「言葉よりも行動が一番なんじゃないかな」
チタニーから読み取った答えを、ティニに告げた。
「私だって、チタニーを愛しているわ。でも、変わっているっていう意味を覆すつもりもないから、近寄るのに抵抗があるのよ」
ティニの言っていることも理解は出来る。チタニーを不思議だと思う気持ちを咎めることは私にだって出来ない。けれど、不思議だとか変わっているとかその言葉で縛っているのは、私たち自身であると思う。
「変わっているとしても。最初は受け入れ難いとしても。好意があるならきっと大丈夫さ」
私は、チタニーの小さな頭を優しく撫でる。彼女もまた、嬉しそうに目を細める。
「それは貴方も変わったからかもね。私はまだ、そんなすぐには…自分を変えられないのよ」
ティニは弱々しく呟いた。私はそれ以上何も言えなかった。彼女もまた、苦しんでいるのだろう。チタニーを好きな気持ちと、彼女の過去が生み出させた、異端者に注意せよという気持ちと。ティニは、故郷をたった一人の侵入者、異端者によって奪われてしまったのだ。部族抗争なんてものじゃない。戦う機会すら与えられず、一瞬のうちに壊されてしまったという。爆風に巻き込まれたティニと故郷は、その異質者のせいで幸福な世界をなくす羽目になった。そのせいで、彼女は異端者を警戒するようになってしまったのだ。
「ええ、ほんとに。チタニーは大好きよ。でも、やっぱり…人はすぐに変われないわ」
ティニは自分に言い聞かせるように言葉を続けた。
「こんな子供には、きっと何も出来ないでしょうね。いい事も悪い事も」
自分を諭す声色だった。きっとティニは、チタニーを信じたいんだ。たとえ言葉が良いとはいえなくても、異端者として見ないための強がりな努力なのだろう。
「ね、リエン。チタニーは何も知らないものね。無知で可哀想だけど、それでいいわよね」
「言い方が引っかかるんだけど、どういう意味かな 」
「知らないままの方が幸せなこともあるって事よ」
ティニの言っていることは分かるが、それを無知と表現したところに悪意しか感じ取れなかった。
「それはそうかもしれない。でも、なんで無知なんて…彼女に失礼だとは思わないか」
「失礼って何かしら。子供も大人も同じ人間よ。それに、無知で悪いことは無いわ」
ティニは力強く続けた。
「無知は凝り固まった人間の思考に、左右されない事よ」
「つまり君は、チタニーには自由でいてもらいたいという事だよね?」
彼女は選ぶ言葉はいいとは言えないが、チタニーをいじめる気持ちで言っているとは思えなかった。その素直な気持ちを言葉に出して欲しかった。けれど、ティニは首を振った。
「いいえ、自由なんてものじゃないわ。ただ呑気に、楽しいことだけ考えて暮らしていればいいと言ってるのよ」
そういうティニから感じたものは、羨望だった。彼女は住む場所を奪われた苦しみから、チタニーを羨んでいるようだった。しかし、チタニーもまた親を待つという肩書きだけで教会に預けられている。居場所がないのだ。そして、迎えに来る両親も既に居ない。
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