テラーノベル
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今日から二学期。何度目かのアラーム音を聞きながら、その倍以上の溜息を吐き、しぶしぶと起き上がる。 久しぶりに袖を通す制服のブラウスは半袖の軽量な生地なのにやたら重く感じ、首に巻いた赤いリボンは緩く付けているはずなのに、どうにも首を締め付けてくる。
一重の瞼はアイプチして、ブラウンのアイメイクをのせて、ビューラーをしてマスカラを塗って、目下に薄くラインを引いて涙袋を作って、下がり切った口元にリップを塗れば、イマドキの女子高生、斉藤文が出来上がる。
「はぁ……」
電車で揺られて三十分。朝っぱらから容赦なく照りつけてくる太陽と、どんどんと混んでいく車内による暑さも相まって、初めは死んだような顔をしていた私だったけど、学校が近付いてくるとクラスの子たちが電車内にいるかもしれないと、笑顔の仮面をそっと被る。
「おはよう!」
同じ制服を着たメイクバッチリの子たちが電車から降りてくるのとバッタリ会い、ワントーン高い声でしっかり挨拶をする。
同じクラスの別グループの子たちだけど、アイツ、ムシしてたって言われないように。
すると笑顔でノリ良く返してくれるけど、これ以上会話をすることも、そのグループに入ることなく、私はわざと歩幅を小さくし、何か通知が来たフリをしてスマホをスカートのポケットから取り出し、人の流れから外れていく。
心のピリつきを感じながら。
別に仲が悪いわけじゃない。
挨拶だってするし、用事がある時は話す。
だけど一緒に行動するわけでも、世間話をするわけでもないし、私がいると話したいことも話せずテンションが下がるだろうからと、離れるようにしている。
その関係は、同じクラスの挨拶はする程度の距離感であり、友達とは到底呼べないだろう。
駅舎内は変わらず賑やかで、全ての音がやたら大きく聞こえてきて、女子たちが手を叩いて笑い合っている後ろ姿は、とにかく眩しくて、めまいがする。
うるさい、うるさい、うるさい。
なんで世界は、こんなに騒音だらけなんだろう?
なんでここにいる人みんな決められたかのように、同じ電車に乗って、同じ場所で降りて、同じ目的地に向かっていくんだろ?
……なんで学校なんか行かないといけないんだろ?
女子たちがかけていたであろう制汗剤の匂いがやたら鼻に付き、余計にザワザワイライラしてくる。
気付けば笑顔の仮面は崩れかけていて、素顔が見えそうになってしまっていた。
『次会った時さぁー、私の話を聞いてもらっていいー?』
フッと過ったのは昨日の麗華とのやり取りで、止まってしまっていた足は自然と動き出し、人の波に乗って、私は今日も歩いていく。メイク道具で塗りだくるイメージをした、笑顔の仮面を被って。
あのね、麗華。
私も聞いて欲しい話があるんだ。
だから次に会った時に聞いてくれないかな?
それを励みに、今日も頑張るからさ。
「文? 昨日は、どーして来れなかったのぉ?」
「ごめん。宿題ヤバくてさぁー」
いつも以上に賑わう教室に着いた途端、真希の問いにウソをつくことから始まる。罪悪感を持ちつつ、ホントはとっくに終わっていた宿題がいかに手間取ったかを話していく。
ほら大丈夫。私はボッチじゃない。
#元カレ
まぁ
12,388
世羅 鈴🎨🎤
305,052
#普通
野々さくら
206
芙月みひろ
442
円を作って笑って話をしている時点で、友達はいるんだから。
「あれぇ、今日テンション高めじゃな~い?」
莉乃にのぞき込まれて視線が合った目力は強く、教室の冷房に風が当たっていた心臓がキュッと縮こまる。
「あ……、久しぶりにみんなに会えて嬉しいみたいなぁ……」
高かった声をワントーン下げ、ゆっくりな口調で、声量も意識して下げていく。
よくもこんなウソを言えるなと、自分に「アンタ誰だよ?」と毒を吐きつつ、口をギュッと結ぶ。
会話のテンポを下げる返事はしない、話を聞いて大げさに笑う、話したいことがあっても聞き役に徹する、声は低く小さめに早口にならないようにする。
麗華と過ごした夏休みが特別過ぎて忘れていたけど、それが私でしょう?
そうすれば上手くいく、私の学校生活。
本が好きで、お喋りな私は封印しないといけない。
あれは夢の時間だっただけ。いつもの日常に戻っただけ。
だって学校が始まれば、私は「普通の女子高生」でいないといけないのだから。
「皆、席に着けー」
担任の川越先生の低く通る声で教室内に出来ていた小集団はバラけて席に座っていくと、太陽により照らされた廊下に一つの影があった。
制服のスカートみたいな形がシルエットになっていて、何であんなところに立ってても先生に何も言われないのだろうとボンヤリ考えていると「やっぱ、そうじゃん!」とギャルグループの子たちが湧きたっていく。
一番後ろの窓際に新たな席が用意されており、「転校生じゃね? 誰かぁ、知ってるぅ?」ってクラスのみんなに呼びかけていて、みんな「知らない」と苦笑いを浮かべていたけど、まさか本当だったとは。
……まあ、そうは言っても私には関係ないんだけどね。
だって、誰が来たって分かり合える人なんていないのだから。
でもそれが、麗華だったら?
って、ないない! そんな偶然ある訳ないし。私たちが住んでる地域に高校なんて、いくつあると思っているの?
そんなの小説の世界だけだって。
そう思い転校生に目をやると、入室してくる一人の高校生。
ストレートの黒髪に整った目鼻立ち、透き通った肌。
一つボタンを開けたブラウスに赤いリボン、紺色で膝上丈のスカートから伸びる足は細くて長い。
大人びた声や仕草をし、大人の魅力を持ち合わせた女性。
「西条麗華です」
生徒なんていくらでもいるのに、澄んだキレイな瞳は私をとらえてきた。
美しく、可憐な笑顔を見せて。
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