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続き楽しみに待ってます!!!!!!!
佐伯柑奈
この真っ白で無機質な天井も、もう見慣れてきた。
すでに入院してから2週間が経っていた。特にすることもなく、時々襲ってくる副作用や痛みに耐えていると一日が過ぎる。そんな日々だった。
身寄りのないわたしに会いに来る人もいない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう、と思う。それと同時に、なっちゃったんだからしょうがないか、と諦めの念も押し寄せる。
ベッドに身体を倒して布団をかぶったところで、コンコン、とノックの音が聞こえた。「はい」
ドアが開き、失礼しますと言って顔を見せたのは担当のジェシー先生だった。
「体調や副作用、どうですか?」
「うーん…良くも悪くもって感じです」
「わかりました。ほかに病室で困ったこととか、わからないところはありますか?」
「いえ」
「じゃあまた何かあったら、いつでも言ってくださいねー」
友好的な笑みを残して、先生は出ていく。
そのとき、わたしはふと思った。あんなに背が高くて顔立ちも整ったジェシー先生は、なぜ医者になったのだろう。まるでモデルみたいなスタイルなのに。
もちろん、そんなに親しくなったわけではないから、当然理由なんてまだ聞けない。想像を絶する、複雑な理由があるのかもしれない。それでも、少し気になってしまった。
また今度、タイミングを見計らって聞いてみようかな。
その日はひどい痛みもなく、体調はいいほうだったので、夕食前の時間に少し外に出てみることにした。
カーディガンを羽織り、部屋を出る。
確か中庭があったはず。エレベーターホールの地図を見ながら移動する。
それは、建物の1階の真ん中あたりに位置していた。ベンチがいくつか置いてある。空は薄暗いが、明かりがついているから安心だ。
患者はいない。その代わりに、白い服の背中が見える。白衣だから、医者だろうか。
足音に気づいたのか、振り返る。黒い髪のその人は、放射線治療を担当してくれている松村先生だった。手にはコーヒーの缶がある。
「…佐伯さん」
びっくりした様子で、こちらを見る。
「なんでこんなところに」
その口調からすると、ここは夜にはあまり患者は来ないところなのかもしれない。
「来てはいけないところなんですか」と問うと、
「いえ、そんなことはありません。珍しいもので。…放射線の後の副作用とか、どうですか」
「うーん…そんなに悪くもないっていう感じです」
そうですか、とうなずいた。
「症状が辛いとか、苦しいとかあったら無理せずに言ってくださいね。ラウンドしてる看護師でも誰でも」
「はい」
「夜は冷えるので、外はほどほどに。温かくしてお休みください」
ほほ笑みが漏れる。
「先生こそ、ご無理なさらず」
「ありがとうございます」
会釈をして、去っていく。誰もいなくなった中庭は、なぜかもの寂しい。
そろそろ夕食だ、と病室へ戻った。
続く