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・【18 拷問癖】


「鬼火事件! 解決したぞぉぉおおおおおお!」

女子の集団の中央で、デカい声を上げている真澄。

鬼火事件自体はそんなテンションの事件じゃぁないんだよ。

でも気持ちは分かる。気持ちは。何故なら今日は終業式。明日から夏休みだ。

高校一年の夏休みなんて最高に遊ぶだけなので、テンションは上がってしまうもの。

ただ僕は真澄との予定がびっしりで若干滅入る。何だ、予定を幼馴染に抑えられる高校生って。

「これからオカルトは何でもどんと来い!」

何か変なハイに入ってらっしゃる。マジのオカルト来たらどうするんだよ。

と、思っていると女子の集団に男子の一部が、

「じゃああの、のっぺらぼうのヤツもなぁ」

と言ったところで僕の隣の席の東堂さんが急に机を叩いて、

「鬼火だろうが男子が最近よく言うのっぺらぼうだろうが本当に怖いのは人間なんだよ!」

と叫んで、教室が静まり返った。

僕は心臓がバクバクいっている。何だ、怖い、怖過ぎる。東堂さんに何があったんだ。どんな人間関係の破綻があったんだ。自分事のように恐怖していると、急に東堂さんが僕の腕を掴んできて、うわっ、と思った。えっ、自分事のようにと他人事に思っていたら僕なんっ?

東堂さんは僕の顔をしっかり見ながら、こう言った。

「私の友人を助けてほしいの! 全然さがしものって感じじゃないけども助けてほしいの! 加賀くぅん!」

そう言って僕の腕をわさわさと揺らしてきた東堂さん。

すぐさま真澄がやって来て、東堂さんの前の席に座って振り返り、

「どうしたんだ! 萌絵! さがしもの探偵は広義だから大丈夫だ! 力になるぞ!」

勝手に広義にすな、と思いつつも、鬼火事件とか全然広義だからもういいとして、

「とにかく何があったか冷静に教えてほしい」

と僕が言うと、東堂さんはコクンと頷いて、

「じゃあちょっと、こっち、誰もいない教室に来て……」

と俯きながらそう言った。

僕と真澄は東堂さんについていき、空き教室に入った。

入るなり、真澄が東堂さんへ、

「萌絵、佐助はいろんな何かをさがしてくれるから大丈夫だ」

と言いながら肩を優しく叩いた。勝手に言うな言うな。

でも東堂さんのソレは鬼気迫る感じだったので、ほっとくこともできないので、

「東堂さん、僕でなんとかなることなら」

東堂さんはこくんと頷いてから、

「私の友達がどうやら拷問にハマってるの……友達の拷問癖を止めたいのっ!」

急に拷問じゃぁないんだよ、と心の中でツッコんでしまった。

拷問癖って、中世の地下じゃぁないんだよ、ダメだ、ツッコミが止まらない。

でも止まらないのは東堂さんも同じだった。

東堂さんは饒舌に捲し立てる。

「私の友達が最近百均で切れすぎないナイフを品定めしたり、切る音に敏感だったり怖いの! そんな友達を止めたいんだ! だって友達が拷問癖に目覚めたら嫌でしょ!」

僕は気になったことが浮かんだので、

「実際に拷問している現場を見たんですか?」

「そんな! 拷問って裏ですることじゃない! 見たことはない! でも切れすぎないナイフは拷問でゆっくり傷つける用! 切る音にも何だか拘りを持っていて! そういう人間の悲鳴とかにも興味あるんだ! きっと!」

