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『猫に噛まれたんだ』
誰が猫よ!
『すげー可愛いの。やんちゃで媚びないところがたまんない』
何がたまんないよ。
欲求不満なだけじゃない!
トイレの個室に入り、両手で顔を覆った。
私、キスに応えてた――。
身体が熱い。
唇が甘い。
陽も昇りきっていないうちから、誰が入ってくるかもわからない部屋で、あんなキスをするなんて――。
無意識に思い出し、身体が疼く。
力強い腕。
甘い声。
大きな掌。
柔らかい舌先。
嫌じゃ……なかった――。
私は三度深呼吸して、個室から出た。そして、鏡を見て、また顔を赤らめた。
髪は乱れ、口紅が落ちでいる。
最悪だ――――。
私は髪を整えた。口紅はバッグの中。
も一度身なりをチェックする。
電話が鳴っていなかったら、どうなっていたんだろう。
考えるとまた、身体が火照る。
てか、軽く勃ってなかった……?
押し当てられた下腹部がくすぐったい。
何考えてんのよ、昼間のオフィスで――!
もう三回深呼吸をして、私はトイレを出た。
タイミングのいいことに、今日の私は十一時から外出して、帰りは終業時間後の予定だった。
部長に会わずに済む。
顔を見たら絶対平常心ではいられない。
強がってみても、男性経験の少ない私には、刺激が強すぎた。その証拠に、今夜も私は寝不足だった。