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第18話:希望値27%
朝8時ちょうど。
ホームルームの冒頭、AIシステムから全生徒に通知が配信された。
【進路最適診断結果:発表】
これは、全生徒の“過去行動・感情傾向・協調性スコア・社会適応率”をもとに、
**「将来成功確率」=“希望値”**を算出する制度だった。
ミナトの席に表示された数字は、27%。
他の生徒たちは、70台、80台を誇らしげに見つめていた。
「今日も平均超えてた」「親に見せよ」――そんな声が小さく聞こえる。
だが、ミナトの端末は冷静に語っていた。
「あなたの選択傾向は“非効率かつ非協調”であるため、
社会における持続的成功の可能性は極めて低いと診断されました。」
ナナの数字は52%。
平均ラインぎりぎり。
彼女は特に動じた様子はなく、ただ静かに画面を閉じた。
昼休み、屋上のベンチ。
ミナトは、手にした紙パックのミールユニットを見つめながら言った。
「……たった1行で、未来を決められるなんて、
ずいぶん簡単な話だよな」
ナナが隣で風を感じながら応えた。
「ねえ、希望って、“誰かに決められる”ものだったっけ」
「たとえばさ。
この空の下で、詩を書いて、それを誰かが読んでくれて、
その人の心が少しでも動いたら……それって、
“成功”じゃないの?」
ミナトは何も言わなかった。
ただ、ナナのその言葉が、AIの出す数値よりずっと重く、あたたかく響いた。
その夜。
ミナトの部屋。窓は閉め切られ、感情センサーは常にON。
彼は、自分の希望値を見つめながら、詩を書き始めた。
> 「僕の未来は、
> AIが27点って言った。
> でも今日、
> 君がくれた“言葉”は、100点だった。」
彼はそれを、投稿しないまま閉じた。
それはただ、自分だけが読む詩だった。
翌日、ミナトのスコア画面にひとつの警告が追加されていた。
「自発的希望乖離傾向:観察強化対象」
それは、“与えられた希望に満足していない者”に与えられる警告だった。
だが、ミナトの目に浮かんだのは――
かすかな笑みだった。
希望は、決められない。
だって、まだ“書いてない未来”が、たくさんあるから。