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後日───…
俺は仕事の合間にスマホで
【WAVEMARKX 色川朔久】と検索をかけてみることにした。
画面に表示された|夥《おびただ》しい量の情報に、思わず息をのむ。
「……これは…確かにすごい…っ」
検索結果の中でも特に目を引いたのは
【αのカリスマ!色川朔久の魅力を徹底解剖!】
と題された記事だった。
そこには、彼の完璧な容姿や揺るぎない信念
仕事に対するほとばしる熱意
そして過去のインタビュー記事まで、詳細かつ魅力的に綴られていた。
さらに【色川朔久の詳細情報】や
【色川朔久が語る仕事論】といった記事が山のように連なり、彼の圧倒的な存在感を物語っていた。
「🌐WAVEMARK JAPANとは?グローバルx美学xストーリーで勝負する新時代の広告会社」
という見出しが目に飛び込んできた。
俺はいくつか適当な記事をタップしてみる。
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◸ 🌐𝑊𝐴𝑉𝐸𝑀𝐴𝑅𝐾 𝐽𝐴𝑃𝐴𝑁とは? ◿
*本社はニューヨークにあり、世界17都市に拠点を構える巨大な広告ネットワーク
*日本支社は7年前に設立され、ファッションラグジュアリー、IT、美容系といったハイエンドな分野を中心に展開している。
*色川は歴代最年少で日本支社の代表に抜擢されその手腕で社に新たな風を吹き込み、改革を牽引しているらしい。
💻得意分野
*ブランドアイデンティティの構築
* 「共感設計」に基づいた広告ストーリーの創出
*ハイエンド市場への特化戦略
*そして、日本独自の「余白x情美」デザインを活かしたビジュアル制作
🧭キャリアハイライト
*高校卒業後、単身スペインのバルセロナへ留学
*芸術と哲学、都市景観デザインから多大な影響を受けた
*その後、欧州の名門ビジネススクールへ進学し、広告戦略の真髄を学ぶ。
*インターンシップでは数々の名だたるラグジュアリーブランドを担し、その才能の片鱗を見せてい
る。
*25歳でWAVEMARKヨーロッパ本社にスカウトされ、瞬く間にトッププロジェクトを牽引する存在となった。
*そして、26歳で日本支社へ異動
*28歳にして社長に就任
*その若さもさることながら、最も美学にうるさい
男として社内で伝説になっている
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一通り記事に目を通すと、コメント欄には朔久を称賛する声が溢れており
その人気の高さを実感した。
彼の圧倒的な地位と能力の高さには、ただただ驚きを隠せなかった。
スペインに行ってから、俺は朔久のことを忘れようと努め
20歳になる頃には彼の存在は俺の頭から完全に抜け落ちていたはずだったのに。
「朔久が世界に名を轟かせている間、俺はここでただ毎日を過ごしていただけなのに…朔久はすごいなぁ……」
思わず感心してしまった。
記事を読み進めるうちに、朔久のこれまでの経歴や功績が鮮明に俺の頭に刻み込まれていく。
だが同時に、その輝かしいキャリアと自身の平凡な日常との間の途方もないギャップが
一層鮮明になっていった。
「でも、なんで朔久は今になって俺のとこに……」
不思議で堪らなかった。
別に、朔久を疑っているわけではない。
だが、彼にはもっとふさわしい相手がいるはずだ。
女の子もΩも選び放題で、まさにバラ色の人生を送っているはずなのに。
まあ、考えすぎも良くない。
俺はもう朔久とはただの友達なんだから。
そう考えて、いつものように出勤した翌日
朝早くからフォーマルなスーツ姿の朔久が、俺の店にやってきた。
「楓、突然お邪魔してごめんね」
「え、朔久?」
驚いて店の中を見回すが、まだ他に客は来ていない。
「こんな、朝早くから…どうしたの??」
心配になりながら尋ねると、朔久は少し真剣な表情になった。
「実はね、楓に大事な話があるんだ。ちょっと時間いいかな?」
その言葉に、心臓がドクンと音を立てる。
「あっ、うん、大丈夫だよ」
◆◇◆◇
朔久だし良いかと思い、スタッフルームに移動すると
朔久は静かに話し始めた。
「実は楓に仕事の話が来てるんだ」
「…えっ?な、なんて?」
「楓、これ、見てくれる?」
目の前に置かれた企画書を恐る恐る手に取り、俺はじっと見つめた。
表紙の真ん中には、力強いゴシック体で
『𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶 𝑩𝑳𝑶𝑶𝑴 𝑷𝑹𝑶𝑱𝑬𝑪𝑻』と書かれている。
「……東京ブルームプロジェクト?」
「そう。今回、うちの代理店で手掛けることになったプロジェクトなんだけど、東京でも有数の商業施設のリニューアルなんだ。」
「商業施設の…?」
「ああ、その中で、花と緑を使った空間デザインが非常に重要な位置付けでね」
「いくつか候補を探していたんだけど、やっぱり、楓の『陽だまりの向日葵』の評判が一番に耳に入ってきてさ」
