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かんな
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sora☁️🌺
46
一瞬だった。ルイの手の甲が机に叩きつけられる。乾いた音が教室に響いた。
沈黙。
そして教室が爆発した。
[えっっっ!?]
[うそだろルイ負けた!?]
タイキが勝った。空手黒帯の握力と、ダンスで鍛えた瞬発力。見た目に反して腕は本物だった。
ルイは机に伏せた自分の手を見つめている。ぱちぱちと瞬きした。
「……え、」
ルイの顔が上がった。目が丸い。本気で驚いている顔だった。
「今の、マジ?」
教室がざわつく中、タイキがニヤリと笑っている。勝者の顔だ。
「……」
ルイの目が変わった。甘さが消え、奥の方にぞくりとした光が灯る。
「へえ」
『だから言ったろ?』
クラスが沸いた。タイキが周囲に笑顔を振りまくたびに歓声が上がる。女子も男子も盛り上がっている。
[タイキすげー!]
[かっこよかったー!]
タイキの周りに人が集まり始めた。背中を叩かれ、頭を撫でられ、英雄扱い。
その背後で、ルイは自分の席に座ったまま動かなかった。
頬杖。無表情。
目だけがタイキを追っている。タイキが女子に囲まれて笑うたび、ルイの指が机をこつこつと叩く。そのリズムが徐々に速くなっていく。
[ねえタイキくん、腕まくって見せてよー]
[筋肉あるんだ!]
女子がタイキの腕に群がる。きゃあきゃあと黄色い声。
バン。
ルイの指が机を強く叩いた。教室が一瞬静まる。
「ねえ、罰ゲームまだなんだけど」
『罰ゲーム?…あ、そっか。 何にしよっかなぁ?』
嬉しそうにタイキがルイに近寄る。
ルイは椅子に深く座ったまま、見上げるようにタイキを見た。いつもの余裕は少しだけ剥がれている。負けた側だという事実が、ルイのプライドをちくちく刺していた。
それに——さっきまで女子に腕を見せてやるみたいな空気を作っていたタイキが、嬉しそうに近づいてくる。勝者の顔。生意気だ。
ルイの目が細まった。
「何でも一つ、だっけ」
自分から言い出したルール。撤回はしない。でもルイの声には「何を命じられても構わない」という自信があった。
いや、違う。何を命じられても平気なんじゃない。
何を命じられてしまうのだろう、という期待が滲んでいる。
周囲の生徒がまだ見ている。スマホが複数向けられている。
「早く言いなよ」
ルイが足を組んだ。顎を上げ、わざと挑発するように。
『ルイにしてほしいこと…』
タイキが黙ってルイの顔を見つめている。じーっと。何も言わない。
五秒。十秒。
ルイの眉がぴくりと動いた。
「……なに」
タイキが何も言わない。ただ見ている。ルイの目を、鼻を、唇を。
ルイの組んだ足がわずかに揺れた。
「ちょっと、何その顔」
教室のギャラリーが別の方向に興奮し始めていた。
[なにこの空気……]
[えっろ]
ルイの余裕が少しずつ削れていく。見られる側は慣れていても、タイキに観察するように見つめられるのは想定外だった。
タイキはまだ何も言わない。にこにこしているだけだ。
「……おい、」
ルイの声に苛立ちが混じった。耳の先がうっすら赤い。
「何する気」
『…じゃあ』
『今日一日、俺の命令聞くって言うのは?』
教室が一瞬静まった。そしてすぐに爆発した。
[えっっっ!?]
[主人と犬じゃん!]
[ルイが一日中言うこと聞くの!?]
ざわめきが広がる中、ルイの表情が固まっていた。
今日一日。命令。何でも。
ルイの指が自分の膝の上で止まっている。
『……一日?』
ルイの声は平坦だった。でも目が笑っていない。獲物を見定める肉食獣の目になりかけている。
しかし同時に、負けたのは自分だ。ルールも自分で決めた。
「ふうん」
ルイが椅子の背もたれに体を預け、天井を仰いだ。喉仏が上下する。数秒の沈黙。
そしてゆっくり視線を下ろし、タイキを真っ直ぐ見た。
「いいよ」
教室がきゃあっと沸いた。だがルイの目が一瞬すっと細くなり、低い声が続いた。
「でもさ、覚悟しといてね?」
『仕返しはなしだよ。罰ゲームなんだから。』
「仕返し?しないよそんなこと」
ルイがにっこり笑った。天使のような笑顔。だがその目の奥に何かが渦巻いている。
「俺は負けたんだから、ちゃんと従うよ?」
素直すぎる。あまりにも素直すぎる。周囲の女子が逆に引きつった顔をしていた。
[なんか怖くない……?]