それを聞いた真澄はぶるぶると震え始め、

「拷問癖……止めないと大事件になる! 大丈夫だ! 始めれば得る! 佐助が止める言葉をさがしてくれる!」

強く拳を握っているが、その手も激しく振動している。

相当ビビってるなぁ、でも拷問癖、本当か? もうちょっと聞いてみるか。

「東堂さん、それは東堂さんの勘違いなんじゃないかな」

「そんなことない! じゃあ切れすぎないナイフとか! 切る音に敏感とか! 他にどんな理由があるのっ!」

「ペーパーナイフで紙を切る音が好きとか、普通にありえますよ」

「じゃあペーパーナイフを買うでしょ! 何か違うの! 刃渡りもデカいの!」

真澄が東堂さんの言葉を聞く度に、肩を揺らしてビクンビクンとしている。

もうそのまま気絶しそうな勢いだ。

なんなんだ、正直僕はボンヤリどういうことか滲んできているが、東堂さんは相変わらず止まらない。

「さらにスライム状の何か変なの買って! それで相手を呼吸困難にさせようとしているんだ!」

それに対して真澄は「ひぃぃいいい!」と声を上げてから、

「呼吸困難なんて……逆スポーツ……」

と言って震えた。

逆スポーツってなんだよ、呼吸はスポーツの権化ではないよ。呼吸はもっと広い、みんなのものだよ。

スライム状なんていったらもう完全にソレじゃんと思っていると、東堂さんがこう言った。

「で、その友達自身は拷問しながら満足げに、コーラをグビグビ飲むんだと思う。コーラもいろんな種類買っていたから」

すると真澄が叫んだ。

「いや違う! 傷口に炭酸を染みさせる気なんだ!」

それに東堂さんは目を皿にして、

「嘘ぉ……」

と息を漏らした。

いや盛り上げてんだよ、盛り上げるな、東堂さんを。

間違っている東堂さんを盛り上げるな。新しい拷問を考えるな。

真澄が拷問界のニュースターじゃぁないんだよ。

いやいや、多分あれだ、これはもう早期解決だ、何が拷問癖だ。

中世の地下で行なわれていた、もう資料は残されていない行為じゃぁないんだよ。

というわけで、

「東堂さん、とりあえずその友達に会わせてもらっていいですか?」

「勿論よ! 終業式が終わったらこの教室でもう一回集合ね!」

僕と真澄、東堂さんは教室に戻った。

教室では相も変わらず訳分らん話をみんなしている。

デカい声で恋愛相談をする女子、ユーチューバーになった先輩をバカにする男子、のっぺらぼうの目撃情報、オレオレ詐欺を止めている現場に居合わせた話、何だよ止めている現場に居合わせるって。居合わせた目線じゃぁないんだよ。

