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「どうしたのよ、さやちゃん……気をつけないと」
「ええ、そうですよね。すいません」知らず知らずに考えごとをしていたことを、もう一度謝る。
「いいのよ、だけど何か悩みとかがあるなら、遠慮なく言ってね。私は、あなたのお母さん代わりでいられたらとも思ってるから」
「ありがとうございます」と、笑顔を作って見せる。
菜子さんは、私の母と共に「KATZE」を始めた女性で、亡くなった母とは同い年ぐらいでもあり、この調香室の室長を務めていた。
カッチェは、猫のような癒やしの香りをと、元々は母がオンラインショップから始めたもので、母の病死を機に、その思いを汲んで父が起業した会社で、私はそこで母と同じ調香師をしていた──。
「作業に身が入ってなくて、私……」どうして、こんなにもあの人のことが気になるんだろうと思いつつ、呆然と呟く。
「もう気にしないでいいから。ただ何か事情があるのなら、ちゃんと話してね」
くり返される、本当にお母さんのような優しい気づかいに、「はい」と小さく頷く。
もう終わったことなんだし、いつまでもズルズルと引きずっていても、しょうがないんだけれど……。でも、いくら見目が良くたって、あんな態度はないし、あの様子でクーガの二代目なのは、ちょっと先行きが心配っていうか……。
「……彩花ちゃん、またっ……!」
注意を受けたそばから、彼のことに気を取られて、私はまたしても香料を作業用デスクにこぼしてしまっていた。
「す、すいません!」
「彩花ちゃん、なんだか今日はあんまり調子が良くないみたいだから、少し早いけれどお昼休みにして、ゆっくりしてきなさい」
菜子さんにそう促されて、「はい……」とうなだれて、私は席を立った──。