した。
「お義母さまの美の秘訣、ぜひ見学させていただけないでしょうか?」
「いいわよ」
褒められると調子に乗る性格ということはわかっていたので、敢えてこの作戦に出た。まずはダンススクールに潜入し、どのような様子で講師に詰め寄っているのかをこの目で確かめたい。セクハラの瞬間などが撮影できればもうけもの。
「はい、いいですね。その調子です。ワンツー ワンツー」
二十四、五歳くらいの若くて細身のダンス講師が手拍子をしながらグループレッスンにいそしんでいる。彼の名は野島隆也(のじまたかや)――通名・TAKAYA(タカヤ)。有名な祭りやダンスショウ、大型遊園地施設などで踊っているダンサーだ。整えられた眉に目元はやや大きめで丸い目、愛らしい少年のような雰囲気を残す青年だった。
そんな彼が講師を務めているものだから、和子は人一倍張り切って踊っていた。しかし他の女性よりも圧倒的に下手だった。ひとりで輪を乱している。
「松本さん、手が下がっていますよ。こうです、こう!」
隆也が和子の手を掴んで均等な位置へ持って行く。それをうっとりとした表情で見つめる和子。四十歳ちかく年の離れた孫のような存在にときめく乙女心を持つのは構わないがしかし、気持ち悪い目で見つめるのが耐えられない。きっと講師も嫌な思いをしているに違いないと推測した。
この調子だといつかなにかをやらかしそうだ。その瞬間に立ち会えるよう、頻繁に見学しよう。