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「――忙しいのにごめん。無理言って」
「いえ。大丈夫ですよ。ステラ様」
にこりと微笑んだ、漆黒の髪の彼は、いつみても整った顔をしていると、さすが攻略キャラだな、と思わず見惚れてしまう。まあ、タイプかタイプでないかと聞かれると、タイプではない。
(初めのころは、いやだ、このブラコン!って思ってたけど、ちゃんと理由があったのよね……)
今思い出すと懐かしい記憶だ、と思いながら、ブライトの真正面の席で私も笑顔を返す。
フィーバス卿に頼んでいたことが無事に果たされたようで、こちらとしても、本当にありがたいことで、何度フィーバス卿に頭を下げればいいのか分からないほど、今回の機会は大きい。
(好感度15%……)
ブライトに関しては、ものすごく下がった時期があり、そのこともあって、少し話すのが苦手だ。けれど、今思えばあれは、彼の地雷を踏んでしまったから起こった現象であり、今回は地雷を踏んで下がったとしても、私が悪いわけでも、彼が悪いわけでもないと思いきれる確証がある。彼とて、家門と、弟を守りたい気持ちに板挟みになって辛かったんだろう。まさか、光魔法の先達者である、自分たちの家が災厄の元凶となる混沌を授かってしまったなんて、表に言えるはずがないのだ。
(弱みを握っている感じで、申し訳ないんだけどね……今、私の手札はこれだけだから)
汚い手ではあるけれど、それでもこれを知っているのと知っていないのとでは、ブライトの心にどれだけ入り込めるか変わってくるわけで、自分の事、かなり悪女っぽいなあ、なんて感じながらも、笑みは絶やさずにいた。
「フィーバス卿から……ステラ様から、僕に魔法を学びたいと聞いたのですが、本当ですか?」
「はい。今持っている魔力をもっと有効的に活用できればなと思って。災厄のこともあるし、自分の力が、誰かの役に立てるようにって、思って」
「それで、僕を?フィーバス卿ではなく?」
と、想定内の反応が返ってきて、私はうなずいた。
ブライトは、自分よりも、フィーバス卿の方が、魔法に精通していると知ってるからだろう。自分の父親が、そんな優秀な方なのに、なぜ自分に? と思ってもおかしくはない。私も、何も知らなければそう思うだろう。実際、この世界に来た当時、前の世界では、ブライトが一番光魔法の中で強いと思っていたか。フィーバス卿の存在を知ったのは結構後だったし、フィーバス卿の魔法が攻撃魔法科と言われたら違うから、図りようがないのだけど、それでも、あの場から動けないフィーバス卿が、どんな魔法を持っているか、みんな知らないわけで、それでも膨大な魔力量を――と知れ渡っているということは、少なくともフィーバス卿の実力が認められているというわけで。
「お父様に教わろうかと思ったんですけど、お父様は忙しい方ですし。ああ、もちろん、ブライトが忙しいっていうのも知ってたんだけど……私、あまり外に出ないから、出た方がいいのかなーとも思って。ブライトが頑張っていること知ってるから、そういう人に学びたいなって思って」
「そ、そうだったんですか……僕なんかよりも、フィーバス卿の方が、と思ったのですが、ステラ様にそういってもらえるのなら」
「こ、これといった理由っぽい、理由が、なくてごめん……なさい」
「いえいえ。そう思ってもらえるだけでありがたいですから。それに」
「それに?」
ブライトのアメジストの瞳がスッとこちらへ向けられる。黒い髪にその紫は、まるで夜空を連想させ、そんな夜空に白い転々とした星が写っているようだった。なんだか恥ずかしくなって、視線を外そうかと思ったが、彼が区切った言葉の次に何が来るのか気になってしまい、ここで顔を背けるのはよくないと、向き合う。すると、ブライトは少しおかしそうに、薬と笑い、眉をはの字に曲げた。
「すみません、なんだか落ち着きませんよね」
「ええ、ええと、大丈夫ですから、続けてもらって」
彼の含みのあるその表情に、引っ掛かりを覚えつつも、変なところで止めるなと、私は彼をせかした。ブライトは、すみません、と言いながらも、その顔はすがすがしく、どこかいたずらっ子のようにも感じた。ブライトがそんな顔をするなんて珍しい、なんて思っていれば、耳から落ちた漆黒の髪をかけなおし、少し低い姿勢で話を始める。
「何だか、これが初めてじゃないような気がして。ステラ様に、魔法を教えるのが初めてじゃないような気がするんです。なんだか、懐かしい……そんな気がして」
「……っ、そう」
彼の口から飛び出したのは意外な言葉で、好感度がそこまで高くないのにもかかわらず、彼は懐かしいと言った。そう、前の世界のことをいっているのだ。けれど、初めてじゃないような気がして、懐かしい……といっているだけで、確証に迫っていないような感じがする。別に、そんなことない、そう思っただけと、ただ口にしただけで、重大なことだと考えていないようだった。
少し、期待してしまったが、まあ、この程度なら……と、期待半分、そのほかの感情、と自分を抑える。あまり、期待しすぎると、その期待を裏切られたときが苦しいから。
「変ですよね。こんな話」
「いえ、ううん、変じゃないと思う。ブライトがそう感じるなら、その感性?とか大事にすればいいし、私も、ブライトならって思って、まだそこまでかかわってないけど、教えてほしいって、この人がいいって思ったんだもん。だから、一緒だと思う」
「そう、そうですね!こんな話して、変だなと思われたり、気分を害されたりしないか……と少し不安になっていたんですが、ステラ様にそういってもらえて、僕も少しだけ安心しました。ステラ様は優しいですね」
「や、優しいかどうかは分からないけど。あ、あ、と、ブライトの方が優しいと思うから!」
「お世辞ありがとうございます」
と、ブライトはフフッとほほ笑んだ。
そんなふうに笑えるのなら問題はないな、とどの目線で見ているのか自分でもわからなくなるくらい、彼が穏やかでよかったと思う。災厄の事、父親の事、弟の事、いろんなことで板挟みになって、その心は、エトワール・ヴィアラッテアにとらわれていると思うと、気が重かったけれど、私にここまで気を許してくれているということは、それなりに、彼に与えあた印象はよかったのだろう。
二週目だからといって、すべてが全てうまくいくわけではないし、分かっているからこそ、それを基準に動いてしまうときだってある。何よりも、知っているからこそのうぬぼれ、そして伝わらない絶望というのは大きい。ブライトのことを知っていたとしても、うまく動けないのは、そこに問題があるからだ。焦らず慎重に、でも素早く記憶を取り戻してもらわなければいけない。刻一刻と、災厄は迫っている。混沌が、ファウダーが、今回違う位置にいるけれど、そこも気になるところではあって……
「ステラ様、どうしました?」
「え、いや……」
「ぼーっとしていたので。寝不足じゃないですか?ここまで、遠かったでしょうし」
「だ、大丈夫です!ブライトに教えてもらうために、早く寝たので」
「そ、それならいいんですけど、無理だけはしないように」
「ありがとう、ブライト。やっぱ、そういうところが優しいんだって!」
本心を口にすれば、ブライトは少し戸惑いながらも、「ありがとうございます」と照れくさそうに笑みを作り返してくれた。
「それじゃあ、魔法の特訓付き合ってください。先生、お願いします」
「あはは……先生は、ちょっと、あれなので、いつも通りで」
と、ブライトはいうとまたちょっと恥ずかしそうにほほをかいた。