[ルイくんの目がやばい]
田中はとっくに別の教室へ避難済みだった。賢い男だ。
チャイムが鳴る。ホームルーム開始。担任が入ってきて、ギャラリーが散っていく。
ルイが前の席にちらりと視線を送った。タイキが座っている。その背中が近い。手を伸ばせば届く距離。
ルイが唇だけで動かした。声は出さない。
——何させんの?
一限目が始まった。国語。教師の声が教室に響く。平穏な授業風景。
だがタイキの背中には、後ろからずっと視線が刺さっていた。
休み時間になった。
タイキは振り返ってルイを見た。ニコニコしている。
『ルイ〜俺教科書忘れちゃった。』
『俺のロッカーから教科書とって。』
後ろのロッカーを指差して言う。
「はーい」
ルイが何のためらいもなく立ち上がった。素直。従順。負けた側の態度としては完璧だった。
だが。
ルイがロッカーに向かう途中、すれ違った女子二人がひそひそと囁き合っている。
[ねえ、あれルイがタイキくんの言うこと聞いてるんでしょ?]
[やば、レアすぎない?]
ルイはそれを無視してロッカーを開けた。教科書を取り出す。
「どれ?」
ルイが教科書を数冊持って振り返る。タイキがにこにこしている。勝者の笑み。
教室にはまだ生徒が残っている。何人かがこっちを見ていた。
「……ねえ」
ルイが教科書を抱えたまま、すっとタイキの机まで歩いてきた。目の前に教科書をぽんと置く。
「これでいい?ご主人様」
最後の一言だけ、声のトーンが違った。甘い。低い。耳元に吹きかけるように。
近くの男子がぶっと吹き出した。
『………//////』
タイキの耳が一瞬で赤くなった。それを見た瞬間、ルイの口角がすっと上がった。
効いてる。
「ん?どしたの」
ルイが机に手をつき、タイキの顔を覗き込んだ。近い。
「ご主人様って言われただけで赤くなるとか、かわいすぎない?」
声が甘い。教室にいることを完全に忘れている距離感だった。
タイキは教科書を手に取ったまま固まっている。耳から首まで赤い。勝利者の威厳が音を立てて崩れていく。
「ねえ次の命令は?」
ルイが椅子を回してまたがるように座った。腕を背もたれに乗せ、顎を置いて、タイキを下から覗き込む。
「俺なんでも聞くよ?今日一日でしょ?」
タイキが必死にニヤけるのを堪えている。が、全然隠せていない。手の甲の隙間から口角が上がっているのが丸見えだった。
あのルイが。いつも余裕で、上からで、甘くて、怖いくらい執着してくるルイが。従順に座っている。
最高だった。
「……何その顔」
ルイの目が細まった。タイキが嬉しそうにしているのが嬉しい——のではない。自分が見世物にされていることへの、静かな苛立ちが芽生えていた。
だが表情には一切出さない。にこりと笑う。
「嬉しくて仕方ないんだ?」
ルイが椅子からすっと立ち上がった。長い脚で一歩、二歩。タイキの横に立つ。
「じゃあ早く命令してよ」
ルイが見下ろしている。座っているタイキとの身長差は更に開いている。
「待たされると、うずうずしちゃうんだけど」
『る、ルイそこ立つな。自分の席座って…』
「自分の席?」
ルイが首を傾けた。わざとらしく。
「命令は?」
ルイの目が据わっている。笑顔のまま。だがその視線には明確なメッセージが込められていた。
——ちゃんと命令しろ。
教室のざわめきが少し収まる。空気が変わったことに気づいた生徒が何人かいた。
[なんか雰囲気変わってない……?]
