悪くない。
そう言って貰えるだけで、どれだけ救われるか分からない。
この双子に良心があったんだ、ということはさておき、彼らが、私に対して、マイナスの感情を抱いていないことだけは分かった。
本当に救われる。
「私は悪くない?」
「そうだよ、なんで、エトワールが悪いの?」
「エトワールが悪い理由って何?」
と、何故か、質問攻めをされているが、私が、悪い理由が分からない、という言葉を聞いて、くすりと笑ってしまった。それを見て、双子は、顔を見合わせて、「変なの」と言葉を漏らす。
そうだよ、変だよ。
「ごめん、何か考えるだけ無駄だって思っちゃった。そうだよね、私、悪くないよね」
私は、言葉にして言ってみる。
自分を責めてばかりだったけど、矢っ張り、一定数、私のことをよく思ってくれる人はいるわけで。悲観的になりすぎていたなと反省した。
双子の言葉で、ここまで心を動かされるなんて思ってもいなかったから、私は、二人に感謝の言葉と、頭を撫でてあげた。双子は、もの凄く嫌そうなかおをしたけど、それも笑えてきてしまって、何だか全部どうでも良くなってしまったのだ。
「ちょっと、エトワール髪の毛ぼさぼさになる」
「撫でるの禁止!」
「ごめん、ごめん」
子供は嫌いだけど、この双子は嫌いじゃないな、とちょっとだけ考え方が変わった気がする。その様子を、じっと、アルベドは見つめていて、何だかむず痒かったけど。
「ありがと、やっぱちょっと元気出た」
「何それ、言葉おかしいー」
「おかしい」
「…………で、話は、変わるんだけどさ。まあ、アンタ達の思っての通り、というか、帝都で私のあらぬ噂が立っているわけだけど。まあ、それもあるし、私も色々あって、追い出されて、野宿してるわけだけど。もう少し、詳しく帝都の状況教えてくれたりしない?」
戯れもそこそこに、私は双子から情報を聞きだそうと、取り敢えずという感じで聞いてみる。双子は、また顔を見合わせて、私に大きな空色と、宵色の瞳を向ける。
多分、この状況で、教えてくれない何てこと無いだろうけど。
情報は欲しい。ネットとかそういうものがないからこうやって、地道に情報を得るしかないのだ。
アルベドもそれをよく分かっているはずだし。
「特に変わりはないよ。でも、前よりも、トワイライトさまを持ち上げてるって感じかな」
「そーだよ。皇帝派の貴族は多いけど、僕達の家は違うし、今の政策に不満を持っている人間も多いしね」
「まー何て言うか、エトワールを悪って決めつけてさ、トワイライトこそが聖女だって、そうすり込ませてるって感じ」
「皇帝ってあんまり表に出てくることなかったんだけど、なーんか、最近出しゃばってくるよね。これ、内緒」
「内緒」
双子は、バレたら、怒られるからね、と、しーしー指で黙っていて、というように私達に向かってジェスチャーをしてきた。思った以上に、帝都が変わってしまったんだと、私は、聞いていて思った。
まず、皇帝陛下が表に出てきている、ということが一番変わったことなんだろう。
(だって、そろそろ皇位継承の話とか出てくるんじゃない? だったら、リースが……)
乙女ゲームでは、エンディング後に、リースが即位した、という話だった。だから、災厄が過ぎ去ってかなり経っている今、リースが皇帝に即位していないという状況が、やはり不自然というか、リース以外誰も、皇位なんて継承できないのに。
私がきてから話が変わったのか。いいや、リースが皇帝に即位する、継承するという話は、私がいようがいまいが、関係無いはずなのだ。だから、皇帝が仕切っている今、この状況がおかしいと。
「アルベドはどう思う?」
「どうって……まあ、あの隠居じじいが表に出てきてるっつぅのは、おかしいことなのかもな」
「誰かに唆されて……とか、考えられたりする」
「可能性はあるな」
「……」
「それが、エトワール・ヴィアラッテアだっていいてえんだろ?」
「まあ、そうなるけど……」