チャイムが鳴れば全員席に着いて、先生の言うことにとりあえず頷いて、大切なプリントをもらって、あとは帰るだけ。

俺は真澄と一緒にあの教室に行った。東堂さんは既にLINEで連絡していて、その友達を迎えに行った。

僕はある程度予想がついているし、そもそも予想がついていることをやんわり伝えている。あの時に。

拷問癖のはずがない、ただし、簡単にその友達が口を割るとも思わない。

だからいろいろと面倒だなとは思っている。

東堂さんが連れてきた友達は多分同学年なんだろうけども、とても幼い顔をしていた。中学生みたいだ。

僕らが高校一年生なので、最低でも同学年しかいないから高校一年生なんだろうけども。

「えっと、その、萌絵に言われてきたけども、何なんでしょうか」

小首を傾げてそう言ったその友達。

まずは自己紹介だと思って、

「僕は加賀佐助と言います」

「アタシは佐々木真澄!」

と言ったところでその東堂さんの友達のほうが目を光らせながら、

「佐助くんってさがしもの探偵のっ? わぁ! こんな感じなんだぁ! あっ! 佐助くんって言っちゃったけどもいいよね! 私は三吉愛! ミョッシーでいいよ!」

あだ名を指定されてしまった、と思いつつも、まあ名前なんてどうでもいいので、単刀直入に、

「ではミョッシーさん、最近東堂さんに言っていない趣味がありますよね?」

その急な切り返しに目を丸くして驚いたのが東堂さんだった。

「ちょっ! ハッキリとゴウモ!」

と口走ったところで口を噤んだ。

ミョッシーさんは頭上に疑問符を浮かべながら、

「ゴウモ……?」

とオウム返しした。

このリアクションからも絶対拷問癖じゃない。東堂さんの勘違いだ。

僕はまあ外堀から埋めていくことにした。

「東堂さんから聞いたのですが、ミョッシーさんは切れすぎないナイフを最近吟味している、と」

「えーっ、佐助くんにそんなこと言わないでよー! 趣味のコア話なんだから!」

コア話なんて日本語初めてだな、と思っていると真澄が、

「切れすぎないナイフで、やっぱり、その人間を……」

それに対してミョッシーさんは、

「人間を、って何! まあ喜ばせる方向ではいきたいけどね!」

とミョッシーさんが言ったところで、あっ、これ隠す気も無いんだなと思い、じゃあもうさっさと言ってしまおうと思ったところで東堂さんと真澄が、

「「ひぃぃいいいいいいいいいいい!」」

とユニゾンで震え上がった。

その悲鳴にミョッシーさんがビックリした形だ。

すぐに東堂さんがまるで言葉を吐くように喋り出した。

「ダメダメ! ミョッシー! ”悦ばせる”なんて言っちゃダメ! そんなことはしないでぇ!」

それにガーンとショックを受けたミョッシーさんが眉毛を八の字にしながら、

「だっ! ダメなのっ! やっぱり気持ち悪いかな……あぁ、気持ち悪いかぁ、そっかぁ……」

「気持ち悪いというか怖いよ! そんな怖いことは辞めて! ミョッシーぃぃいいい!」

「気持ち悪いだなんて! あぁ……萌絵からそんなこと言われたら私、生きていけない……」

そう言って膝から崩れ落ちたミョッシーさん。リアクションデカいな。

いやいや、これは変なすれ違いしているだけだから、早く言ってあげないと。

「ミョッシーさん、というか東堂さんと真澄、みんな勘違いしていますよ」

「「「勘違い……?」」」

トリプルユニゾンなんて初めてだ、と思いつつ、僕は喋り出した。

「まず絶対違うので東堂さんと真澄のほうからいきますが、ミョッシーさんの趣味は拷問じゃないですよ」

と僕が言ったところでミョッシーさんがバッと立ち上がって、

「拷問って何! もう! もう!」

と叫んだ。

東堂さんと真澄は顔を見合わせてからニッコリ微笑んで、

「「良かったぁ~」」

と言った。

僕はまずミョッシーさんに説明する。

「切れすぎないナイフを買ったことにより、それでゆっくり傷つけると考えてしまったんです。東堂さんは。さらに切る音にも敏感でそういうことに悦びを感じる人になってしまったのでは、と危惧していたんです」

「そんなはずないじゃん! トゥードゥー、バカ過ぎるよ!」

そう言って快活に笑ったミョッシーさん。

苗字をあだ名にするほうの仲良しじゃぁないんだよ。

あとはそうだな、

「ミョッシーさん、もし言っても大丈夫なら、何が趣味か言ったほうがいいですよ。また変な勘違いするかもしれませんので」

するとミョッシーさんの表情は少し曇った。

やっぱりどこか迷っているところはあるみたいだ。

でもそれは、

「さっき、勘違いで気持ち悪いと言われたことが尾を引いていますね。でも大丈夫です。僕は普通の趣味だと思いますよ。そもそも流行りじゃないですか」

と言ったところで真澄が、

「拷問が流行りぃっ?」

「いやだから拷問じゃないんだって」

東堂さんは真っ直ぐミョッシーさんのほうを見て、

「私は拷問以外だったら何でもミョッシーのことを尊重するよ。約束する」

そう言って優しく微笑んだ東堂さんに、ミョッシーさんは強く頷いてから、

「自分では言いづらいから、ここは佐助くん、言ってほしい。もう分かってるんでしょ?」

「何で僕に言わせるんですか、間違っている可能性もありますよ」

「ううん、きっと佐助くんなら分かってくれるはず。だってさがしもの探偵なんでしょ?」

「ハッキリさがしもの探偵を名乗る気も無いんですが、分かりました。言いづらくて僕が言ったほうがいいなら僕が言いますが……まず耳打ちさせて頂いてよろしいですか、確認のために」

「そうしよう!」

というわけで僕がミョッシーさんの耳に近付いて、ゴニョゴニョと言うと、ミョッシーさんが、

「キャッキャッキャッ!」

と何だか恥ずかしそうに声を上げて、あぁ、やっぱり耳が敏感ではあるんだなと改めて納得してしまった。

その様子を見ていた真澄が何故かムッとしながら、

「何か! いやらしいこと禁止! 探偵は男女交際禁止!」

「いやしょうもないアイドルじゃぁないんだよ、そういうことじゃないから」

「そう! そう! 違う! 違う! いや佐助くんは合っていて、いやらしいことは違うってこと!」

と何だか上機嫌なミョッシーさん。

まあそれこそ気持ち悪いと思われなくて良かったけども。

僕の予想も合っていたみたいだし、言うことにした。


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