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第21話:鏡の残像
都市の境界区、廃墟となった旧管理庁舎。
かつて国家の未来修正センターが置かれていた場所で、今は誰も近づかない。
灰色の壁面には古いホログラムの残像がちらつき、半壊した窓からは冷たい風が吹き込んでいた。
クオンはそこに立ち尽くしていた。
墨染めの外套に身を包み、灰色の瞳は静かに周囲を観察している。
額の第三の眼が淡く震え、周囲に光の歪みを生み出していた。
ふいに、視界が揺らいだ。
壁の向こうに、もう一つの都市が重なって見える。
そこには上下逆さに並んだ高層ビル、歪んだ空に漂う街路灯、歩く人々の影だけが存在していた。
それは、誰も認めない「鏡の世界」の残像だった。
「……俺にしか、見えていない……」
クオンは額を押さえ、深く息をついた。
背後から声がした。
「どうしたの?」
振り返ると、ミナが立っていた。
栗色の三つ編みを肩に垂らし、水色の瞳を心配そうに揺らしている。
灰色のカーディガンを羽織り、第三の眼はまだ弱く光るだけだった。
「クオンさん、顔色悪いよ……」
彼女の後ろから、トーマが現れる。
緑の作業服姿、筋肉質の腕を組み、深い茶色の髪をかき上げる。
「また“異常な光”を見てるんだろ。俺たちには何も映っちゃいない。」
さらに、黒髪を束ねたリサが歩み出た。
琥珀色の瞳が鋭く光り、茶色のロングコートを翻している。
「クオン、あなたの第三の眼にだけ“鏡”が見えてる……そういうことね。」
クオンは灰色の瞳を閉じ、低く答えた。
「そうだ。俺には映る。だが、この残像を口にすれば国家に消される。
……だから、誰にも言えなかった。」
リサは息を呑み、ミナは不安そうに彼を見上げた。
トーマは苛立ったように吐き捨てる。
「なら黙ってろよ。そんな危険なことに関わる必要はねぇ。」
だがクオンは静かに首を振った。
「……師匠が触れた痕跡は、間違いなく“鏡の世界”に繋がっている。
それを追わなければ、俺の正義は果たせない。」
額の第三の眼が再び強く光る。
現実の都市と鏡の都市が重なり合い、廃墟全体が異様な静けさに包まれた。
誰もが知らぬままに、クオンだけがその狭間を見ていた。
秩序と禁忌を分ける境界が、確かに揺らぎ始めていた。