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緑山 紫苑
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黒い稲妻の槍や、燃え盛る炎の矢。鋭い氷の塊や空を切る風の刃が次々とフィニスへ向かって飛んでくる。
その全てを、紙一重……とまでは行かないが、致命傷を避けながら躱していた。
片膝をつきながら、魔族をじっと見つめるフィニス。
「いってぇなぁ……」
『チョロチョロチョロチョロ……すばしっこいヤツだな。だが……最初の威勢はどうした小僧?』
不敵に笑う魔族に、フィニスは笑いながら答える。
「ハンデだよハンデ!」
『くだらぬ……くたばれ』
魔族が手をフィニスに向けて振り上げる。
そして、振り上げられた手をじっと見るフィニス……
⸻
「フィニス。あなたには魔力が全くありません」
森の中。木々が開けた広い場所。切り株に座るニティアと、剣を片手に立つフィニス。
そして、フィニスの前で腕を組んでいるジャヌス。
「そのため、あなたには術式を見ることはおろか、そこから魔法を察知することは不可能です」
ジャヌスにキッパリと断言され、肩を落としたフィニスが口を開いた。
「つまり、俺じゃ魔法使いや魔族には勝てないってことっすか……」
その答えにくすりと笑うジャヌス。
「いいえ、これは今は亡き私の知人から聞いた話ですが……」
そう言いながらフィニスから距離を取るジャヌス。
「彼もあなたと同じ、魔力が無い、察知できない人間でしたが。何体もの魔族を倒していましたよ」
手をフィニスの方へ向け、魔力を込める。
「そして、彼は言っていました。魔力が読めなくても……」
ジャヌスの右手に発する小さな放電。
「魔法の……”起こり”は見えると……」
次の瞬間、右手から放たれる青白い雷。その雷は、フィニスの頬を掠め、離散した。
一歩も動くことができなかったフィニス。
しかし……
「今のが……起こり?」
フィニスにはしっかりと”見えて”いた。
そのリアクションに優しく微笑むと、ジャヌスはニティアを呼び寄せ、自分の隣に立たせる。
「ジャヌスさん、なんですか?」
首を傾げるニティアに、ジャヌスは少しだけ悪い笑顔をニティアに向けた。
「フィニスに出の早い基礎魔法を、死なない程度の出力で撃ちまくってください」
「え……?」
「は?!」
驚くフィニスとニティア。
しかし、そんなことを一切気にせずに続ける。
「フィニスはちゃんと起こりが”見えて”いました。それならば、来るとわかっていれば……避けることもできるでしょう」
そう言って笑うジャヌス。
「それに、私は少しくらいなら回復魔法も使えますから。ニティア……遠慮せずにやってください♪」
顔をフィニスの方へ向けるニティア。
その顔は……完全に魔女の顔になっていた。
⸻
(集中しろ……集中……!)
低い体勢で身構えるフィニス。次の瞬間。
パチっ
「!!」
バリバリバリ!!
横に転がり、完全に黒い雷を回避するフィニス。
(完全に避けた……?この小僧……魔力も感じぬのに何故避けられる……!?)
一瞬の隙を逃さず、コアに切り掛かるフィニス。
『ちっ!』
ガキーン!
しかし、再び持っていた杖で弾かれ、距離を取られてしまった。
明らかに苛立ちを隠せていない魔族は休む間もなく、次々と魔法を放ってくる。
発射速度の速い雷も。
魔力がなければ見えるはずもない風の刃も。
術式構築から発動までが速い炎の矢も。
その全てを、今度は掠りもせずに完璧に避けていた。
息を整えながらフィニスは相手を挑発する。
「あんたさ、”遅い”んだよ。術式構築?よく分からねーけど、溜めてから魔法が出てくるまでが」
低い体勢から立ち上がる。
「こちとら天才魔法使いの荒い指導を受けてるもんでね。そんなちまちました魔法じゃ俺を殺せねーぞ」
『小僧……調子に乗るなよ……!』
魔族が地面に杖を突き刺す。杖が光り、魔族がフィニスに向けて手をかざす。
パリッ
「!?」
咄嗟に回避をするフィニス。
「だからそんな魔法何回やったって……」
魔族の方を見ると、杖を突き刺した地面がひび割れ、そのひびからは黒い炎が立ち込めていた。
「……ちと、まずいか……」
『死ね』
魔族が地面から杖を抜くと、黒い炎がけたたましく燃え上がる。そしてそのまま無数の火の玉へと変化をし、フィニス目掛けて一斉に飛んできた。
「その量はズルいんじゃない?!」
『私の魔法は遅いんだろ?避けてみろ』
地面を転がり、避けるフィニス。真正面に飛んできた黒炎を剣で弾こうと構えると……
バチバチっ!
痺れるような電気が身体を流れた。
「ぐっ……!」
感電した身体が一瞬硬直する。そのまま、帯電している黒炎が正面からフィニスを襲った。
ドーン!
その一撃をきっかけに、無数の黒炎が舞い上がる砂煙の中に飛んでくる。
ドドドドド!!
立ちこめる砂煙。
パリッパリパリッ
黒い電気が砂煙の中を流れている。
『ようやく死んだか』