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第20話:狭間の苦悩
夜の市民区は、紫色の街灯とホログラム広告で昼のように明るかった。
大画面ではダリオの演説が繰り返し流れ、人々は「未来を造るフォージャーの力」に酔いしれていた。
その壇上には、師匠ライラと瓜二つの“偽物”が静かに立っていた。
緑のコートを纏い、黒髪を後ろで結び、額の第三の眼を淡く光らせるその姿。
灰色に近い瞳で群衆を見渡しながら、均整の取れすぎた微笑を浮かべる。
「未来は恐れるものではない。造り出すものだ。私はその証明だ。」
群衆が歓声を上げる。
「師匠が戻った!」
「未来はきっと変えられる!」
「これが正義だ!」
クオンは広場の片隅に立ち、外套の裾を握りしめていた。
灰色の瞳が鋭く光り、第三の眼が脈を打つ。
だがその光には迷いが混じっていた。
横に立つリサが、黒髪を揺らして低く言う。
「……あれは偽物よ。わかってるんでしょ?」
しかし群衆は信じて疑わない。
隣にいたトーマは緑の作業服の腕を組み、苛立ちを隠さずに吐き捨てる。
「本物でも偽物でも、あいつらにとっちゃどうでもいいんだ。未来を信じられる象徴が欲しいだけだ。」
ミナは水色の瞳を揺らし、三つ編みを強く握った。
「でも……クオンさんはどうするの? 本物の師匠を探してるのに、みんなが偽物を信じちゃったら……」
クオンは答えられなかった。
心の中で、確かにあの“偽物”の姿に揺さぶられていた。
歩き方、声の調子、第三の眼の光──全てが記憶の中の師匠ライラに重なってしまう。
「俺の正義は……命を守ること。
だが、あれは“偽物の命”だ。
けれど……偽物でも、人を希望で導いている……」
都市の上空には国家の監視ドローンが飛び交い、全てを記録していた。
国家は偽物を危険視し、フォージャーは利用し、市民は熱狂する。
秩序と造られた未来、その狭間に立たされるクオン。
灰色の瞳は揺れ、第三の眼が微かに震える。
「……師匠、本物なら、俺にどうしろと言うんだ。」
夜の都市に響くその声は、誰にも届かなかった。
だが確かにクオンの中で、「本物」と「偽物」の狭間の苦悩が深く根を下ろしていた。
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