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ジリジリと焼けるような日差しが刺さり、まとわりつくような暑さが続いていた。あれから、🌼と蛍はお互いの家に行けず、🌼からのメールに既読すらつけられなかった。
夏休みの間、🌼が心配な明光は頻繁に🌼の家に行き、晩御飯を一緒にとるようになった。
🌼)明兄、おかえり。暑い中、お疲れさま。
明光)毎日、あっちーなぁ。お、うまそうな匂い〜
🌼)今日は明光の好きな和食にしましたぁ。
明光)さすが調理科!どれもうまい!
🌼)よかったぁ。いっぱい食べてね。
明光)今日さぁ、仕事で〜〜
明光と過ごすようになり、🌼は少しずつ元気を取り戻していった。
蛍は部活と家の往復だけで、何もする気になれなかった。🌼からのメールも、返信すると全て終わってしまう気がして見れなかった。夜には🌼の家に灯りがついているのを、自分の部屋の窓から眺めて、🌼がいることを無意識に確かめていた。
蛍)はぁ…。ストーカーみたいじゃん、俺…
外から🌼の声がした。視線をやると、玄関から明光が出ていくところだった。
🌼)またね〜、明兄。
明光)おう。ちゃんと戸締りして寝ろよ。
🌼)もう、わかってますぅ。子供扱いして〜
明光)あはは、大事な🌼が心配なんだよ。
そう言うと、明光は🌼の頭をポンポンと撫でて帰っていった。蛍はあの日以来、明光が🌼の家に頻繁に訪れている事は知っていた。実際に仲が良さそうなところを見ると、胸が押しつぶされそうになり、そっとカーテンを閉めた。
明光を見送り、🌼は蛍の部屋の窓に目をやる。部屋の灯りを見て、気配を感じた。
🌼)こんなに近くにいるのに、遠いなぁ…。どうしてこうなったんだろう。蛍…まだ私、蛍の彼女のままでいいの?
月明かりの中、🌼の呟きが消えていった。
新学期になり、🌼は一人で登校していた。前に見慣れた二人組が見えて、つい嬉しくなり駆け寄った。
🌼)おはよ。
山口)🌼ちゃん!おはよう。
🌼)け、蛍…
蛍は🌼を一瞬見て、すぐに視線を戻す。ヘッドホンをつけて、音が漏れるほど大音量で流している。こんな時の蛍は、話しかけるなと言う意思表示だ。そんな蛍の横で、山口は苦笑いを返した。🌼は大丈夫と首を振り、二人の後ろをついて歩いた。
バス停についても、振り返らずそのまま去っていく蛍を見送り、🌼もバスに乗った。いつもの席にいる友達の横に座り、ふと外を見ると、烏野高校の綺麗な女子生徒が蛍に近づいているのが見えた。
友達)ねぇ、あれ。🌼の彼氏くんの隣にいるの、例の年下キラーの先輩じゃない?大丈夫なの?
🌼)うーん、どうなんだろうね…
信号待ちで立ち止まっている蛍の腕にモブ子が腕を絡めて、親密そうに話しかけているところだった。信号が青になり、その横を🌼を乗せたバスが通り過ぎる。🌼は目を逸らし、カバンについた蛍とお揃いの恐竜のキーホルダーを握りしめた。体の奥から冷たくなっていくようだった。
バスが去り、蛍は横断歩道を渡る前にモブ子の腕を無言で払い除け足速に歩き出した。
お互いに話し合えず、時だけが無情に過ぎていった。
春高予選大会。🌼は烏野高校の試合を一回戦から、こっそり蛍を目で追いかけた。どこか冷めたようにやっていた中学時代とは違い、静かに熱くなっているプレーに嬉しくなった。
烏野高校は予想外に勝ち進み、ついに決勝で白鳥沢高校と戦う事になった。
蛍は白鳥沢高校の中に🌼を見つけて、目で追っていた。🌼の隣にいる△△に視線を移して、あいつらには絶対負けないと、密かに闘志を燃やしていた。
試合中、🌼はニ階席から見ていたが、声を出せなかった。敵チームなのに、蛍を応援しそうになるからだ。この試合で、蛍は指に怪我をして一度退場した。慌てて降りていく明光が見えた。すぐに蛍のそばに駆けつけられない事で、初めて白鳥沢高校に進学した事を後悔した。祈るような思いで蛍の帰りを待っていた。その後、蛍も無事チームへ戻り、白鳥沢のエースの牛島先輩のスパイクをブロックで止めた。いつもクールな蛍が、二階席まで届く声をあげガッツポーズする姿を見て、🌼は心が震え涙が出た。
春高の切符を手にしたのは、烏野高校。
挨拶と片付けを終えて、🌼は蛍の怪我が心配で後を追った。会場を出てところに、蛍の後ろ姿を見つけ声を掛けようと走り出した。その時、蛍の背中にモブ子が抱きつき、🌼をチラッとみて不敵に微笑んだ。
モブ子)蛍くーん!かっこよかったよぉ!
