「っ……!」
あまりの力の強さに、短い悲鳴が喉の奥で止まる。
彼は、私が痛がっていることなど意に介さず、至近距離で私の顔を覗き込んだ。
「物分かりがいいのは嫌いじゃない。……だが、その目は気に食わないな」
「っ……それは、あなたが、あまりに噂通りの俺様で…傲慢だから……!」
思わず、本音がこぼれた。
言ってから、血の気が引く。
相手は国の権力を握る公爵だ。
不敬罪で首を撥ねられても文句は言えない。
だけど、止められなかった。
本来ならばこの人は借金を返してくれる恩人、母の命を繋いでくれる救世主に等しい。
だけど、その正体は初対面の令嬢に札束で頬を叩くように「買った」と言い放つ、傲慢不遜な男。
私の令嬢としての最後のプライドが、彼の支配に反発していた。
恐怖心さえ、その瞬間は怒りに塗りつぶされた。
「ほう、口の減らない女だ」
シャーロット様の口角が、わずかに吊り上がる。
笑ったのではない。
それは、退屈な日常に現れた新しい玩具を見つけた肉食獣のような
獰猛で、残虐な気配を孕んだ笑みだった。
彼の瞳の奥に、昏い熱が灯るのを私は見た。
言い返そうと、震える唇を開いた瞬間───
視界がぐらりと揺れた。
「んむっ……!?」
何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
衝撃が走ったのは、唇。
彼の手が私の後頭部をがっしりと掴み、逃げ場を塞ぐ。
そのまま、貪るように強引に唇を塞がれた。
冷たい外見、氷のような男という噂。
それなのに、重なった彼の唇は、驚くほど熱い。
熱いどころか、焼けるようだ。
深い、深い、舌を這わせ私の口内を隅々まで蹂躙する、魂まで暴かれるような熱情のキス。
これは、愛情などではない。
支配だ。刻印だ。
「お前は俺のものだ」と、肉体に刻みつけるための行為。
「ふあ……っ、ん、やめて……っ、離し……っ」
わずかな隙間を見つけて抗おうとするけれど
彼の手は万力のように私の体を固定し、びくともしない。
私の必死の抵抗は、彼にとっては心地よい愛撫でしかないかのようにキスの熱はさらに増していく。
「……今はただ、俺の言うことを聞いておくんだな。駄犬が」
酸素を奪われ、膝の力が抜けて崩れ落ちそうになる私を、彼は冷酷な瞳で見下ろしたまま決して離そうとしない。
痺れるような快感と、圧倒的な敗北感。
手慣れたその手つき、私を女として扱うのではなく、所有物として扱うその態度に
私は自分がただの「契約上の妻」であり、彼の気まぐれに弄ばれるだけの存在であることを
残酷なほど思い知らされた。
これが、地獄への入り口なのか。
唇に残る、彼の痺れるような熱と匂いに
私はただ、絶望と、自分でも信じられないほどの熱情の間でガチガチと震えることしかできなかった。






