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序章 ひとつの終わりとひとつの始まり
君は死にたがりで、僕はもうすぐ死ぬ。
それでも、君に生きたいと思ってほしかった――
――❀――
とある病院の診断室にて。窓から見える桜は、何も知らない顔で咲いている。その下で、僕はひとつの終わりと、ひとつの始まりに立っていた。
「貴方は残灯症を患っています」
医者から呆気なく告げられた、そのとんでもない事実。
残灯症。それは、患ってしまえば例外なく余命が一年になってしまう病気のことだ。
治療方法は未だ解明しておらず、ここ最近患者数が増幅したらしい。
後ろに立っている両親が息を飲んだ。まだ信じられないという様子で、僕の肩を掴む力が強くなっていく。
「……ありがとうございます」
震え、今にも消え入りそうな声。社交辞令としての感謝を述べたあと、家へと帰宅した。
夕方となり、自然と食卓を囲む。
ただ、美味しいとも思うこともできず、ただ食べ物を口に運ぶだけの作業。
空気が、死んでいた。でも、打ち破ろうとは思わなかった。する気すら起きない。
ただ、今この瞬間にも僕の寿命は終わりへと近づいていっていることだけが身に染みる。その事実がまた、僕を絶望させた。
一年。僕にはそれしか残されていない。
――春。始まりを告げる季節のはずが、僕には残酷な終わりしか告げてこなかった。
――❀――
新学期。仲がいい友人と同じクラスになれとあれほど願っていた頃が懐かしい。その願いは叶ったというのに、喜ぼうにも喜べない。
「凪斗、お前なんか今日元気なくね?」
「……そんなことないよ」
口ではそう言っているが、頭では肯定していた。
……お前には俺の気持ちが分からないだろうな。
不覚にもそう思ってしまい、自己嫌悪に陥る。今声をかけてくれたのは、先ほど言った仲の良い友人である霜崎悠。
悠は、疑うような視線を俺に向けている。少し鬱陶しくなりながらも、誤魔化すように無理矢理笑顔を作った。
「……朝、目玉焼きを半熟にしようとしたら完熟になったんだよ。それでイライラしてんだ」
観念したように手をふらりと上にあげ、悠の顔色を伺う。
納得したような笑みを浮かべていた。
「はは、なんだそんなことかよ。死んだ幽霊みたいな顔してたから、何事かと思ったぞ」
「ごめんごめん、まあそんなことだから早く席座れ」
悠は「おう」と返事をし、俺の机から一歩離れ、振り向く。
「そうだ、凪斗。今日、転校生がこのクラスに来るらしいぜ。しかも女子」
「へえ」
「じゃ、またな〜」
転校生。この進級する時期にはよくあることだ。
……正直、興味がない。いつもなら男らしく馬鹿らしいことを考えて胸を躍らせていただろう。
だけど、もう僕の終わりは決まっているのだ。
そんな状態で未来に期待なんてできるはずがない。
――知らない方が幸せでいられること。僕は、偶然にもそれを知ってしまった。
「……今年転校してきました。桜条茈月です。これから一年間、よろしくお願いします」
胸辺りまで伸びた真っ直ぐな髪が、黒紫の影を揺らす。桜の花弁を閉じ込めたような瞳は淡く、触れれば消えてしまいそうなほど繊細だ。
夜に咲く桜。
その言葉が、一番しっくりくるような少女だった。
……馬鹿なことを、言ってもいいだろうか。
教室の扉を開けて入ってきた彼女を見た瞬間、心臓が鷲掴みにされた。顔が熱くなった。言語化することができない感情が、沸騰するように湧き出てきた。
……そうだ。僕は
――この少女に、一目惚れをしてしまった。
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伊澄
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