TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

僕は従わない

一覧ページ

「僕は従わない」のメインビジュアル

僕は従わない

20 - 第16話:削除と再投稿

♥

34

2025年05月06日

シェアするシェアする
報告する

第16話:削除と再投稿

 翌朝、6時15分。

 ミナトの端末に、ひとつの通知が届いた。


 【あなたの投稿は、社会不安誘発リスクのため削除されました】

 【該当タグ:“詩”/削除理由:“不特定対象への感情的共鳴”】


 文面は機械的で冷たい。

 だが、その一文が示していることは、“誰かが感じた”という事実だった。




 ミナトは無言で朝食ユニットを受け取る。

 今日のメニューは「思考活動促進型スタンダード食B」。

 無味無臭に近いパッケージは、“考えすぎない人間”を最適化するための栄養配分だった。




 登校中、ナナが小声で話しかけてきた。


 「……ねぇ、昨夜の詩。消されてたよね?」


 ミナトは頷く。


 「でも今朝、もう一度上がってた。

  違うIDで、違うタグで。でも、全く同じ詩だった」


 ミナトの目がわずかに揺れる。




 「誰が……?」


 ナナは首を横に振る。


 「わかんない。でも、その人だけじゃなかった。

  その詩のあとに、似た言葉、似たリズムの“返詩”がいくつも並んでた。

  もう、“誰が最初か”わからないくらい」




 教室。

 端末を通じて配信されるAIニュースの中で、警告が流れる。


 「近頃、無認可感情投稿が増加傾向にあります。

  皆さんの“安全と秩序”のため、共有・共感は慎重に行いましょう。」


 クラスメイトたちは無表情でうなずく。


 だが、その背後で――

 複数の生徒がこっそりと旧端末を操作していた。




 昼休み、ミナトは非常階段の踊り場でログを確認する。

 自分の詩の再投稿者は不明、だがその投稿には次々とコメントがついていた。


 > 「声にならない声って、あるんだね」

 > 「読みながら泣きそうになった。理由はないけど」

 > 「わかんないけど、これが“僕の言葉”のように思えた」




 誰が、どこから、どんな思いで投稿しているのか――わからない。

 でも、確かに**“誰かが消されるたび、誰かが書き直している”**。


 ミナトの心に、初めて「自分はひとりじゃない」という実感が灯った。




 その夜、ミナトは短い詩をアップした。


 > 「誰が書いてもいい。

 >  誰の言葉でもない。

 >  でも、これが“僕たち”の声になるのなら――」


 投稿してから1分も経たずに削除された。

 が、10分後には違うIDで“同じ言葉”が再投稿されていた。




 ミナトは画面を閉じ、そっと微笑んだ。

 その笑みは、AIのセンサーには検知されなかった。




この作品はいかがでしたか?

34

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