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時は進んで、本日で5回目の接種だ。5回目ともなると、1人1人が衝動に駆られる時間が長くなり、いやでも集団接種には時間がかかる。俺も打ってみるが、ここまで来ると身体に負担がかかり始める。

なかにはこんな事を言う者まで現れる。

「公安さんよ。私はもう怖い。」

「どうしてでしょう。」

「自分の体が自分のものじゃなくなっていく気がするんだ。」

薬の効果が切れた希望者は身を震わせながらそう言う。

「自分が求めていたとはいえ、不老不死によって自分の結末が無いというのは堪えるよ。 」

「本当にそうでしょうか。この薬に中毒性は無いので、D.G氏も続けてみてはどうでしょう。」

その場は諌めることができた。俺は淡々とD.Gのカルテに「恐怖の兆候アリ」と記した。

また、ある者は既に正気を失い、俺に襲いかかってきた。

「ぐがああああ。」

後ろに居たララが前に出てくれた。取っ組み合いを始めたため、俺は容赦なく指を何本か切り落とした。その人は痛みで正気に戻ったが、自身が何をしたかあまり覚えていないようだった。

「あっ。え。俺は一体何したんだ。」

出血が酷かったが、指は当人の知らぬうちに生え揃っていた。これには少々の恐怖が生まれた。これもカルテ記したが、ガルネンはノアの計画を続行させた。

俺達も接種を続けている。俺がララと同時に接種して違った点は、ララは俺よりも効果の時間が長くなっている。その差は ほんの少しだが、残りの14回も打てば大差だろう。つまり、彼女は薬の進行が早いのである。俺は内心ほくそ笑んだことは黙っておいた。




5回目の接種以降、初非番の日に俺の部屋に来客があった。扉を開けると、ノックの正体はタイガであった。

「よう、珍しいな。タイガから来るなんて。とりあえず入れ。」

今まで何度かタイガの部屋に訪れることはあっても、彼から来たことはなかった。何か用事があるのかもしれない。

「俺も変だとは思っているんだが、どうしても気になることがあってな。たまらず来ちまった。」

「気になることか。」

以前にも思ったが彼は野生の勘に近い感覚が鋭い。きっと第六感に近いものが、幾度も死線を切り抜ける切り札となっただろう。

「数日前、俺は夜中に嫌な予感がしたんだ。何かの叫び声というか、動物の鳴き声というか。そういう類いのものが聞こえた気がするんだ。」

俺は努めて冷静に、いつも話しているようにしてみる。きっと彼が言っているのはノアの計画に関することだろう。

「来てくれたことに歓迎しないわけじゃないが、それがどうして俺を訪ねる訳になるんだ。」

タイガも「俺にも訳がわからない」という感じで見つめてくる。

「ただ、その声がシャルルに似てたんだ。んで、心配になってきてしまった。」

疑問が生まれた。動物の鳴き声のような声が聞こえたのなら、俺の声では無いではないか。しかし、その声は俺が助けを求める声だったようだ。とりあえず部屋に入れ。俺の催促でタイガは部屋に入る。

「俺たち、こないだから変なこと言ってばかりだな。話変わるが、俺になんか隠しちゃいないか。」

タイガに、ノアの計画のことは正直に話すべきかどうかは考えてはいた。考えていた。しかし、まだ答えはすぐに出せなかった。

「やっぱ、なんか隠してるんだな。」

何秒かの俺の沈黙の末、タイガから口を開いた。ずるい聞き方をするものだ。隠し事の有無から確認すると、咄嗟に答えられない時点で黒であることが確定する。第一印象のとおり、頭がキレる男だ。俺は隠し事に関して話すことは迷った。しかし、タイガへの態度は決まっている。

「隠し事はあるにはある。そして話すつもりもない。 」

「そうか…。それは時間が解決してくれるのか。何が言いたいかと言うと、時間が経てば俺に話してくれるのか。」

「突き放すような言い方で悪いが、タイガには関係のないことだ。これは俺の問題だから、この隠し事に関しては、内容を知らずとも俺の態度や見た目を見れば進捗が分かることだ。」

もし俺がノアを乗客に接種させているところをタイガが見たら、なんと言うだろう。何も言わずに無言で殴りかかってくるかもしれない。いや、ひょっとしたら、協力してくれるかもしれない。いずれにせよ彼は俺やララとは違う。正々堂々と生きるべき人間だろう。

一度道を踏み外した人間が、再び同じように道を踏み外すことは容易いと俺は思う。殺しを犯したことがある俺やララは、ノアがどういうものか重々承知してもなお接種し続けている。そういうことにあまり抵抗が無くなってしまう。ノアで生物という括りから著しく外れるというのに。だからこそ、1度も人を殺したことのないであろうタイガが人道を踏み外すのは見てられない。