朔久は笑顔でそう言いながら俺に説明する。
「え、俺の店が?」
「そう。特に、楓の色彩感覚と、植物の持つ力を最大限に引き出す表現力は、本当に素晴らしいと思ってる」
「他にはない、唯一無二のセンスだ」
朔久は笑顔を浮かべながら、まっすぐに俺を見つめる。
その瞳に、嘘りのない称賛が宿っているのが分かった。
「楓の作品は本当に美しいし、その空間にいるだけで心が穏やかになる」
「この企画の成功には、どうしても楓の力が必要だと感じてて。もちろん、これは楓の花屋にとっても、きっと大きな一歩になるはずだよ」
「そんなに……?」
俺は手元の企画書に改めて目を落とす。
正直驚いた。
まさか、そんな大規模なプロジェクトに自分の名前が挙がるなんて夢にも思わなかった。
「大規模なプロジェクトだから、もちろん大変なこともあるよ。でも、楓とならきっと良い仕事ができると思うんだ。どうかな?」
朔久の言葉に、俺の胸が熱くなる。
自分が評価されていること、自分の仕事を認めてもらえていることに、じわりと感動が広がった。
これはまさに、自分の腕の見せどころと言っても過言じゃない。
「…それなら、引き受けようかな」
俺がそう返事をすると、朔久は心底嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「ふふ、楓ならそう言ってくれると思ったよ。ありがとう」
俺は企画書をしっかりと手に取り、自分の中で決意を固めた。
「それじゃあ、正式な契約とか打ち合わせの日程については、また連絡するね」
「分かった」
店を出る朔久の後ろ姿を見送りながら、俺は思わず心の中で喜びを噛みしめた。
(まさか…まさか俺の店をあんなに評価してもらえるなんて……本当に夢みたいだ)
この花屋を始めてから、地道に努力を続けてきた。
自分の選んだ道が、誰かに認められる日が来るなんて。
自分の頑張りが誰かに認められるということはこんなにも嬉しいことなんだ、と思い
努力してきてよかった、と心底感じた。
それから4日後の休日───…
今日は午後3時から仕事の話で朔久と会うことになっていたため
昼は外食で済ませようと思い立ち、よく使っている15°カフェ&アトリエに向かっていた。
店前まで差し掛かったとき
「おっ、楓ちゃんじゃん」
はっとして声のする方を見れば将暉さんが立っていた。
彼は、深いカーキ色のコーデュロイのセットアップを酒脱に着こなし
首元にはダークなタートルネックを覗かせている。
手にはテイクアウトのコーヒーカップを持ち、落ち着いた色合いの装いながらも
その佇まいには洗練された印象があった。
その隣には瑞希くんがいて
将暉さんとは対照的に、真っ白なシャツにチェック柄のカーディガンを刃織っている。
カーディガンはグレーを基調としつつ、深いグリーンやブルーが差し色に入っており
足元はゆったりとした黒いパンツに革靴を合わせている。
「あっ…将暉さんに瑞希くん……!」
「楓ちゃんもカフェでお茶?」
将暉さんは相変わらずの爽やかな笑顔で俺に聞いてくる。
「…あっ、今日は仕事前の腹ごしらえで」
俺は咄嗟に口に出した。
「あ、これから?休みなのに大変だね」
「はい、3時から打ち合わせがあって……」
すると瑞希くんが俺の言葉を遮るようにお腹を抑えながら
「ねえ~…お腹すいたんだけど!」と口を尖らせた。
勘違いじゃなければ睨まれてる気さえする。
そして、とりあえず中入るっかということになり、3人でテーブル席に腰掛けた。
瑞希くんは、ポタージュセットコロッケサンドを頼み
俺はホットサンドと谷田部しめじのポタージュスープを頼み
将暉さんはポタージュセット、シナモンシュガートーストを頼むことにした。
「楓ちゃんって自営業で花屋やってるんだよね、花屋については詳しく知らないんだけど、それで打ち合わせなんてあるの?」
将暉さんがコーヒーを一口飲みながら優しく尋ねてきた。
俺は2人に、先日、例の朔久に仕事の話を持ちかけられ一緒に仕事をすることになったということを話した。
すると、将暉さんは興味津々という表情で
「えっ、あのリニューアルのやつでしょ?楓ちゃん
すごいじゃん!」
と意外そうな様子で俺に返した。
「本当に俺も驚いてて…それにまさか朔久と仕事をする日が来るとも思わなかったですし……」
そう謙遜するも心の中では少し自慢したい気持ちが湧き上がっていた。
それに水を刺すように
「だからそんな楽しそうな顔してるんだーへえー、元カレと……ねぇ?」
瑞希くんは頬杖をつきながら大げさに元カレを強調して興奮したように話す。
「な、なに想像してるか知らないけど…より戻すとかないから……っ!」
「ぶっちゃけあっちはワンチャン狙ってたりして
ねぇ」
「?!……な、無いって…!」
「お互い大人だし、番もいない同士ならさぁ」
その表情はまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。
「第一、デートって言ったのだって朔久が俺のことからかってただけかもしれないし……!」
語気を強くしてそう言い放った
そのときだった