師匠の声が聞こえる。次第に視界や嗅覚がすり減り残ったのは聴覚だけだ。師匠の顔はいつも頑固じじいみたいな顔だったけど今日だけはなんだか優しいような寂しいような顔を浮かべてた。そんな師匠の顔を思い出したら自然と目頭が熱くなっている気がした。感覚の無い頬に伝っている熱いもの、もう時期俺のすべての感覚が無くなる。
「(やっぱ最後に師匠から貰った手紙読んどくべきだったな。)」
その日俺は夢を見たんだ。知らない田舎道を歩く女の子の夢だ。その子は俺の手を引っ張ってただ歩く、どこまでもただ、ただ。黒くて長い髪に白いワンピースが風になびく度優越感に浸った気分になる。次第に日は雲の影となり、なんだか薄気味悪く感じた。橋まで歩いてきたところで俺たちの横を凄い勢いで車が通って行った。車に視線を持っていかれ、次に女の子を見た時には長い髪の毛は後ろで1本に結っていて、服は黒いスーツになり変わろうとしていた。横を見れば橋から見えた川はすべて車の渋滞になり、石ころのように見えたものは全て人になっていた。女の子はニコッとしながらも目は涙でぐしょぐしょになっていた。握られた手は離され、ここビルの屋上の淵に立った。追いかけても縮まらない距離と泣きじゃくる女の子の声が胸につっかかる。少しもしない間に女の子は泣きながら、ゆっくりと落ちていった。
「俺の名前は森 明日斗。祓い屋だ。」
みんなが忙しそうにする。せかせか働くだけの日々が私の欲という欲を削っていく。上司は相変わらずだ。そう、相変わらず。そんな貴方の顔を見るだけで胃が頭が痛む気がした。感覚が無くなるまで動かし続けた手は時期に無にかえる。
「(やっぱり仕送りに入ってた手紙、読んでおけばよかったな)」
その日私は、ようやく開放される。いつまでも消えない都会の嫌な光に包まれながら旅立つ。何を急いでいるのか法定速度ガン無視の車が何台も何台も続く。自分で望んでいたはずなのに涙が止まらない。次第に声が漏れて、その声はどんどん大きくなっていった。嬉しいのか辛いのか、感情がごちゃ混ぜになりながら私は笑った。屋上の隅に立った私の顔は涙でぐしょぐしょだった。迷いはもう無い。私は泣きながらゆっくりと落ちていった。
私は死んだ。 輪廻転生に失敗したのか、それとも今までのは全部夢だったのか。理解し難い現実が得そこにはあった。ここは確かに私の部屋で、窓からの景色もあの頃のまんまだ。放心状態の頭には蝉の鳴き声だけが響き、蒸し暑い夏の風を感じながら心地よさに身を委ねた。
「私、米崎 みわ。ここのオーナーだよ。」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!