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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第151話:収穫の始まりと、シロ様のうたた寝
都会からのシニカルな刺客であった映画監督を見事に完全浄化し、爽やかに見送った数日後。
十勝の限界集落には、どこまでも高く澄み切った秋の青空が広がっていた。
黄金色に色づいた防風林の木々が、涼やかな秋風に揺れてサラサラと心地よい音を立てている。
前回の夏祭りと夏野菜の爆売れによって、財政難から完全かつ永久に脱却した我が限界集落。
だが、村のお年寄りたちに奢りや怠惰の気配は微塵もなかった。カネがあるからこそ、より一層元気に、より一層楽しそうに、毎日の畑仕事に精を出している。
「いやぁ、秋の収穫は本当に気持ちが良いねぇ、アキヤ君!」
頭に手ぬぐいを巻いた村長が、腰を叩きながら満面の笑みで俺に声をかけてきた。
「ああ、村長。作戦行動(農作業)における最も重要なフェーズ、それがこの『秋の収穫(ロジスティクス・ハーベスト)』だ。春から蓄積してきた成果を一斉に回収する、最も士気が高まる瞬間だからな」
俺は元・陸上自衛隊需品科の戦闘服(OD色)の袖をまくり、手際よく土だらけのジャガイモや大根を収穫用コンテナへと積み込んでいた。
今日の農作業陣地は、村の共有広場に隣接する広大な畑。
そこには村のおばあちゃん達も総出で集まり、和気あいあいと大地の恵みを収穫している。
そして、その作業のド真ん中、一番日当たりの良い柔らかな土の上に、我が家の絶対権力者が鎮座していた。
純白の神獣シロ様である。
『ミャウ(ふぁあ……、ぽかぽかして、絶好のお昼寝日和ね)』
シロ様は小さく優雅に欠伸をすると、ふかふかの土の上でゴロンと横になり、前足で顔を隠すようにして気持ちよさそうにうたた寝を始めてしまった。
「うふふ、シロちゃん、本当に可愛いねぇ。畑の守り神様じゃよ」
おばあちゃん達が目を細めて、拝むようにシロ様を見つめている。
そのすぐ隣では、ふかふかの秋毛に変わり始めたキタキツネのコン吉とコン次郎が、シロ様の寝顔を守る守衛のように、お座りをして周囲を警戒(時々居眠り)していた。
さらに、防風林の影からは、体長三メートルの巨大ヒグマが、おばあちゃん達から貰った大量の蒸しサツマイモを両手で大事そうに抱え、「グルォォ……(秋の味覚、最高だぜ)」と、静かに幸せそうな鼻息を漏らしている。
最強のYAMAHAルーターを通じて、全世界へ生配信されている【日常チャンネル】の画面の向こうでは、早朝からこの極上の秋の癒やし風景を目撃した一千万人のリスナーたちが、完全に限界突破して悶絶していた。
『朝から最高の癒やし画面キタァァァァァ!!!』
『シロ様が畑のど真ん中でとろけてるww可愛すぎて心臓がもたん』
『村のおばあちゃん達とモフモフたちの距離感が完全に家族のそれ』
『ヒグマがサツマイモをちびちび食べてるのシュールだけど尊いww』
『この限界集落、夏祭りを経てさらに平和のオーラが極まってないか?』
チャット欄が超高速で流れていく中、シロ様のうたた寝が深くなるにつれて、畑に奇妙な『現象』が発生し始めた。
『ゴロゴロ……。グゥ〜〜……』
シロ様の喉の奥から、深く、心地よい重低音のバイブレーションが響き渡る。
すると、彼女の純白の毛並みから、プラチナ色にきらめく微細な光の粒子――神獣の放つ極上の『マイナスイオン(豊穣バフ)』が、霧のようにフワァァァッと畑全体へと広がり始めたのだ。
その光の粒子は、吸い込まれるようにして十勝の肥沃な土壌へと、じっくりと染み込んでいく。
「お、お兄さん! 見てください! 畑の土が……土がなんか、プラチナ色にキラキラ輝いてますよ!?」
いつもの動きやすい農作業着の上に割烹着をまとった小春ちゃんが、目を丸くして大根の葉を握りしめたまま叫んだ。
シロ様の豊穣バフが染み込んだ土壌は、まるで生き物のように微かに呼吸を始め、周囲の空気までが一瞬にして「深い森の奥の早朝」のような、圧倒的に清らかな香気で満たされていく。
バフをダイレクトに浴びた周囲の作物が、目に見えてツヤを増し、生き生きとした生命力を放ち始めるのが分かった。
この神秘的すぎる「神獣による土壌改変」の瞬間を目撃し、世界中のVIPたちも大興奮で財布の紐を爆破させた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Oh! The soil is shining! Master, that land is no longer just dirt, it’s a field of diamonds! I’ll buy that field for 10 billion yen!“(おお! 土が輝いている! 主よ、あの土地はもはやただの泥ではない、ダイヤモンドの畑だ! あの畑を十億円で買い取るぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”An incredible agricultural buff! The economic value of that pure negative ion soil is mathematically immeasurable!“(驚異的な農業バフだ! あの純粋なマイナスイオン土壌の経済価値は、数学的に計測不能だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”My King is sleeping so beautifully! Akiya, don’t wake her up! Give her the most luxurious blanket in the world!“(私の王がなんて美しく眠っているの! アキヤ、彼女を起こさないで! 世界一高級な毛布をかけてあげて!)』
世界中から感動と驚愕の拍手(スパチャ)が湧き起こり、画面が極彩色の祝福で埋め尽くされる中。