🌼は咄嗟に踵を返し、逃げるように会場へ戻った。蛍が先輩たちにからかわれている声を背にして。
その様子を一部始終見ていた明光は🌼に駆け寄る。
明光)🌼…、帰ろう。
🌼)…、うん。
泣くのを我慢している事を気づかれないように、大きく深呼吸をして歩き出した。
春高全国大会一カ月前には、蛍が宮城県一年生選抜強化合宿に収集がかかった。会場が白鳥沢高校だった為、🌼も合宿の手伝いをしていた。平日も合宿があり、休み時間には体育館の周りには人が集まっていた。
友達)🌼の彼氏くんも強化合宿メンバーに選ばれたんだね!すごいじゃん!でも、いろんな意味で目立ってるね笑
🌼)あははは…だね。
蛍は190cm台と高身長であのルックスなので、何もしなくても女子の注目を集めていた。どんどん成長していく蛍を見て、🌼は置いていかれるような気がした。
合宿最終日、練習が終わった後、体育館の隅で片付けをしていた🌼に△△が近づき壁に両手をついて🌼を見下ろした。
🌼)ビクっ⁈△△先輩…、何か用事ですか?
△△)🌼ちゃん、この後暇かな?あのさー
🌼を囲っている△△の手の横に、バンッ!と足が壁に打ちつけられた。重い音が体育館に響き、静かに怒りを込めた声が降ってきた。
蛍)いい加減、諦めてもらっていいですか?
△△)あれあれ、噂のチキンの彼氏さん?やっと登場かなぁ?
蛍)はぁ?んだとっっ!
△△の服を掴もうとする蛍の腕を🌼が必死でとめる。
🌼)蛍、やめて!今、こんな事したら春高ダメになっちゃうよ!みんなに迷惑かかるから!
蛍は出した手をグッと握り、△△を睨んだ。
△△)おぉ、こわっ笑 じゃあね、🌼ちゃ〜ん
△△は手をひらひらさせて挑発するように笑い去っていく。
蛍)ちっ!くそっ!
苛立ちを隠せない蛍。🌼は申し訳ない気持ちもある反面、助けてくれた事が嬉しかった。
🌼)蛍、ありがとう。ごめんね。
蛍)はぁ…なんなの、マジで。🌼は隙がありすぎるから、あんなのに捕まるんでしょ!何?わざとなの?
🌼)そ、そんなわけないじゃない。
蛍)もう、疲れたわ…。限界じゃない?俺たち…
蛍は怒りに任せて吐いた言葉に、ハッとして🌼を見た。🌼は唇を噛み、堪えきれなかった涙が堰を切ったように溢れていた。蛍はドキッと胸に痛みを感じ、泣いている🌼に手を伸ばした。
🌼はバシッ!と蛍の手を振り払い、
🌼)蛍だって、いつも綺麗な先輩とベタベタしてるじゃん!別れたいなら、助けなきゃよかったじゃない!期待させるような事しないでよ!
蛍のバカっ!!
🌼は首に下げていたネックレスをとり、蛍に投げつけ走り出した。蛍の足元に転がったのは、チェーンに通されたボタンだった。中学の卒業式で、🌼にあげた第二ボタンだった。ずっとつけていたのか、金メッキが所々剥がれていた。蛍はボタンを拾い、🌼を追いかけようとしたが、すぐに立ち止まった。
蛍)何やってんだ、俺。追いかける資格あんのかよ…
初めて🌼から拒絶された蛍は、しばらくその場から動けないでいた。
最終話に続く