テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
63
217
ぬいぬい
2,936
ぬいぬい
3,836
稼いで親孝行するぞ!と意気揚々と上京したものの、東京の容赦ない物価と家賃に秒速で打ちのめされ、上京2日目にして完全なる金欠に陥った僕。
路地裏で拾った怪しげなチラシを頼りに「黄泉國(よみぐに)探偵事務所」のドアを叩くと、そこにいたのは顔だけは無駄に良いが、真顔で「右腕が死期を迎えた(※ただの肩こり)」とボケる謎の男・黄泉國 尊(よみぐに みこと)だった。
彼の異常な言動に思わず全力のツッコミを入れてしまった結果、なぜかその場で助手として採用され、僕の明日の食いぶちは(一応)確保されたのだった
______________________________
採用から三日目。
事務所のソファで、僕は早くも自分の選択を後悔し始めていた。
「ねえ黄泉國さん。この事務所、三日間で来た客って、道を聞きに来たお巡りさんと、乱入してきた野良猫だけですよね? 僕のお給料、本当に支払われます?」
デスクで真顔のまま、ひたすら鉛筆を1ミリの狂いもなく並べ替えていた黄泉國が、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には相変わらず生気がない。
「心配いりません。我が事務所の財政は常に『無』です。無からは何も生まれませんが、失うものもありません」
「ドヤ顔で破産宣告するなよ! 僕の給料は失われてんだろ!」
「それに」と黄泉國は窓の外を見つめた。「噂をすれば、死人が扉を叩く音がします」
コンコン、とタイミングよく控えめなノックの音が響いた。
入ってきたのは、仕立てのいいスーツを着た、ひどく顔色の悪い中年男性だった。怯えたようにあたりを見回し、僕たちの前に座る。
「あ、あの……ここに頼めば、どんな奇妙な事件でも解決してくれると聞きました……」
「ええ。当事務所は、迷子の子猫から、現世の未練の整理まで幅広く取り扱っております」
「勝手に業種をオカルトに広げるな」
僕が小声で突っ込むと、依頼人はすがるような目で黄泉國を見た。
「実は……私の『昨日』が盗まれたんです」
「昨日……ですか?」
僕が首を傾げると、男は懐から一冊の手帳を取り出した。
「はい。手帳にも、スマホの履歴にも、私が昨日何をしていたかの記録が一切ないんです。それだけなら物忘れかもしれませんが、気づいたら私の銀行口座から、ぴったり300万円が引き出されていて……。でも、何に使ったのか、誰に渡したのか、全く記憶がないんです!」
男の必死な訴えに、僕は思わず身を乗り出した。記憶喪失、あるいは巧妙な詐欺事件か。
これぞ探偵事務所らしい本物の事件だ!
僕が緊張の面持ちで黄泉國の反応をうかがうと、彼は大真面目な顔で、すっと人差し指を立てた。
「なるほど。それは大変な事態ですね。つまりあなたは昨日、時空の歪みに巻き込まれて恐竜時代にタイムスリップし、ティラノサウルスに300万円のカツアゲに遭った可能性が極めて高い」
「あるわけねぇだろ!!! どんな超大作のSFだよ!!!」
僕のツッコミが響き渡る中、黄泉國は全く表情を変えずに立ち上がった。
「冗談はさておき。……彼の後ろを見てごらんなさい」
黄泉國の冷ややかな視線が、依頼人の背後の空間に向けられる。
その瞬間、事務所の空気が一気に冷たくなったような気がした。
「彼が失ったのは『昨日』ではない。……すでに、ね」
真顔でボケ倒していたはずの「冥探偵」の目が、一瞬だけ怪しく光った。
そして僕は小さく
「てか死人じゃなくて依頼人だろ」
と突っ込んだのだった。
______________________________
今ねス○イダーマン見てるー
おもろい
コメント
1件
このエピソード、めちゃくちゃ面白かったです!「昨日が盗まれた」って謎と、黄泉國さんの真顔ボケの温度差がたまらないですね。恐竜にカツアゲ説で全力ツッコミ入れずにはいられない(笑)。最後の「すでに、ね」で一気に不気味な空気に変わったところ、めっちゃ痺れました。タイトル回収も上手いし、第3話でこの引きはズルいですよ…続きが気になりすぎます!地の文でスパイダーマン見てる話も好きです、そういう遊び心大事ですよね!