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訓練場には、既に沢山の騎士達が集まっており私達が一番最後のようだった。
中には、私を見るなり睨みつけてくる騎士もいて、やっぱり歓迎されていないと改めて実感する。
(いいわよ、別に……)
私はそう思いつつも内心傷ついていた。
まぁ、仕方がないといえばそれまでなのだけれど。それでも、やはり少し悲しかったのだ。
「遅かったな、平民上がり。待ちくたびれたぜ」
と、先ほど私達に絡んできた男……この決闘の対戦相手の男がグランツの前にやってきた。
大きい態度に、私は苛立ちを覚える。
しかし、ここで何か言ったところで変わらないしグランツと私の評価を下げるだけだと必死に抑えた。
「決闘のルールは簡単だ、この剣を相手に当てた方が勝ちだ。勿論かすり傷でもだ。まあ、お前は何も出来ないだろうから、寸止めでもいいけどな」
「……」
そう男がルールを説明しおえると、周りの騎士達は皆笑い出した。
何が可笑しいのか笑えるのか全く分からず、私は不安をたっぷり孕んだ目でグランツを見た。
グランツは男を見上げてから、彼の手に握られていた剣に視線を落とす。それから、ゆっくり口を開いた。
「寸止め……ですか?」
「ああ、そうだ。まあ、心配すんなって。手加減してやるからよ」
男はニヤリと笑うと、グランツの肩に手を置く。
グランツは数秒、微動だにしなかったがはあ……と深いため息をついたと同時に男の手を払った。
「後悔しますよ」
「何だと?」
男が眉間にシワを寄せると、グランツは静かに続けた。
その声色は、今まで聞いたことがないくらい冷たく鋭いものだった。
私は、そのあまりの迫力に一瞬固まってしまう。
迫力……というよりかは、風がピタリとやみ静まりかえった夜の湖のような。冷たく深い雰囲気を、グランツは一瞬纏った。
それから、グランツはこちらを見て小さく微笑んだ。
「ここで、言い合っていても仕方がないので始めましょう。剣を交え、そして決着を付ける。簡単な決闘なんですから、余興も何もいりません」
「お前、俺がここまで気を遣ってやっているんだぞ……なのにッ!」
「騎士は強くなくてはならない。手加減は不要です」
グランツの言葉に、周りにいた騎士達がざわつく。
しかし、当の本人はそんなこと気にせず、ただ真っ直ぐ前だけ見ていた。
グランツの言っていることは、間違っていないと思う。
でも……
(手加減なしで戦ったら……どちらか死ぬかもしれない)
私は決闘といっても木剣で行うと思っていた。しかし、この決闘では本物の剣を使う。
剣を当てた方が勝ちなんて、一歩間違えれば怪我どころじゃすまない。あの銀色に輝く剣が堅くも柔らかい肌を滑り鮮血を……
そこまで考えて私は自分の身体が震えていることに気がついた。
死の恐怖を思い出してしまったからだ。
(余計なこと考えちゃった……でも、グランツは寸止めでもとか言われてたし、怪我……しないよね)
私はそう言い聞かせることでしか、自分を落ち着かせることが出来なかった。
「寸止めなど生ぬるいです。それとも、貴方は俺に剣を当てられることが怖いんですか?」
「……ッ! 上等だ!!」
煽られた男が、怒りをあらわにして大声で怒鳴りつける。
それに、騎士達も呼応するように「そうだ、そうだ」と騒ぎ立てた。
何故、グランツが相手を挑発したかは分からない。それは、彼なりの作戦なのかこれまでの鬱憤晴らしなのか……
しかし、今はグランツを信じるしかなかった。だって、私に出来ることは祈るだけだから。
そうして互いに距離を取り剣を構えると、審判役の騎士が手を振り上げた。
すると、決闘場に緊張が走る。
今から始まる決闘に、観客たちは息を飲みながら見つめていた。
しかしすぐにその緊張もとけ皆、あの男の騎士が勝つだろうと、これは見世物だというかのように笑っていた。
誰一人として、グランツに期待も勝ち目もないと思っているようだった。
その様子から、どれだけ彼が酷い差別にあってきたかわかり私は悔しくなった。彼は何もしていないのに……
そして、振り上げられた手が勢いよく下ろされた。
合図とともに、先に動いたのは男の方だった。
男は一気に距離を詰めると、剣を大きく横に振る。
グランツはそれを後ろに下がることで避け、そのまま反撃する。
しかし、男はすぐに反応し剣で防いだ。
ガキンッ! という金属音が響き渡ると、二人は睨み合いになる。
「貴方、聖女様なんですよね」
「え、まあ、そうですけど……」
騎士達に混じって決闘の様子を遠くから眺めていると、そこにいた男の一人が私に話しかけてきた。
私は、目の前で戦うグランツを見ることに集中したかったため話を聞き流そうかと思ったが、男はニヤニヤと笑いながら私を見てきたため、その鬱陶しい視線が気になり集中できなかった。
「何ですか?」
「いや? 貴方は、あの平民に賭けているのかと思って」
「勿論です。私の護衛になる騎士ですから」
私が即答すると、男の口角が上がる。
「ハハッ、無理無理。平民に聖女の護衛が務まるわけないだろ。それに、あんた本当に聖女なのか?」
嘲笑うように笑う男の言葉に、私の眉間にシワが寄る。
「髪の色も、瞳の色も違うって言うのに聖女だって言い張るのか? 笑えるな」
「……、信じてもらえなくてもいいです。別に、信じて欲しいと思ってないから」
男は、わざとらしく声を上げ周りの人達にも聞こえるように言った。
それは、私の神経を逆撫でするような言葉だったが、もう期待していなかった。
此の世界の人々の聖女に対する考え方や見方というものがはっきり分かってきたから。
グランツやブライト……私の世話をしてくれる使用人達が信じてくれれば私はそれでいい。
だから、グランツにはこんな人達に負けて欲しくない。
「グランツ――――ッ! 頑張れ――――ッ!」
私の声が届いたのかはわからない。だけど、グランツの動きが少しだけ良くなった気がした。
「クソッ! ちょこまかと!」
「………」
グランツは、相手を軽く転がすように男の攻撃をよけ、急所に当たりそうな部分は剣で弾いていた。
全て、的確に裁いている。
(よしっ、これなら……)
そう思った時だった。
「……ッ!」
グランツの肩を赤い何かがかすったのだ。
「えッ!?」
一瞬の出来事だったため、何が起こったか分からなかった。
だが、よく目を凝らして見ると男は片手で剣を握り、もう片方の手で火の玉を飛ばしていた。
それは、グランツの肩に命中し服が焼け焦げ、皮膚が爛れたのが見える。
(あれは、――――魔法!?)