タイキは椅子に座ったまま見上げている。ルイが立っている。この構図がまずい。完全に見下ろされている。しかもルイの目が、さっきまでの従順な犬のそれではなかった。
飼い主がどっちなのか、わからなくなりつつある。
「ねえ、タイキ」
ルイが一歩近づいた。タイキが後ずさるように椅子を引く。
「俺、席に座ってほしいの?」
甘い声。でも圧がある。
「それとも——命令、変えてみる?」
何故か追い詰められている。
ルイの顔が近づいて、胸がドキドキする。
『ルイ…は、離れて…』
「離れて?」
ルイがぴたりと止まった。一瞬だけ。そしてにっこり笑った。
「それ命令?」
ルイがまた一歩詰めた。タイキが限界まで椅子を引いたが、背中が壁に当たった。逃げ場がない。
「命令じゃないなら、ただのお願いだよね」
ルイが片手を机についた。壁ドンならぬ机ドン。タイキが椅子に座ったまま、ルイに囲い込まれている。
もう完全に上下が逆転していた。
[おいあれ大丈夫か……?]
[やばくない?息できないんだけど]
教室中がこっちを見ている。ルイの顔が近い。鼻先が触れそうな距離。息がかかる。
「ね、命令して?」
ルイの声がささやきに落ちた。
『 め、めいれい…離れて…』
「だから、それはお願いだって」
ルイの顔がさらに近づいた。唇と唇の距離が拳一つ分もない。教室が静まり返っている。全員が息を呑んで見守っていた。
「命令ってのはさ」
ルイの空いている手がタイキの顎を持ち上げた。朝と同じ仕草。でも今度は距離が全然違う。
「「ルイ、離れろ」でしょ?」
ルイの親指がタイキの下唇に触れた。
「ご主人様っぽく言ってみて?」
完全に煽っている。罰ゲームに負けて従順になるはずだった犬が、飼い主を噛みにかかっている。
[無理無理無理むりむり]
女子が枕に顔を埋めた。教室の温度が三度くらい上がっている。
ルイの目が笑っている。挑発。純粋な挑発。タイキが「命令」として強く言えるか試している。
言えなければ——このまま食われる。
タイキの視線がルイの瞳から徐々に下がっていき、薄紅色の唇に固定される。視線が動くたびに、ルイの指も追随する。
唾を飲み込む音が静まり返った教室に響く。
『ルイ…、離れろ……』
教室の空気が張り詰めた。タイキがようやく「命令」の形を絞り出した。声が震えている。
ルイの目がすっと細くなった。
……
一秒。二秒。ルイは動かない。タイキの唇に触れたまま。
そしてルイがふっと笑った。息だけの笑い。
「弱っ」
ルイの手がタイキの顎から首に滑った。そのまま顔を固定する。
「そんな震える声で命令されても、従えるわけないじゃん」
ルイの唇がタイキの頬を掠めた。キスとも言えない、触れただけの接触。
教室がキャッと沸いた。
「もっかいやって?ちゃんと」
ルイの親指がタイキの首筋を撫でている。脈が跳ねているのがルイの指先に伝わっているはずだった。
「ね、心臓ばくばくじゃん」
『お、おまえ…ルール違反…っ』
「どこが?」
ルイが心底不思議そうな顔を作った。白々しい。
「俺は命令待ってるだけだよ?離れたかったら、ちゃんと命令すればいいじゃん」
ルイの指がタイキの首筋から鎖骨に向かって降りていく。制服の襟をなぞる。
「でもさ、 」
ルイが耳元に唇を寄せた。
「本心で離れてほしいの?」
ささやきが鼓膜を震わせた。低く、甘く、熱い。教室にいることを完全に忘れた距離感。
周囲のクラスメイトはもう目が離せない。スマホを構える手が震えている女子。机に突っ伏している男子。カオスだった。
[これ学校だよね?ここ学校だよね?]