俺は静かに、自分の収穫用コンテナの上に腰掛け、いつものタッパーを開けた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートとゴボウの秋風甘辛煮』である。
「……よし。前線農地における局所的な土壌環境の変動を確認。これより指揮官は、秋の長期作戦(収穫作業)を完遂するための、定時エネルギー補給を開始する」
俺は、プラチナ色に輝く大地のド真ん中で完全に蕩けているシロ様とおばあちゃん達を背景に、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前でシロちゃんが国宝級の可愛い寝顔を晒して、畑全体に神様の豊穣バフを染み込ませてる神秘的な奇跡の瞬間に、なんで一人だけ真顔で大豆ミートの甘辛煮をストイックに噛み締められるんですか!?」
小春ちゃんが、今しがた土から引き抜いたばかりの、葉っぱが信じられないほど青々と茂った『特大サイズの十勝大根(長さ約五十センチ)』を両手でバズーカのように構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど環境にオカルト的な発光現象が発生しようとも、農作業という肉体労働において、指揮官が適切な植物性タンパク質と糖質を補給するのは当然のロジスティクスだ。いかなる時もルーティンを維持する。これが需品科の鉄則だ」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、一千万人を突破してサーバーの限界を試し続ける配信カメラの前にキリッとした真顔で立ち、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、白い猫のうたた寝によって土壌がプラチナ色に輝き、大自然の奇跡が起きたと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『新章の第1話目から、少しのブレもなく平常運転の言い訳男!!!』
『主の限界言い訳タイム・シロ様のうたた寝編ww』
『さあ、このプラチナ色の発光土壌をどうやって科学的に論破する気だww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、シロの超能力による豊穣バフなどではありません。これは、秋の急激な気温低下に伴い、土壌内部の『発光性硝酸塩還元細菌』という特殊な地中微生物が、一時的な活性化(オーバーフロー)を起こして生物発光しているだけです。猫が寝ている場所に光が集まっているように見えるのも、彼女の純白の体毛が太陽光を効率的に乱反射し、周囲の地表の水分を蒸発させて霧状の『チンダル現象(光の筋)』を引き起こしているに過ぎません。ええ、すべてはただの『土壌微生物の季節的な代謝活動』と『体毛による光の物理的乱反射現象』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた特大の十勝大根を全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・大根スマッシュを見舞った。
みずみずしい大根が肉体に激突した、鈍くも豪快な爆音が、静かな十勝の秋空に心地よく響き渡る。
「地中微生物の代謝活動で土から高級エステの匂いがするわけないでしょうが!! チンダル現象じゃなくて、シロちゃんがこの村のみんなのために、美味しい秋のお野菜がたくさん採れるように魔法をかけてくれたんですよ!! 素直に『うちの猫は世界一の豊穣の女神だ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの大根スマッシュキタァァァァ!!!(いい音)』
『発光性硝酸塩還元細菌(ただの神獣の豊穣バフ)』
『体毛による光の物理的乱反射(世界一尊いシロ様のマイナスイオン)』
『適応力バグおじさん、ついに土の発光まで細菌のせいにして自然科学で押し通そうとするww』
『大根の攻撃力が上がってて草ww主の背中が心配だわww』
俺の理不尽極まりない地質学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの大根ツッコミに、畑のおばあちゃん達は「アッハッハ! アキヤ君は今日も照れ屋さんじゃのう!」と大笑いし、一千万人を超える視聴者たちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、相変わらず言い訳だけは一丁前な下僕ね)』
地上の大騒ぎに気づいたのか、シロ様がゆっくりと神秘的な『オッドアイ』の瞳を開け、呆れたように尻尾を揺らしながら、満足げに喉を鳴らした。
キツネ兄弟も、ヒグマも、おばあちゃん達も、みんなが笑顔の温かい光に包まれている。
「……まぁ、理由はどうあれ。土壌の質が向上し、秋の収穫の歩留まりが上がるなら、ロジスティクスとしては大成功だ」
俺は背中の大根の衝撃をさすりながら苦笑し、シロ様の純白の頭をそっと撫で、温かいほうじ茶を啜った。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いモフモフたちと、騒がしい女子高生、そして世界中から見守るリスナーたちに囲まれた、世界一強固で温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せる秋の奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート。
限界集落の新しい秋の物語は、大爆笑と消えない癒やしの光に包まれながら、さらなる規格外の日常へと、どこまでも力強く幕を開けるのだった。
コメント
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久々の新章、めっちゃ待ってました!シロ様のうたた寝で畑がプラチナ色に輝くとか、もう至高の癒やし画面すぎる…!アキヤの「発光性硝酸塩還元細菌」って限界言い訳、小春ちゃんの大根スマッシュで見事に粉砕されてて笑ったわw 平和で温かい日常が何よりのごちそうですね、シロ様のお昼寝パワーで今年の収穫もバッチリだ🔥