「ったく。シャルルはクワッドを組んだときから冷たいまんまだ。まあ、お前がそう言うのなら、俺はただ観察だけをさせてもらおう。」

「是非ともそうしてもらおう。」

張り詰めた緊張の糸はお互い切って、しばらく他愛の無い雑談の末、タイガは部屋から退室した。それは、出動の時間が近づいているからである。




また夜の出動である。初めての巡回と何ら変わりなく行われていく。変わっていることと言えば、全員が慣れてきたことによる仕事の進捗具合である。

『我々も慣れたもんだ。』

楽勝楽勝、と言わんばかりにタイガが発信する。

すると、俺の前に見たことのある人影が見えてくるようになる。杖を突いたその姿は、5回目の接種で俺に話しかけてきたD.G.だ。お年寄の彼は足が悪いのか杖を突いている。挨拶をしてみるも、反応が悪い。

「D.G.氏、どうかしましたか。ご健勝そうに見えますが口数が少ない様子で。」

本能的に感じる。嫌な予感がするのだ。無視出来ないほどに。心拍数が上がるにつれて体温が上昇し、俺の背中には妙な汗が流れる。顔の汗がしたたり、地面に落ちるのを合図にD.G.は俺に諸手を挙げて襲いかかってくる。俺はなんとかしゃがんで避ける。

「やはりかあっ。」

想定した通り、彼は人間では無くなっているかもしれない。為す術はまだ無い。1度離れて応援を呼ばなくては。D.G.は完全に薬にイカれてしまったかもしれない。

『敵襲だ。クワッド79、応援を要請。3F6時方倉庫まで来りし。』

走って逃げてみるも、足の悪いはずのD.G.は杖を捨てて構わず追いかけてくる。それなりの速度だ。

「ますますご健勝そうで何よりだなD.G….。」

銃を打ち、足を狙ってみるもやはりうまくいかない。こちらも走っているため弾道が乱れる。そのうち、俺は重い扉の倉庫に立てこもることを選択した。

『俺は倉庫に立てこもる。タイガは注意を引け。扉開けて背後からヤツを撃つ他ない。ララはガルネンを呼べ。バーに居るはずだ。』

了解。という心強い一言が耳に帰ってくる。扉を老人とは思えない力で叩かれ、押さえている背中からは振動が伝わる。しばらくして止んだかと思うと、タイガの雄叫びが聞こえた。そこから2種類足音がバタバタと。扉を叩き開け、俺は背後からD.G.の足を狙う

「うがあああ。」

命中した。足の骨を貫通し、うまく立てなくなっている。

『無力化に成功。ララは早く来い。』

『もう着くよ。』

「はあ、はあ、はあ、一体こいつはどうしたんだ。まるで人間じゃないぞこりゃ。」

「これがまさに俺がタイガに隠していたことだ…。まさかこんな早くバレるとは。ソイツについては後で説明する。今はララを待とう。」

「おい、まだ暴れてるぞ。」

しばらくして、ララとガルネンが走ってきた。ララはバーから結束バンドをくすねてきたため、それで手足を拘束した。拘束をしてから、まずガルネンから口を開いてきた。

不死身クリーチャーになるのが思ったより早かったね。…こんなこともあるだろうと思って、僕はコイツを閉じ込める為の檻のようなものを持ってきたんだ。 」

タイガが居るにも関わらず、呑気にララが話を進める。

「老人が先に成ったことを考えると、その個体の生命力とか関係してそうだけど。」

「用意周到すぎるだろ。例えば、このままじゃダメなのか。 」

「シャルルくんが死にたかったら、このままでもいいよ。でも、この個体はきっと元の力が弱いから破れないだろうね。」

つまり、通常の個体は結束バンドの拘束を破れるほどの怪力であるということだ。

「おい、さっきから黙ってたら、俺を置いてけぼりにしてよお。クリーチャーだとか生命力だとか。一体何がなんだかわからん。説明してくれ。」

ガルネンはタイガに向き直って、首を振った。

「君は公安機関員だろう。説明は出来ないな。」

目つきが変わる。彼にとっては理不尽なことであるゆえに苛立ち多いのだろう。

「多少強引にしてでも吐かせてやろうか。」

「やってみなよ。こう見えて僕は拷問の訓練も受けてるんだよ。」

一触即発の雰囲気が生まれる。ララは力んでいる。しかし、その拳は一体どこへ放とうというものなのだろうか。

不死身«クリーチャー»

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