テラーノベル
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目黒と愛し合ってから3日後。
渡辺はひとり空港にいた。ここで恋人の帰りを待つ。
彼が少し長めに海外に滞在していたため、会うのは久しぶりだった。嫌でも胸が高まる。渡辺の動悸は激しかった。やがて、ロビー全体に目的の便が到着するというアナウンスが流れた。
仕事の予定はこの時間だけ無理を言って空けてあった。だからあまり時間がない。
渡辺は、降りて来る乗客を一人一人選別していく。いや、そもそも、特別目立つ筈なのだ。ざっと見ればわかる…そう気づいた瞬間、頭上から懐かしい声がした。
「しょっぴー、来てくれたんだ」
見上げると、大きめのサングラスに人懐こい笑みを浮かべたラウールがそこにいた。彼は喜びを隠すことなく、いや、寧ろ喜び全開で渡辺を抱きしめた。
「おま、どうして?」
「んー。しょっぴーの見てる列が違うからだよ」
そう言うと、ラウールは渡辺を軽く地面から持ち上げる。サンダルの足先がプラプラ揺れる。渡辺はラウールの胸から嗅ぎ慣れた匂いをいっぱいに吸い込んだ。
安心する。
付き合いたての頃には、その大柄な体を幾度となく恐ろしいと思ったものだが、今は頼もしいと思うし、大好きだと思う。照れ屋の渡辺はそれを本人に直接伝えることはしなかったけれど。
「ご飯食べる時間ある?本当はこのままどこかへ連れ出したいところだけど…」
ラウールは手元の荷物と渡辺を交互に見比べた。スーツケースがふたつ。持ち歩くにはかなり邪魔だ。
「今日は顔を見に来ただけだから。この後、仕事に行かなくちゃいけないし。……会えてよかった」
そんなぁ…。
ラウールの落胆を隠さない態度に、渡辺はじゃあ、お茶だけでもしようと言ってラウールと歩き出した。ラウールがどうしても和食が食べたいと言うので、簡単に済ませられそうなうどん屋へ入った。
「懐かしい!お出汁美味しい!」
小さなことでいちいち感嘆を上げるラウールを可愛いと思いながら渡辺は見ている。この可愛らしい青年が、夜、二人でいると一番激しく渡辺を愛した。そのギャップには未だ慣れないでいる。それでも総じて渡辺はこの若者が好きだった。何より今日みたいな日には。
「じゃあそろそろ行くな」
「うん…。夜は?」
「約束ある。でも、改めて時間作るから」
「そう」
「また……んっう!!!…」
別れ際、思いの外、熱く深い口付けを受けたものだから、渡辺は誰かに見られてはいないかとひやひやした。しかし、ラウールはその大きな身体で渡辺をしっかり隠していた。
「しょっぴー、大好きだよ」
そう言うと、ラウールは渡辺を置き去りにして、先に颯爽と帰って行った。
見送るのが苦手なのだとかなり前に涙目で訴えられたことを思い出す。付き合い始めた頃の話だ。確かラウールは3人目だった。他のメンバーの元へ行くのを一番嫌がったのはラウールだった。誰よりも優先されることに慣れていた彼は、渡辺に関しては3番手扱いされることに納得がいかなかった。渡辺の裏切りに気づくたびに何度も別れると泣き、渡辺を振り回した。それでも結局忘れられないと戻って来る。一時は渡辺も罪悪感からラウールを拒んだが、結局離れることは、渡辺にもラウールにもできなかった。
テレビ局へと向かうタクシーの中で、携帯が震えた。今夜の相手からだった。ラウールに気持ちが行きかけていた渡辺は顔を引き締める。一筋縄ではいかない相手が今夜、彼を待ち受けていた。
コメント
4件
早くもだらだらと長くなりそうな予感がしてきて大草原🙃🙃🙃