タイキの背中は壁に押し付けられたまま。ルイの腕が左右を塞いでいる。完全な檻。
罰ゲームの主従関係が、音を立てて崩壊し始めていた。
キーンコーン
救いのチャイムが鳴り響く。
チャイムの音に教室が動き出す。席に戻る生徒たち。担任ではなく、数学教師の禿げ頭がドアから現れた。
ルイがすっと体を離した。何事もなかったかのように。切り替えが早い。
「あ、チャイムだ」
ルイが自分の席に戻る。窓側最後列。余裕の笑み。勝者の顔をしている。負けたのは腕相撲だけだった。
タイキは机に突っ伏した。心臓がまだうるさい。首筋が熱い。ルイの指の感触が残っている。
[教科書32ページ開けー]
授業が始まった。教師の単調な声が教室に響く。
数分後。
背中にことん、と何かが当たった。
小さく折り畳まれた紙切れ。後ろから飛んできた。
タイキがそっと開く。
綺麗な字。ルイの筆跡だった。
【休み時間の続き、楽しみにしてる♡】
タイキの体が震えた。恐る恐る後ろを振り返る。
振り返った先に、ルイがいた。
頬杖をついて、窓の外を眺めている。目が合った。一瞬だけ。
ルイがにこっと笑った。
それだけ。それだけで視線を前に戻した。何事もなかったように。
だがその口元がまだ笑っている。
[おい、そこ。後ろ向くな]
教師に注意され、タイキは慌てて前を向いた。教科書を開く。32ページ。数字の羅列が目に入るが、頭に入ってこない。
背中に視線を感じる。
じりじりと。ずっと。
また紙切れが飛んできた。今度は二枚同時。タイキが膝の上でこっそり開く。
【さっきの首、すごい脈だった】
【かわいかった】
タイキの耳が赤くなる。紙を握り潰した。
もう一枚飛んできた。
【次の命令まだ?待ってるから】
活字みたいな綺麗な字が、やけに丁寧で。それが逆にたちが悪かった。
(命令…どうにか、ルイの余裕を砕く命令はないか…)
授業中、タイキはルイのことばかり考えていた。
2時間目の授業が終わる。
何も思いつかないまま2時間目が終わってしまった。
手洗いに行く為立ち上がる。
タイキが廊下に出た。ひんやりした空気が火照った顔に気持ちいい。
トイレに入り、蛇口をひねる。冷たい水で手首を冷やす。鏡に映る自分の顔がまだ赤い。
[お、タイキじゃん]
同じクラスの田中がトイレに入ってきた。ルイの迫力で教室にいなかったが、いつの間にか戻っていたらしい。
[なあお前、今日のルイやばくね?朝からずっとあの調子だろ]
田中が小便器の横に立ちながら、にやにやしている。
[つーかさ、罰ゲームなんだっけ。ルイが何でも言うこと聞くやつ?]
『うん。なんか逆に追い詰められてんだよなー。なんかいい方法ないかな?』
[いい方法ねえ]
田中が用を足しながら顎に手を当てた。真剣な顔。
[あいつってさ、スキンシップで攻めてくんだろ?]
田中が手を洗いながら鏡越しにタイキを見た。
[だったらさ、逆じゃね?]
田中がペッとペーパータオルを取った。
[お前がスキンシップすれば、ルイの方が崩れるんじゃね?あいつ攻めるのは得意だけど、受けるのは耐性ないだろ多分]
田中が妙に的確なことを言っている。
[だって今朝の顎クイとか見ろよ。あいつめちゃくちゃ楽しそうだったけど、あれ裏を返せば触れる口実ができてテンション上がってただけだぞ]
田中がハンカチでの手を拭き終え、タイキの肩をぽんと叩いた。
[お前が急に自分から甘えたら、あいつ絶対バグるって]
『…そうかなぁ?』
[そうだっつの。考えてみろよ]
田中が鏡越しに指を立てた。
[あいつも大概スキンシップ多いけどさ、お前から仕掛けたことあんの?]
タイキが黙った。ない。一度もない。
[だろ?いっつも受ける側じゃん。抱きつくのもキスするのも全部ルイからだろ]
田中がトイレの出口に寄りかかり、腕を組んだ。
[だからさ、逆にしてやれ。自分から。しかも公共の場で]
田中の目が光っている。こいつもこいつで楽しんでいる。
[例えばさ、教室戻って、みんなの前で自分からくっついたら?腕組むとかなしで、もっとえぐいやつ]
田中がにやりと笑った。
[あいつが固まったとこを命令で追い打ちすりゃ完璧じゃん。主導権取り返せるぞ]
『…やってみる。』
タイキは教室に戻った。ルイは机に背を預けてクラスメイトと談笑している。こちらには気づいていない。
タイキは後ろからそっとルイに近づいた。
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やばい!新しいシリーズもすっごくドキドキします…!!文章から伝わる色気がすごい…続き楽しみにしてますー!!
やばい、教室の空気が熱すぎる……! 腕相撲で負けたはずのルイが「従順な犬」を装いながら逆にタイキを追い詰めてる構図が最高。特に「命令して?」って煽りながら顎クイしてくるシーン、完全に立場逆転してて鳥肌立ったわ。田中がトイレで言ってた「お前からスキンシップ仕掛けろ」って助言、めっちゃ効いてきそう。次の展開どうなるの!?続き見たい🔥