よく分かってる、と感心しつつ、私は、この状況が、おかしくて、この後どんな風になっていくのか、想像できなくて酷く焦っていた。私が焦ったところで何にもならないだろうし、そもそも今、私は追放されているみたいな感じな訳だし。
今すぐに、あの反逆者を捕まえて殺せ! 見たいな事にはならないんだろうけど。
(そうしたら、あまりにも皇帝の行動がおかしいって指さされるだろうし)
一応、そこまで考えてはいるだろう。だからこそ、エトワール・ヴィアラッテアが、これからどう行動するのか読めない。まず、そんなこと考えて生活してこなかったから、相手の行動を先読みするとか、思考を先読みするとか慣れていない。アルベドとかだったら話は違うんだろうけど。
ちらりと、アルベドを見て、彼の満月の瞳とかちあう。
「どう、思う」
「この後の動きか」
「ほんと、アンタ私の心読めるみたいに、私のことよく分かってるじゃない」
「結構長いこといるからな」
「でも、一年くらいじゃない?」
その短時間で、私を理解するって相当な事だと思う。まあ、言葉がいらないっていうのはありがたいことだけど。
意見も聞きたいし。
「相手を理解しようと思えるか、思えないかじゃねえか。その差って言うのは」
「ま、まあ、そうかもだけど。それは、まあ、置いておいて……何だけど、どう思う」
「彼奴の目的は、お前を殺す事。だが、この間お前に下されたのは、ただの追放だ。だから、今更見つけ次第処刑しろ何てことにはならねえと思うぞ。だから……」
「だから?」
アルベドは、そこで言葉を句切った。それから、暫く考えるような素振りを見せたため、私は視線を動かした。すると、あの双子と目が合った。
「何難しい話してるの」
「エトワール、今、危険な状況?」
「危険……まあ、危険ね。でも、アンタ達も、私と関わって大丈夫なの?アンタ達の家まで巻き込みたくないし、アンタ達の立場が悪くなったりしたら……てか」
ぱちくりと瞬きする双子。
「アンタ達、何でここにいるのよ」
一番の疑問。突っ込むべき所はそこだった。そこをまず突っ込まないことにはどうにもならない。
双子は、言いたくないというように目をそらしてしまった。これは何かある。
「もしかして、迷子……とか」
「ばっ、違うよ。違うし、迷子じゃないし」
「ちょーと探検していただけだし」
「アンタ達、一回誘拐されたの覚えてるの?二人じゃどうしようもないときだってあるって、理解しなさいよ」
「エトワールに言われたくないし」
「そうだ、そうだ!」
「うっ……」
まあ、そうですよ。私も、誘拐というか、それに似たことされましたけど?
さすがに、恥ずかしくて、それは口に出来なかったし、これを言うと、ラヴァインの立場が悪くなるのが目に見えていたので口を閉じた。にしても、この双子は、本当に、痛いところを突くのが得意だなあと感じる。
けど、多分この様子を見る限り、二人は迷子になってしまっているのだろう。
慌て方が以上じゃない。
(あーあ、可哀相だなあ……ヒカリ…………)
主人が迷子になって困るのは、ヒカリだ。あの実は有能なメイド。
「……」
「どうしたの、エトワール?」
「エトワール、どうしたの?」
「ん、いや、ちょっとね……」
メイドで、リュシオルのことを思いだして、またブルーになっちゃったとは、言い辛くて、私は首を横に振った。双子にじっと見つめられて、本当のことを言わざるを得ない状況になってしまったとき、ちょうどタイミング良く……というべきか、茂みが揺れた。
双子は、いきなり音がしたので、ヒッと、私の後ろに隠れてしまう。確かに吃驚したけど、獣とか、そう言う感じの音じゃないし……多分。
「お坊ちゃま達、ここにいますか!」
「ヒカリ!」
「ヒカリ!」
茂みからあらわれたのは、彼らのメイド、ヒカリだった。彼女は、額に汗を浮べ、張り付いた髪や、服の汚れなど気にせず、こちらに近付いてきた。
お迎えがきてよかったなあ、何て私は彼女に駆け寄っていく、双子を見て、保育士ってこんな感じなのかな、何て考えながら彼らを眺めた。
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