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今日も今日とて💚💙
第十二話 🌸春日和、油断大敵
翔太 side
今日も今日とて、ロケ日和。
晴れ渡る青い空。
まだまだ寒さは厳しいけれど、少しだけ高くなった空に、春の訪れを感じる。
亮平と二人、都外でロケ中。
気心知れたスタッフと、ついつい話に夢中になっていた。
コーヒー片手に椅子に座って、燦々と降り注ぐ太陽が心地良く、袖を捲って、少し胸元を緩めた。
隣では亮平が、静かに参考書を広げて勉強中だった。
伏せた睫毛の下で、視線がゆっくりページを追っている。
亮平の視線は少し鋭い。
三白眼、と言うらしい。
色っぽくて、どこか鋭いのに、ふとした瞬間だけ、優しくなる。
それが、好きだ。
邪魔にならないように少し距離をとって座ると、再びスタッフと談笑した。
スタッフが身振りを交えて話すから、つい身を乗り出してしまう。
「いや、それは盛りすぎでしょ」
笑いながら肩を軽く叩かれる。
距離が近いのも、男同士だからか気にならない。
笑いながら相槌を打ちつつ、頭の片隅で別のことを考えていた。
今日の移動。
チェックインの時間。
部屋は――ツインだったはず。
(……間違えてないよな)
バッグの中を指先で軽く探る。
充電器。
着替え。
予備のシャツ。
春は寒暖差が激しい。
亮平は冷えに弱い。
空調が強いホテルだと、喉もやられる。
(羽織、あった)
よし。
視線を上げた。まだ会話は続いている。
亮平は参考書をテーブルの上に置き、スマホを取り出した。
会話に戻る。
笑う。
でも、距離はこれ以上詰めない。
今夜は二人だ。
急ぐ必要は、ない。
ちゃんと座ってる。
静かにスマホを見てる。
……退屈、してないかな。
一瞬そう思ったけど、また話を振られて視線が戻る。
「翔太くんってほんと素直だよね」
「え、なんすか?照れるな……」
笑いが重なる。
楽しい。
でも、胸の奥が少しだけ落ち着かない。
なんだろ。
亮平がいると、いつもどこか安心していられるのに。
今は、背中にその気配があるのに、少し遠い。
もう一度だけ、そっと視線を向ける。
目が合わない。
……あれ。
なんで、目、合わせてくれないんだろ。
亮平はいつも、ちゃんと見てくるのに。
暖かくなったとはいえ、まだ三月。
時折強い風が吹いて、次第に肌寒くなる。
思わず肩が震えて身震いすると、見兼ねたスタッフの一人が用意したダウンジャケット。
当たり前のように抱えて持つスタッフに近付き、袖を通した。
「翔太、少し時間いい?」
「えっ……うん。何?亮平」
「いいから着いてきて」
――――
ロケバスのドアが無機質な音を立てて閉まった瞬間、手首を掴まれた。
「え、なに?りょうへい?」
さっきまで無表情だった亮平の視線に息を呑む。
三白眼。
その瞳が、ゆっくり細くなる。
鋭いのに、静かで。
逃げ道を塞ぐみたいな目。
……ああ。
大好きなこの瞳。
捉えて離さない……
逃げられない目。
「ジャケット脱いで」
「えっ?」
「ジャケット脱げよ」
なんか――怒ってる。
言われるがままにダウンジャケットを脱ぐ。
「袖」
低い声。
亮平は、まくられた袖を、ゆっくりと下した。
「3月が一番油断するんだよ」
至近距離。
「紫外線も――人もね」
意味が分からないまま、頬が熱くなる。
「距離、近すぎ……触らせんな」
ぼそりと落ちる。
「俺が横にいるのに」
低く、静かに。
怒っているようで、どこか焦っている声。
「別に、普通だよ?」
「普通じゃない」
即答。
日焼け止めのボトルが手に押し付けられる。
「塗り直せ」
「今?」
「今」
逃げ場はない。
ロケバスは狭い。
塗ろうとする手を、途中で止められる。
「……貸せ」
指先が、肌に触れる。
亮平は腕に日焼け止めを塗りながら、ずっと俺の目を見ていた。咎めるようなその瞳に居た堪れなくなって視線を落とした。
「外では、もう少し気をつけろ」
低い声が耳元に落ちる。
突然掴まれた腕。
指先が上がって、鎖骨に触れる。
鋭い三白眼に捕えられた。
俺の心ごと――
「そんな顔、簡単に見せないで」
どくん、と胸が鳴る。
怒ってる。
でも。
怒られてるのに、甘い。
亮平の指が、首元に残った日差しの跡をなぞるみたいに、ゆっくりと日焼け止めを伸ばす。
「……赤くなってる」
責める声音じゃない。低くて、静かで、逃げ場を塞ぐ声。
「外であんな顔して、無防備に座って」
「どんな顔……?」
問い返した瞬間、顎に指がかかる。
ほんの少し上を向かされるだけで、呼吸が乱れる。
「分かってないのが、一番タチ悪いのよ」
近い。
ロケバスの狭い空間。閉まったドア。外のざわめきが、遠い。
「……気をつけてね」
小さく息を吐いて、亮平が続ける。
「俺の理性、試さないで?」
怒っているのに、触れ方はやさしい。
袖口を整えて、ジャケットを肩にかけ直してくれる。
さっきスタッフが着せてくれたときより、ずっと丁寧に。
三白眼が、また静かに細くなる。
でもさっきとは違う。
すべてを知っているみたいな、
温かく色っぽい瞳。
「俺の前だけでいい……ねっそうでしょ」
小さく、低く。
独り占めするみたいな声。
どくん、とまた胸が鳴る。
守られているのか、縛られているのか、分からない。
でも。
そのどちらでも、いいと思ってしまう。
「……はい」
素直に頷いた自分に、少しだけ驚く。
ロケバスのドアが開く直前、亮平の手が一瞬だけ腰に触れた。
それだけで。
外の冷たい三月の風よりも、ずっと熱いものが胸の奥に残った。
腰に触れた手の感触が、
離れたあとも残っている。
……このときから、もう捕まってたのかもしれない。
あの瞳に。
そんな気がした。
ロケバスの中だけ、春を少し近くに感じた――
まだ、誰にも気づかれていない春。
コメント
6件

こりゃあ💚、勉強なんて頭に入ってなかったねぇ🤭

え。超好き💚💙