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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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翌朝、私は杏からのLINEで目が覚めた。




――――――――――――――――



おはよ――!


昨日、レイさんとはどうなった??



――――――――――――――――



まだぼうっとする頭で画面を見れば、そんな文章の後ろでネコのスタンプが躍っている。



私は苦笑して、ベッド横のカーテンをあけた。



朝日というには遅い時間の光は強く、寝起きの目にしみる。



私はもう一度スマホ画面に目を落とした。



さて……杏にどう返事しよう。




――――――――――――――――



杏、おはよー!


レイのことは、LINEじゃうまく言えそうにないんだ。


今度会ったら直接話すね!

時間できたら遊びにいこーよ!



――――――――――――――――







ネコのスタンプを押す前に、メッセージは既読になった。



――――――――――――――――



え――っ、なにそれなにそれ!

それっていい話ってこと!?


超気になるじゃん―――!!



――――――――――――――――




私は思わず声に出して笑ってしまった。



画面の向こうで、杏がどんな顔をしているのか目に浮かぶ。



けど、笑いながら寂しさもこみ上げた。



レイと両想いにはなれたけど、今は嬉しさや楽しさより、苦しさや不安のほうが大きい。



恋をするまでは、ドラマや漫画に憧れて、恋ってドキドキして切ないものだと思っていた。



だけど実際は、一度得た幸せを手放したくなくて、大事にしたくて、苦しくて怖い。



こんな気持ちはLINEじゃ伝えられないし、伝わらない。



私は「また会ったら話すから」とだけ返事をして、話し足りなさそうな杏とのやりとりを終えた。








レイと想いが通じ合ったからといって、私の生活に大きな変化はなかった。



私はホストの一員で、レイはゲスト。



最近はケイコさんのお手伝いが増え、よく公民館にくっついて行っているけど、それ以外は掃除、食事、買い物、勉強。



そんな普段通りの生活を送っていた。



だけどたまに、けい子さんがお風呂でいない時なんかに、レイが台所や廊下で軽く抱きしめてくれる。



それがたまらなく幸せで、それでいてレイが離れた後は、ものすごく胸が苦しい。



恋はジェットコースターだと、どこかで聞いたことがあるけど、私はまさにそんな只中にいた。



加速する気持ちは止められない。



だけどゴールに近付くと、スピードはゆるやかになって、やがて強制的に止められてしまう。







そうなることが怖くて、レイの滞在を伸ばせないかなんて考えたりもした。



だけど、そんな私の思考を見透かしたように、けい子さんが言っていた。



アメリカからの観光目的の入国は、最大90日なんだと。



さらには、レイは9月から大学の新学期が始まる。



レイの通っている州立大学は2学期制で、6月に後期が終わり、新年度は9月の半ばから始まるらしい。



アメリカでは中学が2年、高校が4年で、高校の在学中に「受講できる学力があれば」大学で授業を受けてもいいこと。



レイはそれを利用して単位をとってきたことなんかを、彼が食事の間にけい子さんに話していた。



知らない彼のことを知れるのは、単純に嬉しい。



けどやっぱり、自分と交わる道じゃないと知らされ、やりきれなさがこみ上げてくる。







お盆になり、伯父さんが家にいるようになると、伯父さんは連日レイを連れて釣りに出かけていった。



伯父さんは伯父さんで、レイと過ごす時間を大事にしたいと思っているらしい。



私もその気持ちはわかるし、微笑ましくも思うけど、なんでもない日々ほど驚くほど早く過ぎていく。



シェアビーのゲスト情報を確認すれば、レイの予約は今月末まで。



レイが帰ってしまうまで、あと2週間。



法を犯してまで彼を引き留めることはできないし、レイにはアメリカでの、私には日本での生活がある。



彼は3か月だけのゲストで、束の間の隣人。



レイといたいと思えば思うほど、そのことが強く身にしみた。







セミの鳴き声が聞こえなくなったのはいつだろう。



夜でもあれだけ煩かったのに、今は驚くほど静かだ。



あと少しで日付が変わる。



それなのに、レイが出かけたきり帰らない。



(もう終電がなくなるよ……)



何度も時計を見ては、ため息をつく。



こんなことは初めてで、焦りばかりが募っていた。



心配でずっとスマホを握っているけど、私は彼の連絡先を知らない。



だから持っていてもなにもならないのに、どうしてもスマホを手放せなかった。






それから1時になっても2時になっても、レイは帰ってこなかった。



翌朝スマホを握ったまま目を覚ました私は、急いで部屋を飛び出した。



今は9時を過ぎたところ。



私はレイの部屋のふすまをあけ、ほんの少しだけ中を覗いた。

























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