この小説は一切ご本人様に関係ありません。
参考元:東京タワー
tn×gr
わんく
『人は…何に惹かれ合うと思う?
…俺はな、空気に惹かれ合うと思うんだ。』
そうステーキを口に運ぶ手を止めて、俺に切り出した。先程まで互いに話もせず、ただ黙々と食事を嗜んでいた。そんな唐突な話題に、俺も赤ワインが入ったグラスを口元に運ぶ手を止めた。
俺は特に頷きも、相槌も打たず彼の言葉を深く受け止めずに耳に流し込む。特に相槌も打たずに彼の顔をぼんやりと眺めていれば、またその話題を話し続けた。
『性格や、容姿の前に…まず、空気がある。
オリジナリティのある空気や…少し冷淡さが出る空気……。言わば…、雰囲気……というのが一般的に通じるのかね。』
“空気……そうか、俺はこいつの纏う空気に…。”
そう俺が考えていれば、また彼はステーキを口に運び黙々とまた食事を嗜み始めた。
カチャ…、と彼の食器から金属製の音が鳴り、自然と音のした方へと意識は傾いた。彼の白い皿の上には二切れ残されたステーキの横に、先程まで使っていたであろうフォークが皿の端に置かれていた。
『……そろそろ、帰るとしよう。』
そう言って彼は少し長く金色に輝く髪を靡かせ乍、腰掛けていた椅子から立ち上がる。そして早々に会計を済ませ、レストランを後にする。自分も彼に続いて会計を済まし、あまり身長差のない彼の隣に並んだ。
コツ、コツ、と彼の高そうな黒い靴がそう地面に足を置く度に音が鳴る。ここでも俺等二人の間には沈黙が続き、赤色に光る信号機の目の前で縁の黒い眼鏡を掛けている彼が足を止めた。
『…俺達、もうこれで会うのは最後にしよう。』
「…っえ…、どうして…。」
『互いの為にさ、』
そう彼は言って、さっきまで背を向けていた身体の向きを変えた。すらりとした背丈に、黒く何処までも続きそうな瞳に合わない様な髪色をしていた。
俺は彼の返答に納得が行かず、何故どうしてを繰り返し問う。彼はそんな俺に表情一つ変えずに俺を見詰めていた。俺は彼との距離を少しずつ詰めて行く。
「っでも…、俺はお前が…ッ」
『…すまない、妻が居るんだ。』
やっと開いた平行の口からは、そんな答えが返って来た。その一言で彼との距離を縮める足は硬直してしまった。足だけでなく、思考、体、口、全てが硬直してしまった。
ぷつり、と何か切れる様な感覚が脳の奥にあったものの、彼の一言で俺の頭の中の沢山ある疑問を全て白へと塗り替えられてしまった。彼の顔からは、何処か哀愁ある表情…いや、冷酷な瞳……色々な感情が滲み出ていた。
『…現実は、あまり良いチャンスが舞い降りないものだよ。』
彼の言葉を耳にしたと同時に、いきなり自分の視点場面が切り替わった。彼の頬に片手を添え、口付けをしていた。彼は己の黒い瞳を小さくし、俺の赤く光る瞳に視線を送っていた。彼は特に抵抗もせず、ただされるがままの状態に近かった。
俺は数秒その状態を維持し、また数秒経って自分の唇を離した。彼の顔に目を奪われていれば、彼は己の下唇をギザギザとした鋭い歯で強く噛み締めていた。
『……ここまでするとは…、笑
俺が選んだだけの実力はありそうだな…笑。』
ポツリとそう呟けば、彼は俺の背に片腕を回した。ググ、と軽く彼は腕に力を入れ、俺と彼の距離をより縮めた。先程まで平行だった彼の口角は、何処かこの状況を楽しんでいる様な口角へと変化していた。
彼は己の片手を俺の後頭部へ回し、黒く輝く俺の髪をぐしゃ…と掴みグッ、と顔を己の顔へと近付けた。俺は反射で自分の後頭部へと回されている彼の腕を掴んだ。
『…どうした?もうキスは終わりか?
ここまでしておいて…お前の度胸はその程度なのか?』
「ッ”……くそ…ッ」
妻の居る彼に俺は口付けをしてしまった、言わばこれは不倫だ。不倫にまで発展してしまったのは、俺の初めてした思いを拗らせた彼の原因でもあるし、強引に彼に口付けをした自分が原因でもあった。
俺は彼の言葉で全て放り投げ、再び彼に口付けをした。今度は彼の口内に自分の舌を侵入させ、彼の舌と自分の舌を絡ませる。
『ッん”…、…ふ、ゥ”……ッ』
こんな歩道の真ん中で、こんな卑猥な口付けを交わしていた。幸い、真夜中で人通りがあまり無いのが救いだった。もしこれが正午で人通りが多かったら、俺は社会的死を味わっていただろうな。
彼の唇から離れれば、透明の糸がつ―…と互いの舌に橋を掛ける。俺は彼から離れ、少し息を荒くしていた。すると彼は口角を上げ、俺にこう告げた。
『…お前も、俺の空気に惹かれたんだとしたら……
それは、大きな選択ミスだと…俺は思うゾ。』
そう言って彼は俺に背を向け、青へと光る信号機の先を歩いていった。俺は彼の言葉の意味を何となく理解した…、確かに彼の言う通りかもしれない。俺は先を歩く彼の後に続いて、彼の後ろを歩く。
アンタのこの無防備な背中は、俺が最初で最後の目にする人やろうな。
終わり。
これまた変な終わり方で申し訳ないです。参考元は、土曜日深夜放送の東京タワーという作品です。天才作家さんが原作らしいですよ、何度もドラマも映画もやっているらしいです。
では、次の投稿でお会いしましょう。
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必見 この小説は参考元の一部を自分なりのアレンジを加えて作成したものです。 この小説は一切参考元とは関係ございません。