浦田渉さん。
彼は俺の幼馴染で、今は相棒みたいな存在。
そんな彼の家は、警察の家系。
お祖父さんは警視総監。お父さんは警視長っていう、俺からしたらとんでもない家だった。
俺と渉さんが出会ったのは、小学生の頃。
全学年合同の行事で仲良くなって、家が近かったことを知って、それからずっと仲が良い。
あっちの家に初めて遊びに行った時は、びっくりしたっけなぁ……。
めちゃくちゃデカい家で、メイドさんとか執事さんがいて……渉さんの部屋も、俺の部屋の倍以上広かった。
そこで警察の家系だってことを知って、またびっくりしたのを覚えてる。
そんな家系だけど、渉さんは警察の道ではなく、探偵の道を歩み始めた。
何で、警察じゃなくて探偵だと思う?
普通なら、この歳から警察になる為の能力を養う為とか言われると思う。
あの人も、最初は警察の道を進もうとしていた。
だけど、とあることがあってから、探偵の道を選ぶことになったんだ。
今から3年前。
渉さんが中3で、俺が中2だった頃。
渉さんには、中学でずっと仲の良かった友達がいて、幼馴染の俺も、たまに混ぜてもらって遊んだりしてた。
それでその人は、家庭内のことで色々と悩んでるみたいで。
よく渉さんに相談をしたり、愚痴を言ったりしていた。
父親を早々に亡くして、その後精神的なストレスのせいか、母親がよくヒステリーを起こすようになったって。
その母親のヒステリーのせいで、身体に傷をつけて来る日もあった。
暴力を受けたのか、物を投げられたのか……そんな、痛々しい青いアザ。
だけど、その人はいつも、俺らの前では笑顔で、楽しそうに過ごしていた。
元々渉さんは、人を差別するような人じゃないし、何かあった時とか相談をした時は、本音で話してくれる。
そういう性格もあって、あの人はいつも楽しそうにしていたんだろう。
それに、母親のことは大好きだと言っていた。
酷いことをされても、今は血の繋がった唯一の家族だからって。
だから、いつか母親を安心させてやりたいって、よく言ってた。
……だけど、事件は突然起こった。
俺ら3人で、一緒に遊ぶ約束をしていた日。
道の途中で渉さんと俺がばったり会って、2人でその人の家に迎えに行っていた。
「何だ、あの人集り?」
「え? ……あ、ほんまや。パトカーもいるっぽいっすよ」
ウー、ウーと、住宅街にパトカーのサイレンが鳴り響いている。
「パトカーも……ってあそこ、あいつの家の前じゃないか?」
「先輩の? ……あ、マジや! なんかあったんか……!?」
嫌な予感がして、2人で人集りの方に走って近づく。
野次馬をかき分けて、黄色い規制線の前までやってきた。
「なんなんだ……? ……あ、○○警部!」
うらさんの知り合いがいたらしく、線の内側にいる警察の人に向かって話しかける。
「ん? あぁ、警視総監と警視長の。こんにちは、渉君。どうしてここに?」
「こんちは。今友達と遊びに行く途中で。だけど、これ……」
警察が出入りしている、規制線の内側にある家。
あれは、あの人の家だ。
まさか、あの人に何かあったんじゃ……?
「それが、あの家の子供が、母親を殺したらしくてね。家庭環境も悪かったらしいし、仕方ないことは、仕方ないのかもしれないけど……」
「「っ……!!」」
あの人が……母親を殺した?
あんなに大好きだって言ってたのに、何で?
「そんなわけあるかよ……! だって、あいつは……!!」
「あれ、もしかして渉君の知り合いだった?」
渉さんの必死の形相で気付いたのか、警部さんがそう聞いてくる。
「おいそこ、サボってないで仕事しろ!」
「あ、今行きます! じゃあそろそろ行くね。またどっかで」
他の人に呼ばれて、警部さんが去ってしまう。
「あいつが母親を殺した? んなわけねぇだろっ……だって……!!」
渉さんの訴えも虚しく、捜査はどんどん進んでいって。
そんな中で、本当はあの人は、母親を殺したんじゃなく、殺されそうなところを近くにあったカッターで防いで、だけどそのまま母親に刺さってしまったと、本人から聞いた。
拘束中、渉さんが面会に行って聞いたこと。
もちろん俺らは、あの人の無罪を、正当防衛を証明する為に頑張った。
だけど、そんな証拠も無し。それに、たとえ渉さんが警察の家系だからといって、中学生の俺らじゃやれることなんてほとんどない。
……何もできないまま、あの人は裁判で罰を下された。
だけど、それだけじゃまだ終わらなかった。
「あいつが獄中で自殺した……?」
その知らせが届いたのは、判決から数日後のことだった。
牢屋の中で、舌を噛み切って死んだらしい。
しかも、こんな話も聞いた。
“少年が母親を殺した事件の現場で、少年の正当防衛の証拠が出ていたけど、警察側が隠蔽した”
“事件の事情聴取の時、容疑者の少年は、容疑を認めるよう脅しめいたことを毎回言われていた”
それを聞いた渉さんは、お祖父さんに……警察の一番偉い人に、直談判に行ったらしい。
「あいつは何も悪くない! その証拠も出てんだろ!? なのに隠蔽ってなんだよ!! 何で無実の人が裁かれなきゃいけないんだ!!」
「裁判で判決が出た。決められた法には従え」
「法ってなんだよ!! そんなモノもクソもねぇだろ!! っあいつは、母親の為にあんな頑張ってたのに……!!」
「警察は法が全て。それが正義だ。渉、お前も良い加減学びなさい」
「法に従うだけが正義かよ!! それでお前らは善悪全部決めつけんのかよっ!! っこれが……!!」
「──これが、俺の目指してた警察かよ!!」
それから1年後、今の浦田探偵事務所が出来て、俺は渉さんに誘われて、助手をすることになった。
あの出来事は、俺の中にも深く残っている。
だから、渉さんも俺も、善悪は自分の意思で、ちゃんと考えた上で決めたかった。
時雨桜もブラッドムーンも、決して潔白な“善”とは言い切れない。
だけど、完全な“悪”とも、俺らは言い切れない。
この道を選んだのは、他でもない俺らだ。
だから、後悔はしてないし、しちゃいけない。
もう二度と、あんな思いをしない為に。
「うらさん、新しい依頼人が来ましたよ!」
そよよです。
5話目は、うらたさんの過去話を、坂田さん視点で書いてみました。
この2人のスタンスである、“善悪は自分で決める”は、実はこの出来事から来ていたんですね。
次は、探偵組の坂田さん編になります。
こちらは、今回とは逆に、うらたさん視点で書いて行こうと思います。
それでは、次のお話で。
おつそよ!
コメント
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ここまで深くそれぞれの過去の話だったりとか まで考えられるのほんとにすごいです! 尊敬の塊です! (昨日の怪盗時雨桜の連載全て読みはました。 最高に面白くて上手くて自分の作品が 恥ずかしくなりましたw)