師匠の声が聞こえる。次第に視界や嗅覚がすり減り残ったのは聴覚だけだ。師匠の顔はいつも頑固じじいみたいな顔だったけど今日だけはなんだか優しいような寂しいような顔を浮かべてた。そんな師匠の顔を思い出したら自然と目頭が熱くなっている気がした。感覚の無い頬に伝っている熱いもの、もう時期俺のすべての感覚が無くなる。
「(やっぱ最後に師匠から貰った手紙読んどくべきだったな。)」
その日俺は夢を見たんだ。知らない田舎道を歩く女の子の夢だ。その子は俺の手を引っ張ってただ歩く、どこまでもただ、ただ。黒くて長い髪に白いワンピースが風になびく度優越感に浸った気分になる。次第に日は雲の影となり、なんだか薄気味悪く感じた。橋まで歩いてきたところで俺たちの横を凄い勢いで車が通って行った。車に視線を持っていかれ、次に女の子を見た時には長い髪の毛は後ろで1本に結っていて、服は黒いスーツになり変わろうとしていた。横を見れば橋から見えた川はすべて車の渋滞になり、石ころのように見えたものは全て人になっていた。女の子はニコッとしながらも目は涙でぐしょぐしょになっていた。握られた手は離され、ここビルの屋上の淵に立った。追いかけても縮まらない距離と泣きじゃくる女の子の声が胸につっかかる。少しもしない間に女の子は泣きながら、ゆっくりと落ちていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!