テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
薄暗い監禁部屋の中でなつは浅い呼吸を
繰り返しながら眠っていた
──夢の中
小さな手が泥だらけになっている
誰かが笑ってる
もう一人が、「やめろよ〜」
と小突いてくる
木の下の空き地
缶蹴りをしていたら誰かが思いっきり
転んだ
「あっははは!またこけた〜!」
「おい、笑いすぎ。いるまも笑ってるし」
ー
暇72、……なんで、俺だけ泥だらけ?
ー
──220番 123番
そして、自分──72番
「笑ってれば強くいられるんだよ!」 「……変なやつ」 「うるせぇ」
懐かしい声
あたたかい時間
けど、それが“現実”ではないことを
夢の中のなつはどこかで知っていた
──急に視界が滲んで、音が遠くなる
──声が、消える
──風景が、崩れる
ー
暇72、まって……やだ……ここにいさせてよ……ッ
ー
夢の中で、泣きそうになりながら叫んだ時
バッ……!
なつは、冷たい床の上で目を覚ました
荒く、苦しげな呼吸が止まらない
──視界が揺れる
──喉が詰まる
ー
暇72、ッ……ぁ……ッ”、……ハッ、……!
ー
酸素が入ってこない
頭が割れるように痛い
心臓が潰れそうに早くなる
“夢”がただの夢じゃなかったことに
身体が勝手に反応してる
ー
暇72、…ッ、ハ……! ハッ”……!
ー
その手が、床をぎゅっと掴む
歯を食いしばっても、どうにもならない
どこかが張り裂けそうな“孤独”に
ただ苦しくて、ただ涙が溢れた
ー
暇72、…なんだよ……これ……
なんなんだよ……ッ、ポロ
ー
過呼吸が落ち着いてきた頃
なつは床に膝を抱え、まだ喉の奥に引っか
かる息を吐きながら、ただ前を見ていた
──その時だった
ー
みこと、わ、え、?泣いてる、
ー
不意に開いた扉から、ひょこっと顔を
のぞかせた人物がいた
ー
みこと、だ、大丈夫?
ー
なつがビクッと反応して、目を見開いた
驚き、恐れ、そして何より恥ずかしさが
一気に押し寄せる
ー
暇72、ッ! な、…ないてねぇーし!
みこと、ご、ごめん!勘違いだった?
ー
あたふたしながら部屋に入りかけた
その人物
髪の毛はふわっと柔らかくどこか王子様の
ような顔立ち
動きは小動物みたいにぴょこぴょこしてる
なつが睨むように問う
ー
暇72、……、だれ?
みこと、わぁ、そうだよね、自己紹介まだ
だったね えっと…みことって言うんだ!
暇72、…へー
みこと、なんか泣いてたらほっとけなくて
泣いてた理由あるでしょ?
ー
なつは、黙っていた
否定したかったけど、
もう強がる余裕もない
ー
暇72、……放っとけよ…お前に、
関係ねぇだろ
みこと、……関係ないけど、
でもね──僕は“見ちゃった”から
……知らん顔できないの
暇72、…なんか、優しいね
みこと、ッ! そうかな、//
ー
そう言って笑うみことに、なつは少しだけ──ほんの少し、肩の力を抜いた
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
その日
なつはまた部屋で一人
昨日の夢がまだ尾を引いているのか
ぼんやりと天井を見つめていた
──扉がノックされる
ー
いるま、……入るぞ
暇72、今日は……何よ?
いるま、話っていうか──ちょっと
試してみてぇことがあってさ
…なぁ、触っても、いいか
暇72、は?
いるま、いや、そういう意味じゃねぇ
記憶とかさ、心とか──そういうのって
“触れること”で、少しずつ思い出すことも
あるって聞いた
暇72、……それ、誰に聞いたんだよ
いるま、みこと
暇72、絶対信用ならねぇじゃんそれ
いるま、……強引には、しねぇよ
でも、少しだけ……昔のお前を、
思い出してみてほしい
暇72、……まぁいいけど はい
ー
そう言って手を差し伸べる
指先が、少しだけ、触れた
……
それだけのはずなのに
指先から全身にかけて、何かが駆け巡る
あったかい
柔らかい
懐かしい
でも、それを言葉にするには
まだ勇気が足りない
ー
暇72、…なんか……変な感じ
お前の手って、こんなだったか……
いるま、──……あぁ、そうだな
ー
その時間は数秒
でも、その数秒が、なつの記憶に確かな
“温度”を残していった
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
翌日
昨日と同じように
いるまが部屋へやってきた
扉を開けた瞬間、目が合う
なつは昨日よりも落ち着いていて
何かを決めたような目をしていた
ー
いるま、調子どうだ?
暇72、…まぁ、普通
ッ………、、昨日の、あれ
いるま、……あれ?
暇72、……触れたやつ//.
いるま、……あー、あれか
暇72、……それ、もう一回、やって、ッ
ー
一瞬、静まり返る空気
いるまは驚いたような目をしたあと、
少しだけ笑った
ー
いるま、お前から言ってくるとはな……
珍しい
暇72、うっせぇな……
ー
なつは目をそらしながら手を差し出す
その手は震えていた
けれど、ちゃんといるまの方に伸びて
そっといるまが手を重ねた
静かに、手のひらと手のひらが重なる
──あたたかい
──懐かしい
──恋しい
ー
暇72、(……なんでだよ……)
ー
なつの目に、じわりと涙が滲む
ー
暇72、ッ…ポロ(こんな一瞬でまた……
涙とか、 意味わかんねぇ)
ー
だけど、それでも
その温度が、“今の自分”には確かに
必要だった
ー
いるま、そろそろ仕事だわ……
暇72、ぁ、…
いるま、…、また来る 明日も
暇72、っ勝手にしろ……ッ//
ー
小さな声
けれど、それはなつの“心のドア”が
確かに少しだけ開いた証だった
コメント
1件