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・【19 ミョッシーさんの趣味】
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「ではミョッシーさん言いますね、ミョッシーさんの趣味はASMRです」
「ASMR……?」
案の定、疑問符を頭上に浮かべた真澄。
僕は説明する。
「ASMRとはいわゆる音フェチで、いろんな音を聞くことが趣味の人たちです。切れすぎないナイフでスライムを切る予定だったんです。スライムを切る音というのもASMRでは人気なんです。あとは炭酸音というのもありますね、それがいろんな種類のコーラですね。音に敏感なのはまんまですね」
それに東堂さんはホッと一息ついてから、
「ASMRかぁ……なんだぁ……私も焚火のパチパチよく聞くし、一緒じゃぁん……」
きっと東堂さんはASMRと言えば焚火だと思って、こっちの方向にはいかなかったわけか。だからって拷問じゃぁないんだよ。
真澄は単純にモノを知らなかったみたいだ。そういうのが、あるんですか? みたいな表情をしている。
ここで僕はもう一歩踏み込んでみることにした。
「ミョッシーさんは、ASMR配信とかしているんですか? ナイフを吟味するということは自分だけの範疇を越えているような気もするので」
「じ、じつは、そうなんだぁ……最近凝っちゃってぇ……寂しさを埋めようとしていただけなんけどもぉ……」
と言ったところで東堂さんが、
「でも変なASMRしちゃダメだよ! ミョッシーは声が可愛すぎるんだから変なことまでいっちゃダメだよ!」
「それは分かってるよ! でもでも、このままじゃ、寂しくて、どうにかなっちゃうかも……」
と言ってから改めて東堂さんのほうをチラリと見たミョッシーさん。
このリアクションから察するに、
「もしかすると東堂さんって部活が忙しいほうですか、で、ミョッシーさんが部活忙しくなくて」
ミョッシーさんは恥ずかしそうに耳の横を掻きながら、
「というか部活やってない……」
「ミョッシーさん、友達が部活ばかりで寂しいということですね?」
「で、でも、あっ、うん……」
もじもじとしたミョッシーさんの態度にワッと手を広げて近付いてきた東堂さんがミョッシーさんのことを抱きしめながら、
「もう可愛すぎ! そんなこと思ってくれていたんだ! 嬉しい!」
ミョッシーさんは顔を見上げながら、
「でもトゥードゥーが部活忙しいのは変わんないでしょ!」
と言うと東堂さんはしょんぼりしてしまった。
真澄もう~んといった感じに腕を組んでいる。
ミョッシーさんは寂しい、かつ、凝り性ということは、この路線なら、と思い、
「ミョッシーさん、東堂さんの部活のマネージャーをしてみるのはどうですか? マネージャーは大変な仕事だと思いますが、凝り性のミョッシーさんの性に合っているかもしれません」
「マネージャー……悪くないかもしれない! でも今からの時期からでも大丈夫かなぁ!」
東堂さんは大きく頷いてから、
「勿論! というかこれから夏休み! 夏合宿! めっちゃ欲しい!」
東堂さんとミョッシーさんは抱き合っている状態から一旦離れてから、手を繋いで、ぶんぶんとその腕を嬉しそうに振っている。
これで解決かなと思っていると、ミョッシーさんが僕のほうを見て、こう言った。
「じゃあ早速! 特製ドリンクの開発をしよう! みんなで!」
……まあ僕は確かに料理好きだけども。それを見越してなのか、何なのか。
ミョッシーさんは満面の笑みだ。えっと、まあ察するに、ミョッシーさんはすぐにあだ名で呼ばせたいくらい近い人だ。
ということは友達を増やすことに生きがいを感じているのか? だからこその、みんなで、なのか?
まあそれはそれでいいので、
「とりま調理室でも借りてみますか? 材料があるかどうか分かりませんが」
するとミョッシーさんは首を横に振って、
「佐助くんのウチでドリンク大会だよ!」
それに対して真澄が、
「いよー!」
と叫んだ。いやいや、シンプル「いよー」じゃぁないんだよ。
何で僕の家になってしまうのか、と思ったところで東堂さんが、
「私は早速午後から部活があるからドリンク大会はミョッシーと真澄と佐助くんに任せた! 持ってきてよ! 体育館! 美味しいヤツ!」
そう言って颯爽といなくなってしまった。
そんなミョッシーさん的にも、共通の知り合いいなくなったら喋りづらいだろと思っていると、ミョッシーさんが、
「楽しみだなぁ! 佐助くんのおうちに行くのー!」
と言いながら床に置いていたバッグを肩に掛けた。
「おうおう! 佐助のウチは両親が共働きでいないから遊びたい放題だぞ! 両親がいない分、アタシが遊んでやってた時期もあるんだからな!」
「えぇー! 佐助くんと真澄ちゃんって幼馴染なの! 待って! めっちゃ尊い!」
「そうそう! 尊いんだぁ!」
そう言ってガッハッハと笑った真澄。いやデカい生肉に座ってビールを呑む山賊の頭領じゃぁないんだよ。豪快すぎるだろ、笑い方。
というかめっちゃ馴染んでくる、ミョッシーさんって。
もう流れで僕の家に行くことが確定してしまったので、もう行くしかない。
下校途中もミョッシーさんはずっと喋っていた。
家も意外と近いことが発覚し、ミョッシーのテンションはさらに上がっていたようにも思える。
まあこれくらい距離の近い女子のほうが接しやすいところもあるけどね。
家に着くなり、早速みんな台所に向かって行った。いやアリの侵入経路じゃぁないんだよ。
そんなことより、
「僕は料理は好きだけども、部活用のドリンクってよく分からないんだよね。粉のスポーツドリンクを基本とすればいいのかな」
すると真澄が、
「いやここはいろんな種類を持って行けばいいんじゃないか! ダメだったら持って帰ればいいだけだし!」
「それ、真澄がいろんな試飲をしたいだけだろ」
「バレるのは早いほうがいい!」
そう言ってガッツポーズをした真澄。いや最後までバレないのもいいけどな。
ミョッシーさんはニコニコしながら、僕と真澄のやり取りを見ていたので、
「どうしたんですか?」
と聞いておくと、ミョッシーさんは、
「やっぱり幼馴染って眼福だなぁ」
と笑った。
そんな、SNSの成人済みアカウントじゃぁないんだよ。
まあそんなことより、早速ドリンク作りへ。
東堂さんの部活もすぐに始まるみたいなので、基本のスポーツドリンクは作るとして、甘いスイーツ系のドリンクを作ることにした。
「ミョッシーさん、東堂さんって何か好きな食べ物ありますか? スイーツ系で」
「トゥードゥーだけじゃないけども、プリンは好きだよ」
と言ったところで真澄が、
「プリンジュース作ろう!」
と叫んだ。
プリンジュース? と俺とミョッシーさんで小首を傾げていると、
「たくさんプリン買ってきて、それをスポドリの粉で混ぜちゃおうぜ!」
「いや何その最悪の発想、そもそもプリンを買うとかお金が掛かってしょうがないから」
と僕がツッコんでおくと、シュンとしてしまった真澄。
いやでも、
「それならミルクセーキならいいんじゃないかな」
と言うとミョッシーさんが、
「ミルクセーキ……ネットでもネーミングが話題になるヤツだぁ……それを、女の子に飲ませるの……?」
「全然普通のドリンクだよ、簡単に作れるし、何よりも味、というか使う素材がほぼプリンだから味もプリンだよ」
「そうなんだ! ネーミングしか知らなかったけどもそういうモノなんだ!」
それに対して真澄は、
「アタシはネーミングも知らん!」
と声を荒らげた。荒らげるんじゃぁないんだよ。
というわけで僕は実践しながら説明することにした。
「まず小さなフライパンに卵黄と砂糖を入れて泡立て器で混ぜ合わせる」
僕は白身と卵黄を卵の殻を使って分けて、卵黄だけをフライパンに入れた。
するとミョッシーさんが、
「すごい! 道具も使わずに白身と黄身を分けた!」
「難しい場合は小さなペットボトルで黄身を吸う方法もあるから」
「それは知ってる! ネットで見た!」
結構ミョッシーさん、何でもネットでいっちょかみしてるなと思いつつ、僕は説明を続ける。
「さらに牛乳を入れて混ぜ、湯気が出るまで中火で温める」
そう言いながら、焦げつかないように優しく混ぜながら温める。
「最後にバニラエッセンスを加えて完成、と。ホットでもいいし、冷やしてもいいし」
と言ったところで、ミョッシーさんが、
「じゃあとりあえずホットのまま頂きます!」
と言って、カップに入れたミルクセーキをゆっくり飲み始めた。
ミルクセーキは卵黄を入れた牛乳なので、ほんのり黄色で暖かい色をしている。
香りはバニラエッセンスによって、甘くて優しい。
で、味は、と思ったところでミョッシーさんが、
「美味しい! 本当にプリンみたい! でもそっか! 卵と砂糖と牛乳だもんね! まんまプリンの黄色いところだ!」
「この卵の量を増やして蒸せばプリンになるということ。ちなみにプリンは電子レンジでも簡単に作ることができるんだよ。ちょっとスがあくけども」
するとミョッシーさんが僕のこの発言に食いついたので、説明することにした。
「本当に電子レンジで作るのは簡単で、卵と砂糖と牛乳を合わせてレンジで加熱するだけ。同じ要領で茶碗蒸しもできるよ」
「じゃあ茶碗蒸しを食わせてくれよ!」
と叫んだ真澄。それは勝手に作れよ。
そんなこんなでドリンク作りは終了し、ミョッシーさんは嬉しそうにミルクセーキドリンクを持って学校へ行った。
じゃあ真澄も家へ帰るのかなと思っていると、
「さぁ! これからさがしもの探偵の作戦会議だ! アタシはSNSの依頼を整理するから佐助は茶碗蒸しを作っていてくれ!」
いやどうしても茶碗蒸しは食べたい口になっていますじゃぁないんだよ。
やっと真澄が帰った夕方にLINEでミョッシーさん、いやミョッシーから連絡が入って『ミョッシーにさん付けはもういらない仲になりました』というお伝えがあった。いやレベルアップおめでとうございます、じゃぁないんだよ。